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Prologue. ――九本目

 

「では、外出に行って参ります」

「はいはい。いつもすまないね」


 昼食休憩のあと、アメリーは職場の机から立ち上がった。上司である図書館長が、のんびりとした声で彼女を送り出す。



 アメリーが念願の王城図書館での職を得て約半年。

 城の敷地内のはずれにある第一図書館は、いつでも穏やかな空気が流れている。


 館長はアメリーの父より少し歳上で、細かいことは気にしない、悠然と構えた良いおじさま。それに図書館員が数名。


 王城勤務といえど、そういう華やかな響きにはあまり興味がなさそうな人たち。本に囲まれていれば幸せとか、研究大好きとか、我が道を大事にする者たちの集まりだ。

 皆自分の領域を大切にしながらも、仲が悪いということはない。程よい距離感で、協力しながら業務を行なっている。



 図書館の一画にある執務室にて、書物の管理や各方面からの調査依頼に応えること。それがアメリーたち図書館員の仕事だ。


 週に一度、アメリーは執務室を出てお使いに行く。

 城を出たところの商店で資料となる雑誌を買ったり、別の都市の研究施設に宛てた手紙を投函したり。そういった雑事は勤務歴が一番短い彼女の役目。

 特に急ぎの用事でなければ、それらはまとめて水曜日の午後にこなされる。




 ――よし、今日のお使いはこれで最後、と。

 メモを見ながら、アメリーは心の中で呟いた。通い慣れた商店を出て、速足で王城への帰路に着く。



 首の詰まった丈の長いワンピースに、編み上げのハーフブーツ。これが彼女の普段の服装。


 少し赤みのある濃い茶色の髪は、後頭部の低い位置で丸く纏めている。瞳は黄緑と茶が混ざったような、淡い褐色。目鼻立ちはすっきりとし、身長は平均女性に比べて少し高め。


 特に良いとも悪いともいえない平凡な容姿だ。そうアメリーは思っている。



 城に到着したアメリーは城門をくぐった。だがそのあと、彼女は真っ直ぐ自身の職場に戻ることはしなかった。

 彼女の足は、城内のさらに辺鄙(へんぴ)な場所、今はほとんど物置と化している第二図書館へと向かう。



 彼女が第二図書館の扉を押すと、それはギィっと鈍い音を立てて開いた。鍵はかかっていない。

 中に進むと円状の広間があり、周りはぐるりと本棚に囲まれている。


 その広間の中心、書籍閲覧用のソファーに人影が一つ。



「やあ、アメリー。待っていたよ」


 窓から差し込む逆光に、影を伴う彼の姿が浮き上がる。


 ゆったりとソファーに腰掛け、その肘掛けに置いた片腕で頬杖をつき。

 すっと通った鼻筋に、気怠いような午後の日差しが影を作る。それは彼の端正な顔立ちをよりくっきりと照らし出す。輝く金の髪は光の部分だけを受けて。

 瞳は琥珀に火を灯したような、珍しい(あか)。切れ長で少しつり目がちなその両目に帯びるは、幾許かの妖しさ、(あで)やかさ。



 物語から抜け出てきたかのように見目麗しい、しかし瞳に妖艶な()を携えた王子は、満面の笑みを浮かべてアメリーを出迎えた。



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