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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
2章

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31話 満月の夜

◇◇◇◇


 その日の晩。

 シトエンを横抱きにして、階段前に移動する。


 警備の団員がくすり、と笑みを浮かべつつも静かに敬礼してくれた。


 胸元では、くすー、くすーっと静かな寝息が聞こえていて、俺も苦笑が漏れた。

 日中プールで遊びすぎて疲れたらしい。


 ヴァンデルが連れてきた「僕の一押しシェフ」の食事を堪能し、庭を見ながら男どもは酒飲んだりポーカーしたりして。


 女性陣はしばらくお茶飲んできゃっきゃ喋っていたと思ったら、イートンが困り顔で寄ってきた。


『お嬢様が眠ってしまわれて』と。

 見ると、ソファでロゼともたれあって眠ってしまっている。


 そこでなんとなくお開きの感じになり、俺はシトエンを抱えて二階の寝室に移動中というわけだ。


 寝室としてあてがわれた部屋まで行き、ドアノブを掴もうとシトエンを抱え直す。


「ん……?」

 腕の中で小さな声が漏れる。しまった、揺すり上げすぎた。シトエンが目を醒ましてしまった。


「まあ……。ごめんなさい、わたし、眠って……」

 慌てて降りようとするから、そっと床に下ろした。


「お開きになったところなんだ」

 そう言って、扉を開けた。


 てっきり。

 真っ暗か、あるいはランプの淡い灯しかないと思っていたのに。


 想像以上の光量が室内に満ちている。


「わ……あ」

 シトエンが小さな歓声を上げた。

 俺もしばらく茫然とそれを見た。


 満月だ。

 入り口と真正面になる壁にとられているのは、大きな窓だった。


 壁全部が窓になっているらしい。

 カーテンは開けられていて、そこには大きな満月があった。


「すごい……」


 シトエンが小走りに窓に近づき、ガラスに手をついて子どものように見つめている。


 そういえば、王太子が『夜空が綺麗だ』と言っていたが……。こういうことか。


 俺も部屋に入り、扉を閉める。

 夜空を眺めながら、ゆっくりと窓に近づいた。


 雲一つないからか、満月の光が隅々にまで届いている。

 別荘を取り囲む木立の葉までか濡れた様に光っていた。


「眩しいぐらいだな」

 シトエンの後ろに立って話しかけた。


「ええ、本当に」

 彼女は嬉しそうに頷いた。


 なぜだかわからないけれど。

 満月を見上げるシトエンを見ていたら。


 そのまま月光に溶けて透けて……。俺の側から消えてなくなるんじゃないか、というそんな恐怖に襲われた。


 守らなくちゃ。シトエンをかばわなくては。


 だけど。

 そのために。

 もし、自分が死んでしまったら……。


 いなくなったら……。


 どうしたらいいんだろう。

 シトエンを誰が守ってくれるんだろう。


 そんなことばかり、考えてしまう。


「サリュ王子?」 


 だから。

 気づけばその小さな身体を抱きしめていた。いや、正確にはしがみついたのかもしれない。


 小さな……本当に小さなころ、大事にしていたぬいぐるみが燃えてなくなる夢を見て……。目覚めてすぐ、あわててそのぬいぐるみをしっかり胸に抱えたときの感じに似ていた。


 この腕の中に囲っていれば絶対大丈夫。

 根拠はないけどそれだけを信じて、俺はしっかりとシトエンを腕の中に閉じ込めた。


「どうしたんですか?」


 不思議そうなシトエンの声。

 そっと腕の力を緩めると、ゆっくりと俺の方を振り返る。


「なんでもない」


 笑って見せたものの、ぎこちなかったかもしれない。だけどシトエンは何も言わず、微笑んだまま、ふたたび窓に向かいあう。


 月光を浴びながら満月を眺め、ふふ、と少しだけ笑った。


「なんだか、静かすぎるなぁと思ったら……。わたしたち、ふたりきりでした」

 俺に背中を預け、顎を上げる。愛らしい顔がそこにあった。


「公務、もう終わったんですね」

「あ。本当だ」


 我に返る。


 我に返ると同時に……。


 腕の中のシトエンがいままで以上に愛しく感じた。

 腰まで伸びる艶やかな銀の髪も、月光を浴びて潤んだような白い肌も。満月をみつめる紫色の瞳も。


 この俺が触れている間は、確実にここにあって。

 彼女のぬくもりが伝わってきて。


 それが。

 シトエンも俺のことを好きなんだと感じられるようで。

 引き寄せられるように、その白いうなじに口づけを落とす。


「ん……」


 シトエンがくすぐったそうな声を漏らしたが、うなじから背中にかけてキスを続けた。


 今着ている衣装は、背中が大きく開いていたのだけど。

 彼女の身体に回していた腕を解き、ホックを外す。

 するり、とドレスが床に流れる。


「ひゃ……。ちょ……。待って……」


 シトエンが慌てて胸の前でドレスをかき抱くから。

 彼女を横抱きにしてベッドまで運ぶ。


「公務は、終わったんだよな?」


 ベッドに仰向けに横たわる彼女におおいかぶさり、尋ねる。


「……終わり……ましたよ?」


 シトエンは相変わらず、半分脱げたままのドレスを胸の前で抱きしめている。


 ただ。

 そっと目を閉じるから。

 俺は彼女と唇を重ねる。


 何度も何度も重ね、甘くゆるく唇を噛むと、吐息を漏らしてシトエンが唇を開く。そっと舌を入れて絡め合う。


 そのころには彼女の両腕が俺の首に回っていて。

 だから、シトエンの鎖骨に触れ、そのまま肌に掌を滑らせる。


 やわらかく、温かい彼女の胸に触れると「あ」と声を漏らしてシトエンが俺から唇を離し、身体をよじらせる。


 俺はそんな彼女を後ろから抱き留めた。胸に触れ、その背中に唇を這わせた。


 シトエンがとろける声を上げ、ただただ、今晩はずっとその声を聞いておきたくて……。


 俺の唇がシトエンの身体にくまなくキスを落とし、シトエンの吐息と切ない声が俺の身体を甘くるみ……。


 シトエン、シトエン。

 ずっとずっと。俺の側にいてほしい。

 そのためには俺の命を捧げたっていい。


 そう思いながら、彼女の身体を愛撫し、キスを繰り返し、きつく抱きしめる。


 彼女はその晩、何度も達して、俺はそのたびに、くらくらするような感覚に酔った。


 その緩い酩酊感の中、ずっと願ってきた。


 側にいて欲しい。笑っていて欲しい、と。

 ずっと俺の腕の中で大事にするから。


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