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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
2章

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18話 お……怒られた……。

◇◇◇◇


 数時間後、入浴の準備ができたというので、シトエンとイートンが使用している部屋に向かった。


 ドレスや小物一式が決まり、採寸も終えたモネとロゼが『それでは衣装は王宮にお届けさせていただきます』と屋敷から出たあと、どっと疲れたのかイートンは寝込み、シトエンは『温泉に入ってゆっくりしたいです』と俺に申し出たのだ。


 時間は夜。

 深夜というほどではないが、昼間ほど視界がいいわけじゃない。


 一応見回りと、危険物がないかのチェックを行い、団員を配置させてからのシトエンの入浴だ。それが終わるまで、部屋で待っていてくれ、と伝えるとシトエンは『ありがとうございます』と自室に下がって行ったのだった。


「シトエン。準備ができたぞ?」


 ノックを三回したあと、そう声をかけると「はい」とすぐに返事があり、着替え等を入れた布包みを持ったシトエンが出て来る。


「イートンは?」

「まだ疲れているようで……」


 シトエンは苦笑していた。ユキヒョウとの闘いが相当なものだったと思われる。だがよくやった。おかげでシトエンは無事だ。


「ロゼちゃんの方はどうでした?」

 横開きの扉をきちんと閉め、シトエンは胸の前で布包みを抱えて歩き出す。


「ラウルとケンカして大変だった」

「まあ。わたしの方も、モネさんとイートンが言い争いを始めて」


 小さく肩を竦める姿が可愛い。


「とにかく、温泉に入ってゆっくりしてくれ。今日は晴れているから、夜空が見えてキレイじゃないかな。俺は男湯の方で待機してるから、何かあれば声をかけてくれたらいい。ほかにも警備はいるから」


 安心してもらおうと説明をすると、シトエンは顔を赤くして、もじもじし始める。


「あの……」

 それからおずおずと上目遣いに見上げた。


「なに?」

 と言いながら、ふと頭によぎったのは、ロゼの『一緒に入る?』という言葉だ。


 も……もしかして。


 え。

 誘われる? 

 俺、誘われてる⁉


 いや、待て!!!!!!

 俺が誘った方がいいのか!!!!!?????


 どっちだ!!!!

 誰か教えてくれ……っ!!!!


 誘われる方がいいのか、誘った方がいいのかっ!!!!!


 誘うべきなのか!!!!????

 ここは男から声をかけるべきなのか!?!?


 そ……そうかもしれん。言う方がいいのかもしれん。


 頭の中で目まぐるしくシミュレーションする。

 シトエン。俺と一緒に温泉に……。


「この温泉がどうして王家所有だったのか……父に聞きました?」


 ぜんっっっっぜん、違った!!!!!!

 やっべー! 俺、ギリセーフ!!!! 言わなくて、ギリセーフ!!

 まだ、公務中ですよっ、とか言って叱られるところだった!!!!


「いや……聞いてないけど」


 冷や汗だらだらで答えると、シトエンはぎゅっと布包みを抱きしめ、身体を小さくさせる。


 ん、なんだ、どうした。


「その……代々王妃様がたがお使いになるようなのですが……」

「先代の王妃が、というのは聞いた気がする」


「温泉にはそれぞれ効能というのがありまして」

「知ってる。肌がきれいになる、とか。馬も元気になるって」


 なんかシトエンの顔がどんどん赤くなり、それを隠すように布包みが上がっていく。


「それだけじゃなく、こちらの温泉、子宝の湯だそうで……」


 ぽかんとしてしまったのは、「子宝」というのが一瞬理解できなかったのと……。


 は? 馬が元気になるんじゃないのか? 〝馬並み〟に元気になるってこと? って勘ぐったりとか。肌がきれいになるって、え。そのために? とか。


「父からだけではなく、タニア王からも……その、しっかり励めと言われてしまって……」


 最早語尾は何を言っているかわからないし、なによりシトエン、それ絶対前が見えてないだろう、っていうぐらい、布包みに顔を押し付けちゃっている。


「だからあの年齢のおじさん達って嫌いなんですっ! すぐそんなこと言いだしたりするんだから……っ。デリカシーがないというかなんというか……っ! 特にうちのお父様なんて、本当にもう、帰国してからこっちずっと余計なことばっかり……っ!」


