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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
3章

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20話 長兄、怖ぇ……

「ってことはやっぱりシトエン妃を狙っているのはルミナスの誰か」


 ラウルは言うが……。

 モネはともかくロゼは随分と納得いかない顔をしている。


 もともとこいつらはシトエンの命を狙う暗殺集団の一員だった。それなのにこの武器に不審そうな顔をするロゼ。


 ということは。

 今回の賊とシトエンを狙うやつらは別なのか?


「……いまはメイルを狙うやつもいるからな」

「そっちじゃない? だったら放っておけばよかったね、お姉ちゃん。追うだけ損しちゃった」


 あっさりロゼはそんなことを言い、モネは無言でスルーしている。


「ってかさ、メイルって守んなきゃいけないの? 一番に捨てたいんだけど」


「ロゼ、これはお仕事よ。だけどね、なにごとにもうっかりってことはあるから。シトエン妃が最重要だからうっかり忘れちゃうことはあるわねぇ」


 吐き捨てるように言うロゼを、モネが全然とりなしていない。

 俺は思わず吹き出して笑ったものの、モネからハンカチごと戦棍メイスを受け取る。


「とりあえず、長兄に報告だな」


 近くの騎士に声をかけ、モネとロゼを含めて五人組にして外を中心に警備に行くように伝え、俺はラウルと共に再び室内に戻る。


 高音の笑い声に視線だけ向けると、メイルとシトエン、ユリアがソファセットに座ってにぎやかに会話をしている。


 俺の動きに気づいたシトエンがもの言いたげな顔を見せたが、すぐにメイルになにか話しかけられて笑顔で対応する。


 長兄はどこだと見回すと、宰相、アリオス王太子の三人で部屋の隅に設置されたカウンターバーに移動している。たぶん、俺が抜けたから女性陣、男性陣に分かれたのだろう。それでソファ席を譲ったらしい。


 三人はカウンターに身体を預けるようにして、銘々グラスを傾けている。


長兄上あにうえ……じゃない、レオニアス王太子殿下。警備上のことでちょっと」


 そっと呼びかけると、長兄は無言で振り返る。俺とラウルの表情を見て感じるところがあったのだろう。席を外そうとしたのだが、すっとアリオス王太子が身体を滑らせてくる。


「メイルやシトエンに関わることならば、ぜひわたしも立ち会わせてほしい。だめだろうか」


 俺の目を真っ直ぐに見て言うもんだから……。

 長兄に判断を仰ぐことにする。


義妹シトエンのこともありますが、そちらも婚約者殿がご心配でしょう。サリュ、なにがあった。ここで報告せよ」


 相変わらず長兄は表情を変えない。だが許可は出た。宰相もアリオス王太子の後ろにひかえながら、聞き耳は立てているようだ。


「先ほど異変を察して俺の騎士団員が賊を追いました。一時は捕獲したようですが取り逃がしまして」

「申し訳ありません」


 ラウルが頭を下げる。長兄は首を横に振った。


「かまわん。よく撃退した。で?」

「その賊が落としていったもののようです」


 俺は手に持っていた戦棍を皆の前に差し出す。

 途端にアリオス王太子が息を呑み、宰相が表情をこわばらせる。


「……戦棍のように見えるが」

 しばらく誰も口を利かなかったが、長兄が口火を切る。


「確かに。……わたしの国特有の武器です」


 苦みを堪えた表情でアリオス王太子が言う。ふと見るとその拳はきつく握りしめられ、細かく震えていた。


「わたしがシトエンに対して行ったことは恥ずべきことであり、国を危うくしたことも重々承知しています。謝罪式が滞りなく実施されたことですべて水に流せるわけでもないことも」


 何故だろう。

 アリオス王太子は俺と長兄に対して話しかけているのに。


 その声は。

 背後にいる宰相に聞かせているようだった。


「だからわたしがすべきことは、愚直に実績を積み重ねることだと。そうやって失った信頼を回復することだ、と。此度のこともきっとわたしやメイルに纏わることなのでしょう。せっかくわたしを受け入れてくれたティドロス王国でかような迷惑事を……。誠に申し訳ありません」


 アリオス王太子が必死な顔で俺と長兄に言う。


「すぐに本国に連絡し、警備の増援を依頼します。ティドロス王国にご迷惑をかけるような……」


「いやすまん。俺の警備計画が少し甘かった。未然に防げたのは俺の騎士団が優秀だったからだ。かように心を煩わせて悪かったな、アリオス王太子。増援の申し込みは助かる。ぜひよろしく」


 気づけばそんな風に言ってアリオス王太子の言葉を遮っていた。

 呆気にとられたようにぽかんと俺を見るあいつに頭を掻いて見せ、ラウルに言う。


「メイル嬢に危険が及ばなくてよかった。ナイス判断だ、ありがとう」

「……いえ、こちらこそ取り逃がしまして……」


 ラウルは『人がいいんだから、もう!』という顔をしてはいたが、この場は俺に合わせてくれるつもりらしい。


 おまけに長兄まで言葉を差し挟んできた。


「ルミナス王国とティドロス王国は隣国同士。なによりわたしやサリュの母はルミナスから嫁いできております。いわば我々は親族ではありませんか」


 長兄は少しだけ目を細めた。その瞳にいたわりの色が滲んでいて感動する。

 あんた……そんな演技ができるひとだったのか……っ。


「アリオス王太子の敵は我々の敵。なあに、この国にはティドロスの冬熊と呼ばれる猛獣おとうとがおります」


 ふふ、と長兄が笑う。


「害がシトエンにまで及ぼうものならかみ砕き、完膚なきまでに駆逐することでしょう。泰然とご覧あれ」


 見ていたらひやりとするような笑みを浮かべて長兄は言う。


 アリオス王太子は無言のまま頭を下げた。


 その背後で。

 宰相もゆったりと頭を下げる。


「なんという勿体ないお言葉でしょう。ティドロス王家の皆様方の寛大なお心に、言葉もございません」


「なにをおっしゃる。アリオス王太子殿下が誠意を見せてくださっているからですよ、なあ、サリュ」


 これさ、アリオス王太子も宰相も頭を下げてて長兄の顔を見てないからあれだけど。


『これでうちの優位を確保した!』ってドヤ顔してるの、どうかと思うんだよなぁ……。


「誠にそうですね」

 俺はそう言いながら、長兄って怖ぇ、と改めて思った。



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