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5話 似合っているよ、シトエン

「なので、その。わたしは自分でとてもいいな、と思ったんですけど。でもなんというかわたしには大人びすぎたかなと反省したり後悔したりしてて……。その」


 もじもじとシトエンが俯いて言う。


「え? ん? なにが」

「その……今日、買った……ランジェリーが……」


 顔どころか。

 ノースリーブのネグリジェから出ている両腕や首まで真っ赤にしてシトエンが言う。


「本当は旅行まで待とうかな、と思っていたんですが、なんかサリュ王子のなかで期待値が上がってて、当日がっかりしたらどうしようかと……」


「がっかりなどするものか!!!!!!」


 両こぶしを握り締めて断言したのに。

 シトエンはすっくと両膝立ちになり、胸元をしめるネグリジェのリボンをするりと解いた。


 ひとつ、ふたつとボタンを外すと、ネグリジェの右肩だけがすべり落ちてシトエンの肘辺りで中途半端に止まる。


「あの……こんな感じのなんです」


 リボンを解き、ボタンをいくつかはずしたせいで、ネグリジェがほとんど脱げかけている。


 それを阻止するようにみぞおちあたりでシトエンは握りしめていた。


 目の前にあるのは、シトエンが新しく買ったとかいうやつで。なんかキャミソールっぽいやつだった。


 細い肩ひもには金色の金具がついていて、全体的にはふんわりとやわらかそうな絹の生地。そこには金糸で刺繍がされているのだけど。


 その……っ。

 かなりのけ感で……っ!


 肌が……。

 布地の向こうにシトエンの肌や胸が透けて見えて……っ。


「ひゃあ!」

 シトエンが小さな声をあげる。


 気づけばシトエンをベッドに押し倒していた。


 組み伏した真下には真っ赤な顔のシトエン。

 いつの間にか束ねていた髪はほどけて、ベッドに銀糸のように広がっている。


「すっごく……似合ってる」


 そう言うと、シトエンはゆっくりと一度だけ瞬きをし、ふわりと微笑んだ。


「よかった。わたしも気に入っているんです」


 正直、語尾はほとんど聞いていなかった。

 なんかもう、理性がほぼ吹っ飛びかけて。


 唇を重ね、緩く噛むとシトエンが淡い吐息を漏らす。そのまま舌を絡ませて、シトエンの肩ひもに指をかけた。


 触れた瞬間、ぴくりと身体が震えたのだけど。


 すぐに彼女の両腕が俺の首に回る。


 白い彼女の首にキスを落とすと、くすぐったそうに笑って。


 彼女の右胸。

 胸のふくらみの際あたり。


 そこまでキスを落とすと、ふと目に入ったのは。


 竜紋だ。


 小指の爪ほどの大きさをしていて、花弁のような形のものふたつ。双子星のように並び、アクアマリンと同じ色をしている。


 そっとキスをした。シトエンの震える吐息を感じる。

 左手でもう片方の肩ひもを外して……。

 


 ………………。

 


 異変に気付いた。


 というのも。

 シトエンの腕がパタンと俺から離れて。


 こう……。なんていうのかな。


 さっきまで。

 ほんとつい数秒前までは、甘い吐息を漏らしていたんだけど……。


 シトエンの呼吸。


 定期的に、くすー、くすー、と聴こえるこれは……。

 寝息ではないのか……?


「シトエン?」

 ふと顔を上げ、組み伏した彼女の顔を見る。


「………………くぅ!!!!!!!!」


 俺は思わす目をつむり、シトエンを押し倒したままシーツを握りしめて呻いた。


 おやすみに……なられている……っ!


 酔っぱらったら眠るタイプか、シトエン! まじかシトエン! ここで寝るか!


「シ……シトエンさぁん……」


 そっとだけ呼びかけてみるが、彼女はあられもない格好のまま、長い睫を伏せて軽やかな寝息を立て続けていた。


 ………なんというか。

 その寝顔を見ていたら苦笑いが浮かぶ。


 瞳を閉じたその顔は。

 非常に満足そうで。

 口元には笑みが残ったままで。


「似合っているよ、シトエン」


 もう一度伝えてから、シトエンのキャミソールとネグリジェを整えてやる。

 リボンの結び方がちょっとうまくできなかったが、そこはご愛嬌ということで。


「よいしょ」


 背中に両腕を入れてシトエンを抱え上げ、ベッドの中央に運ぶ。


 今夜はここまで。

 枕の位置を確認し、彼女の隣にごろんと横になる。


 俺も眠るしかない。


 無、だ。無になるんだ俺。

 続きはまた明日、だ。




 ま。

 正直なところ眠れるのかなとは思った。

 さっきまでその……あれだ。夜の営みをやる気満々だったし。


 眠れなかったら部屋を出てぶらぶらしよう。


 そう考えていたのだけど。

 やはり公務で疲れていたのか、眠りは早かった。


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