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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
3章

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15話 王太子妃の現実

「アリオス王太子! もう陛下には挨拶を⁉」

 これ以上メイルに余計なことを言われる前に、先手を打つ。


「ああ。先ほど拝謁をさせていただいた。謝罪式にサリュ王子とシトエンを遣わしてくださったこと、重ねてお礼を申し上げたところだ」


「そうか。このあとはティドロスの王太子夫妻が夕食会を開く。謝罪式のことはひとまずおいておいて、どうか料理を堪能してほしい」


「ティドロスの料理はもちろん楽しみだが、わたしとしては王太子御夫妻にお会いできるのがなにより嬉しい。互いに今後の国を率いる立場であるからな。ぜひ様々なことをご教示いただきたいものだ。サリュ王子からも口添えしていだけるか?」


「それはもちろん」


 と返事をしながらも、俺は心の中で猛烈に感動している。


 普通に会話ができることに!!!!


 やっぱメイルは変だって! お前、よくあんなの嫁にする気だな! その勇気に乾杯だよ!


「メイル嬢は随分とティドロス語を学習なさったのですね。すごいです」

「大変だったんですよぅー! シトエンさまぁ!」


 だからシトエン、優しすぎるんだって! 

 話しかけるんじゃないっ、と思っているのにメイルはバタバタとその場で足踏みをする。やめろ! 埃が立つだろ!


 そこから延々とメイルは「ルミナスの家庭教師が厳しい」ということを涙ながらに訴え、シトエンはひたすら聞き役に徹している。


 俺はハラハラしながらも執事長が案内した客間に皆を案内し、ソファや椅子に座るように声掛けを行った。


 のだが。


「……ラウル」

「はい……。わかります」


 ……なんかこういうの。


 普通は「アリオス王太子・メイル・宰相」「俺・シトエン」と別れて座ると思ったんだが……。


 メイルがにこにこしながらシトエンと腕を絡ませて隣同士に座るから、男同士なんとなくしばらく座る席を巡って無言で探り合う。


 ……これは。

 男三人横並びでソファに座る……の……か。


 いやしかし。それだとどうやって会話をすれば……。ってか、なんか向かい合わないとそういうの話しにくくね?


 しかもその場合、三人の真ん中、誰。


 俺? 

 え。俺? 俺、アリオス王太子と宰相に挟まれて座るの? 

 それで夕食会まで会話するの? 会話回すの?


 無理!!!


 かといって、俺・アリオス王太子・宰相の並びだと、宰相ずっとひとりじゃね⁉ 屋敷はいってからずっと無言だけど、こっからもずっと無言になっちまうぞ⁉


 目まぐるしく席順について考えていたら、ラウルが執事を動かして三人掛けソファを撤去。ささっとひとりがけのソファを用意し直し、テーブルを中央に半円に配置してくれたから事なきを得る。


「て、手間取って悪かった。どうぞどうぞ」

「いや、こちらこそ」

「いたみいります」


 アリオス王太子と宰相が恐縮しながら座るのを確認し、俺もほっと椅子にかける。


 ふとシトエンと視線が合う。シトエンは眉尻を下げ、声は出さずにタニア語で「お疲れ様です」と申し訳なさそうに言ってくれた。


「あれ? イディは?」


 執事長と執事、メイドが退席したあと、メイルがきょろきょろと室内を見回した。

 部屋には俺とアリオス王太子、宰相、メイルとシトエン。

 それからラウルと男装しているロゼ、モネの三人が部屋の隅に待機しているだけだ。


「イディはここにいないの?」


 なんだか不安そうにメイルが目を揺らしてシトエンの手を握っている。シトエンはその手を握り返してやりながら、そっと尋ねた。


「イディさんというのは?」

「侍女なんだけど……」


「ああ。侍女や従者はイートンが……シトエンの侍女が別室で接待をしている」

 俺が説明を加えると、メイルが落ち着かなげにシトエンに身を寄せた。


「すまない。メイルの母親代わりのようなものだから……。メイル、大丈夫だ。ここは安心だ」


 俺に声掛けをしてから、アリオス王太子はメイルを落ち着かせるように微笑みかける。


 俺は壁際のラウルと目を見交わす。

 メイルは狙われている。

 それは本当で、本人もかなり自覚しているようだ。


「ここには騎士が三人いるから大丈夫だ」


 俺もそう口添える。

 さすがに可哀想だなと思ったのだ。


 ある意味王族に生まれたらその瞬間から暗殺はつきまとう。


 利害関係や王位継承。自分の血筋にまつわるなにかが誰かの害になると思われたらそれでアウト。だからこそ血族同士結束を固めるか、自己完結するか、だ。


 メイルはきっとそんなこと思わずに夢見ていたのだろう。

 大好きな王太子は、国が決めた婚約者を捨ててまで自分を選んでくれた。


 まるで物語のような恋愛。


 だがその先にあるのは。

 暗殺や醜い権力闘争。


 そんなこときっと想像もしなかったに違いない。大好きな王太子と結婚し、愛しい子を産んで、幸せな家庭を築く。


 そんなことだけを願ったのだろうに。


 現実は違う。

 厳しい王太子妃教育、命を狙われる緊張した生活。

 ようやく夢から醒め始めた。そんなところなのだろう。


「ここにいる騎士は、いずれも俺が認めた者ばかりだ。まぁ、ひとりはまだ見習いだが、腕は確か。口も堅い。安心してくれ」


 ちら、と視線を待機しているラウルたちに向ける。ラウルが目礼したので、続いてロゼとモネもそれを真似た。


「きゃあ♪ ティドロスの騎士様はみなさん素敵! 役者さんみたい! もっとカッコいい服を着ればいいのに! あたしが選んであげましょうか⁉」

「いや、結構!」


 がぜん息を吹き返したメイルに、俺は即座に答える。

 心配してやって損した!!


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