24話 席順!!!!!
「団長。準備はできていますので、予定通り馬車に」
玄関ポーチを出ると、待機していたラウルが声をかけてきた。
その後ろにひかえているのはロゼとモネらしい。
「あのふたりは騎馬でついてくるのか?」
俺とシトエンの馬車に乗り込むのかなと思って尋ねたのだが、ブーツに拍車がついている。腰のベルトにも鞭を差しているところを見ると騎乗らしい。
「そっちの方が使い勝手がいいでしょう。ぼくの手元におけるし」
ラウルがしれーっと言う。結局まだ姉妹に対して警戒を解かないのはラウルだけらしい。まあ、この用心深さがいいところでもある。
「ねーねー、あたしシトエンさまと一緒の馬車がいい!」
馬車に乗り込むためにアリオス王太子がメイルをエスコートしたのだが、急にそんなことを言いだした。
「え? わたし……ですか?」
言うだけではなく、すでにシトエンにぎゅうとしがみついている。
「……えっと……ですがわたしがルミナスのみなさまとご一緒すると……サリュ王子が」
シトエンは戸惑いながら俺を見る。
そう。
そうなったら、俺は馬車にひとりということになる。
「で、では五人一緒に馬車に乗ってはどうだろう!」
アリオス王太子が提案するが……。
たぶん「シトエン・メイル」でふたりがけした場合、「アリオス王太子・宰相・俺」がぎゅうぎゅうに三人座り、「メイル・アリオス王太子」がふたりがけした場合「シトエン・宰相・俺」でぎゅうぎゅうになる。
「しかしそれでは窮屈になりましょう。メイル嬢、警備のことがあります。あまりわがままを申されるな」
宰相が口を挟んでくれてほっとする。
「えー……。でもあたし、シトエンさまにいろいろ相談したいこともあるしぃ」
メイルが眉を下げ、抱き着いているシトエンを上目遣いに見る。
「女の子同士でしか話せないことってあるでしょう? 馬車だったら他の人にも聞かれないから悩み事も言えるし……」
そんなことを言われれば男三人、黙るしかない。
で、あるならば、だ。
女子ふたりを馬車に乗せ、男三人で別の馬車に。一台をダミーにして……。
ああああああっ! もうくそ!
席だよ!
結果的に今回、ずっと俺、席順で悩んでんだよ!!!!!
「ではわたしめが先頭のダミー用の馬車に乗りましょう。二台目はシトエン妃とメイル嬢、三台目にはアリオス王太子とサリュ王子がご乗車なさってはいかがでしょうか?」
宰相が申し出てくれる。
「いやしかし……」
俺はためらう。一応賓客だし、宰相。そもそも宰相クラスを接待もつけずにひとりで、なんてありえんだろう。
「ならば俺が騎乗で進もう。アリオス王太子と宰相閣下で乗車なさってはいかがか?」
「どうぞお気遣いなく。なにゆえ老体ですから少々疲れました。ひとりで乗れるのであればこれほどの接待はございません」
頬を緩ませてそう言われればどうしたもんか……。ラウルと顔を見合わせていたら。
「何を言う、宰相。そなたにはわたしの代まで仕えてもらわねばならぬ。これしきのことで疲れたとは言わせんぞ。メイルとシトエンが一緒の馬車に乗るのであれば、宰相はわたしと共に馬車に乗り込もうではないか。男同士、腹を割って話したいこともあるしな」
「これはこれは。王太子殿下の御代まで働けと。なんと過酷なことを申されるやら」
アリオス王太子も宰相も冗談めかして笑っているが……。
互いに思惑を探り合っているようでもあって、混乱しそうだ。
なんだよ、本当にルミナスって混迷を極めてんのか?
……だけど、宰相がなにを考えているかわからん状態でひとりにするのは危険だ。
少なくともアリオス王太子は俺たちの味方っぽいし。同乗させるほうがいいかもしれん。
よし。
「俺は騎乗する」
「承知」
ラウルに小声で伝え、それからみなに向き直る。
「予定外ではありますが、俺は騎乗でついて行きます。一台目は宰相とアリオス王太子殿下、二台目はシトエンとメイル嬢。三台目をダミーに……」
「一台目など畏れ多い。王太子殿下、われわれは最後尾でかまいませんな?」
宰相が口を挟んでくる。アリオス王太子の片方の眉がぴんと跳ね上がり、なにかまた言い出しそうで厄介だ。
「わかった! ではアリオス王太子と宰相の馬車は最後! 一台目をダミー! 決定!」
俺は大声で団員に命じた。
「全員、騎乗! 準備出来次第出発する!」
今度からこんな接待行事は全部長兄に押し付けてやる!!!!




