20話 犯人の目的
一時間後。
ラウルに包帯を巻かせていたら、シトエンはまだ眠っている、とイートンがやって来て教えてくれた。
咳き込みすぎたのか、時折喉が痛そうなそぶりを見せるらしいが、それ以外は非常に安定しているらしい。
自室だし、と俺が上半身裸のまんまでいたからか、イートンはそれだけ報告をすると、そそくさと帰ってしまった。
「警備の隙をついての侵入のようですが……」
俺の手当を終えたラウルが、ベルトに挿していた報告書を引っ張り出し、読み上げる。
団員たちの報告によると、「こんなところからは来ないだろう」との思い込みと、手薄な箇所を狙って侵入したらしい。
「シトエンが無事でよかったものの……」
俺は苦々し気に呟く。
「下手したら溺死だぞ」
「溺死を狙うって……変ですよね」
ラウルが報告書を丸めて自分の首元を叩いている。
「ん?」
俺は椅子から移動し、ベッドにごろりと寝転んだのだが、もの言いたげなラウルに気づいて目だけ動かす。
「だって、手甲鉤してたんでしょう? だったら、溺れさせないでザックリ殺しちゃえばよかったんですから。どう考えても、溺死にみせかけたかったってことでしょう?」
「なんのために」
「さあねぇ。ただ、〝殺害された〟っていうより、〝事故死〟ってほうがみんな平和な気はしますね」
「平和ってなんだよ。シトエンが死ぬのに」
いや、そんなこと俺がさせないが。
「だって、殺されたら犯人捜さなきゃいけないじゃないですか。この状況でシトエン妃が殺されたら……。そりゃあ、うれしいのはルミナス王国では?」
「でもルミナス王国だってシトエンが死んだら困るだろう。そのシトエンに許してもらわなきゃいけないんだから。だいたい、いまさらなんでルミナス王国がシトエンを殺そうとするんだ」
「いろいろあるんじゃないんですか? で。シトエン妃が、自然に死んでくれたらなぁ、って思っている人たちが暗躍している、とか」
「はあ?」
眉根を寄せて唸るが……。
まあ、ありそうな話ではあるよな……。否定はできん。
「襲撃者はどんな感じのやつでした?」
ラウルが尋ねる。
仰向けにベッドに転がった状態で、おもいつくままに口に出す。
「襲撃者はふたり。シトエンを溺死させようとしたやつは黒ずくめ。覆面もしていたから顔はわからん。身長はラウルぐらい。もうひとりはたぶん、石灯篭の影にでも隠れていたのかしっかりとは見ていない。ナイフを投げてきた。黒ずくめのやつは攻撃する時は手甲鉤を使用。腹には防護的なものを巻いていた。で……」
「で?」
黙って聞いていたラウルが不思議そうに首を傾げる。
「なんか……細かったんだよなぁ」
「細い?」
「そう。温泉の中に黒ずくめの野郎が入っていたからあれだけど……。ぴたーっと濡れて服が張り付いてんだよ。服が。だから体の線がわかるんだけど。細いんだよなぁ」
「……女ってことですか?」
「わからん。少年の場合もあるしな」
だけど、なんでそんな年端もいかないやつを使うのかはわからんが。




