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12話 宴会の余興

 その後、謁見室はあれよあれよとばかりに宴会会場になった。

 椅子が取り払われ、絨毯が敷かれ、クッションが並べられる。


 シトエンの隣にちょこんと座り、俺の隣には緊張しまくったラウルが座る。


 座るといっても座り方すらわからん。とりあえず胡座したらいいみたいだが、シトエンはタニアの服じゃないから大変そうだ。ほら、スカートの中にパニエが入っているから。イートンがやってきていろいろ裾をさばいてくれているが……。なるほど、だからこっちの国の人の服ってあんな風に、すとん、としてるわけだ。


 俺は俺で、タニア王との謁見だから刀なしでここにきているのだけど……。これ、佩刀していた場合はどうやって座るんだ。


 なかなかに興味深く周囲を見回していたら、絨毯の上にさらに敷布が広げられ、大皿に盛られた料理がどんどん運ばれてくる。酒だってそうだ。甕に入ったものや瓶に入ったもの、それから色とりどりの果物。


 そのあとに入ってきたのは、たくさんの女たち。

 いずれもがシトエンの友人や親族らしく、あっという間にシトエンは取り囲まれ、彼女たちに連れ去られた。


 そうやってシトエンが俺たちから離れたら……。


 俺とラウルは、ぽつんとふたりぼっちだ。


 周囲は知り合いばっかりだから、わいわいがやがや楽し気にやっているが、内輪の話や過去の笑い話が主なもので……。


 話に入っていけん! 孤独だ!!!!


「……あれだな。よくほら、親族が集まる中で嫁の居場所がないとかなんとか言うけど……」

「身をもって知りましたね、団長……。ぼく、嫁を貰ったら参考にします。絶対、嫁の側を離れません」


 男ふたり、肩を寄せ合ってちびちびと酒を飲む。


 おまけに、食事の仕方がわからん!

 おもに、パンっぽいものを半分に割って、具材を乗せて喰うようなんだが……。


「おい、ラウル。あれはスプーンを使うのか」

「でもあの人、手で食べてますよ」


 こんな周囲を覗う食事会、初めてだ。

 給仕が「お好きなようにお召し上がりください」というが、恥をかくのはいやだ。

 同じように静かに食事や酒を楽しんでいるのはタニア王なんだけど……。

 まさかタニア王のところに酒瓶持っていくわけにはいかず……。


「俺、お前を連れてきてよかったよ……」

「ぼくが嫁を貰って同じような状況になったら、団長、来てくださいね。僕のそばを離れないで」


 ラウルとずっと、まだいない架空の嫁の話をぼそぼそとする。


「でもあれだな。シトエン、楽しそうでよかった」

「そうですね。なかなか母国のご友人とゆっくりすることもできないでしょうし……」


 見るとはなしにふたりでシトエンを眺める。

 たくさんの女性たちに囲まれ、嬉しそうにたくさん会話をしている。


 ティドロス語じゃない。母国語のタニア語だ。


 いいことだとおもう。

 こうやって逆の立場になったら、いろんなことにシトエンが気を遣っていることに気づかされた。いっつも気を張ってるんじゃないかなぁ。


 本当は気軽に里帰りとかさせてやりたいんだけどさ。

 結構な長旅なんだよ、タニア王国まで。年に数回、友達に来てもらうとかの方がいいかもしれん。


 そんなとき、ふと考えた。

 シトエン、ちょっと前まで命を狙われてたんだよな。


 いまは俺がいろいろとシトエンを守ってやれるけど……。


 もし、俺が先に死んだら? いなくなったら? シトエンを誰が守ってくれるんだろう。


 そりゃあティドロス王家がシトエンを放り出すようなことはないだろうが……。

 それでもシトエンは、誰も知らない異国でひとりぼっちになるんだ。


 もっとシトエンに友達というか……。信頼のおける誰かがいればいいんだが……。

そんな風に考えている間にも宴会はどんどん進み、会場はますます酒臭くなっていった。


 ティドロス王国も……まあ、割と濃い酒はあるが、こっちの酒はかなりきつい。


 果実酒は女性が飲むぐらいで、男性はほぼ、これ蒸留酒を呑んでいる。ラウルが途中で呑むのをやめたいようだが、給仕の男がどんどん注いでくれる。え。これ、グラス空けたら注ぐシステムなのか?


 そんなこんなで料理が消費されると、皿は片付けられ、今度は鈴や打楽器を持った女たちがやって来てダンスや歌を披露。


 どこかの貴族が「本来は神に奉納する舞です」と教えてくれたので、ラウルとふたり、ありがたがって見ている間ではよかったのだが……。


「婿殿」

「は……い」


 急にバリモア卿が立ち上がり、指名された。

 ちょうど酒を呷ったところだったので、慌ててグラスを床に置く。


「婿殿の威名は我が国にも届いております。以前より、一度お手合わせ願いたいと思っていたところです」


 ぎゅ、とバリモア卿が帯を締め直してそんなことを言いだす。

 なんか、厭な予感がした。


「それは……お耳汚しでした」

「ぜひ、この場にてお相手していただきたい」


 にやり、と舅殿が笑った。


「ひとり娘をお任せしても大丈夫なのかどうか、確かめさせてください」


 もう料理も片付けられ、踊り子たちがはけた場所にバリモア卿が進み出る。

 酒も入っているせいか、会場がわっと沸いた。


「お父様、おやめください!」

 制止したのはシトエンぐらいだ。困惑顔で眉を下げている。


「サリュ王子にも失礼ですし、だいたい……酔ってらっしゃるのでしょう? もうっ」


 後半、なじっている様子がめちゃくちゃ可愛い! なにあれ! 俺にも言ってほしい! 俺にも「もうっ、だめっ」ってたしなめてほしい!


 そんな顔を……たぶん、俺はしていたんだろう。


 ちょっとバリモア卿が勝ち誇った表情をした。

 えー……、もう、なにその負けず嫌い。


 これ、自分の父上なら「年寄りの冷や水ですよ」とか言ってやるんだけど、舅殿だからなぁ……。


「団長、お受けした方がいいですよ。ティドロスの冬熊は、タニア王国でも冬熊なんだと知らしめてやってください」


 ラウルが適当なことを言う。酔ってんだろ、お前。

 だけど、元来売られたけんかは買うことにしてるので……。


「タニア王のお許しがあるのであれば」


 立ち上がると、さらに場が沸く。「サリュ王子!」とシトエンがなんか言っているが、さっきの舅殿へのいい方の方が可愛いから無視する。


「よい余興じゃ、やれ」

 タニア王の許可が出たが、やっぱり余興かよ、と苦笑いする。


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