 珍しく語気を荒げてシトエンがバリモア卿のことをなじるもんだから、なんとなくこれはフォローしなければと焦る。


「いや、舅殿もいろいろお考えがあって……」

「考えなくていいことを考えているから腹が立つんですっ」


「じゃ……じゃあ、俺頑張るから! バリモア卿やタニア王に心配されないように!」


 勢い込んで言うと、シトエンが、がばりと布包みから顔を離す。

 温泉に入る前だというのに、ゆでだこのような顔色で俺を睨みつけた。


「まだ公務の最中です! なにを頑張るんですかっ。もう、信じられませんっ」


 お……怒られた……。俺、バリモア卿とタニア王を庇ってシトエンに怒られた……。


 愕然としていたら、足早にシトエンが歩き去っていく。


 あわわわわわ、とその後をついていくのだが、シトエンは振り返ることもなく、一目散に女湯の方に入ってしまって、鼻先でぴしゃりと扉を閉められてしまった。


 ああああああああああ……。シトエンが怒っている………。


 小走りになって男湯の方に入る。


 夜だ。

 昼間ロゼと一緒に観た時とは雰囲気がまるで違う。


 周囲は薄暗がりに包まれていて、ただ、石灯篭が放つ橙色の明かりだけが周囲を照らしている。


 基本造りは女湯と同じだ。左右反対になっているだけ。

 あと、脱衣所と温泉部分を遮る几帳がない感じかな。あるっちゃあるけど、几帳、2個ほど。


 だから、温泉の側にしゃがみこみ、物珍しそうに中を覗き込んでいるラウルの背中がすぐに目に入る。


「ラウル……っ!」

「団長……って、どわあああっ! あっぶ……危ない! 落ちるかと思ったっ!」


 いきなりラウルに背後から抱き着いたら、勢い込んでそのままふたりして温泉にダイブするところだった。


 寸前のところでラウルが俺をおんぶするような形で造形用の御影石にしがみついて防いでくれたらしい。


「ラウル……。シトエンに嫌われた……」

「なにいってんですか。団長が好かれる方がいままで不思議だったんですよ」


「さらっとなに酷いこと言ってんだお前」

「なにしたんですか」


「ここ、子宝の湯らしい」

「……はあ」


「で、シトエンがバリモア卿やタニア王に『あの世代のおじさんってすぐそんなこと言いだしたりする』って怒るから、『バリモア卿やタニア王に心配されないように、俺、頑張る』って言ったら……」

「あんた、あほでしょう」


 奴の背中にしがみついていたんだけど、呆れたような声が降ってきて顔を上げる。

 ラウルは俺に背中を貸したまま、首だけねじって残念な子を見るような目で俺を見降ろしていた。


「なんでそんなこと言うかなぁ」

「俺はバリモア卿とタニア王を庇ったんだぞ!」


「庇ったり気遣う相手はシトエン妃の方でしょうよ。まあ、とにかく温泉出たら、ちゃんと謝ったらどうですか? で、とにかくいまは、お隣に気を付けて。ほら、ご入浴中ですよ」


 よいしょ、とラウルが立ち上がるから、俺も引っ張られて、立ち上がらざるを得ない。どれーん、と、それでも背後霊のようにもたれかかっていたら、ちゃぽん、と水音がした。


 いや、正確には水じゃなく湯の音だ。

 ラウルから離れ、隣を遮る竹垣を見た。


 当然だけどなにも見えない。

 俺の背丈より大分大きな遮蔽物が夜の闇に混じってそびえたつ。湯気だけが、ほわほわ風に漂ってこちらまで届いていた。


 ざざっと湯が流れる音がし、とぷん、と身体が沈み込む音がする。


 シトエンが湯に入ったらしい。

 それ以降、なにも聞こえない。




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