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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
4章

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37話 悪魔、来た

 モネは深く息を吸った。目に落ちそうになる汗を首を振って飛ばす。


 そして。

 強く担架を握り締めたまま、足に力を込める。

 まずは真後ろのこの男の急所を蹴り上げて……。


「が……っ!」


 実行しようとした矢先、背後の男が呻きを上げた。

 同時にモネにもたれかかるようにして転倒する。


「あ!」


 ドミノ倒しのようにモネも前の男に倒れ掛かる。

 予期せず、担架の片側の全員が転倒した。


「きゃあ!」


 担架から転がり落ちたのだろう。布にくるまれたシトエンが悲鳴を上げるのを聞く。


 モネは素早く立ち上がった。

 自分にのしかかってきた男が足元に転がっている。

 その男の背を見て息を呑んだ。


(ナイフ……)


 かなり小型のナイフ。持ち手はなく、刃だけの飛び道具。

 それが深々と男の背に刺さっている。


 知っている。

 見間違えようがない。

 モネはこの武器を知っている。


 使い方を教えたのは自分だ。整備の仕方を教えたのも自分だ。身の守り方、攻撃の仕方を教えたのも自分だ。


 いまではモネの腕を追い越した。

 この武器の遣い手を知っている。


「どうした⁉」

「けが人がいるのか⁉」


 遠くで騎士たちの声が聞こえる。その声を圧して、舌足らずのあの声が飛んできた。


「お姉ちゃん!」

「ロゼ⁉」


 薄く靄のかかるなかを見回す。

 小柄な姿が樹上に見える。


「お姉ちゃん! シトエンさまを!」


 思わずロゼに駆け寄ろうとして我に返る。

 踵を中心にしてくるりと妹に背を向けた。


 立ち上がろうと中腰になった男のひとりに回し蹴りを叩きこむ。吹っ飛んだ男の背後から、コック服姿の男がとびかかって来る。モネは素早く後ろに飛びのいた。


「ぐっ」


 だが着地と同時に腰に強烈な痛みが走る。さっき刺された傷だ。右によろめいたところをコック服の男がナイフを突き立ててくる。


 だが男のナイフは急に軌道を変えた。


 カンっと硬質な音を立ててなにかがはじかれる。小型ナイフ。ロゼだ。

 ほっとした途端力が抜けて地面に頽れた。


「シトエン妃!」

 モネは声を張り上げた。


「立って! 逃げて!」


 彼女を包む布が大きく動く。もがいている。

 コック服の男が舌打ちしてモネに背を向けた。


 だがそれを追う力が足にない。

 モネは上半身を投げ出し、這う。指に力を入れ、シトエンに怒声を飛ばした。


「逃げて!」


 シトエンの顔がようやく布から出た。潜水から息継ぎをしたように、息を大きく吸い込んだ彼女だが、すぐにその小柄な身体は執事服のひとりに担ぎ上げられる。


「やめて! おろして!」

 シトエンが叫ぶ。


 モネは匍匐前進の態勢のまま、ナイフを握った。

 ロゼほどではないが、投げつければ威嚇にはなるはず。


 投げつけようと腕を振りかぶる。


 その腕に。手に。背中に。

 いや、身体全体が、まるで雷にでも打たれたかのように震えた。


 血液が振動したように。脳がぶれたように。

 この場の空気をつかみ、揺らしたような感覚に飲まれてモネは動けない。


 モネだけではない。

 その場の誰もが凍り付いたように動きを止めた。


 そしてその振動が。

 咆哮だと気づく。


 怒声が。

 唸りが。


 発せられた声自体が暴力的な力を持ち、その場の動きを止めた。


 振り返る。

 モネだけではない。


 誰もが振り返った。

 薄く靄がかかる空気を切り裂き、ものすごい速度でそれはやってきた。


「貴様らぁあああああああああああああああ!」


 雄たけびらしきものがようやく言語として脳が処理した。


「サリュ王子!」

 シトエンの澄んだ声が上がった。


 その声が解呪であるかのように、誰もが動き出す。いや、たじろぐ。


 土煙を上げ、靄を蹴散らし、咆哮まがいの声を上げて近づいてくるその男は、『冬熊』などという表現では生ぬるい。


 悪魔だ。


「貴様らまとめて斬首だ!!!!!!!」

 抜刀しながらその悪魔は怒鳴った。


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