31話 ろくでもねぇ奴ら
「旦那様! ただいま本館が!」
「団長!」
案の定、すぐに執事長らしき男とラウルが部屋に飛び込んできた。その数歩あとを追いかけるように走って入ってきたのはイートンだ。
「お嬢様!」
「イートン! よかった、無事だったのですね!」
イートンはシトエンに抱きしめられるやいなや、へなへなと床に座り込んだ。どうやらまた腰が抜けたらしい。モネとロゼに労わられながらも、シトエン愛用の医療用カバンをふたりに預けてなにやら申し送りをしている。
俺はラウルを見た。
あれだけの破壊力だ。相当の火力。てっきり砲弾でも撃ち込まれたのかと思ったが、ラウルは首を横に振って淡々と答えた。
「攻撃は外からか?」
「いいえ。内部からのようです」
「ラウル様がおっしゃる通りです。いきなり、三階東端のゲストルームが吹き飛びました……!」
執事長が震える声で告げる。
黒煙の中、状況確認をしながらここまで来たのだろう。彼の顔は煤や煙で真っ黒だ。見た限り火傷などの傷はないようだが、いぶされた目が真っ赤だった。
「けが人は⁉ アンナは!」
領主が椅子から飛び跳ねるように立ち上がる。
そのまま執事長の両肩をつかんで揺さぶった。気持ちはわかるが……。これでは聞き取りもままならない。仕方なく俺は領主に近づき、執事長を揺さぶる手を止めてやる。
「落ち着け。これでは執事長がなにも言えん」
「ですが!」
「アンナ様……奥様はご無事です。爆風で転倒なさいましたが、大きなけがはございません」
「………使用人は?」
深い息を漏らしたあと、領主はうめくように言う。執事長が「奥様は」と限定したからだ。
「重傷者を含めると多数です。幸か不幸か、3階は無人でしたから……。ただ、落下してきたがれきで頭を打ったものや、爆風で飛んできたガラスでけがをしたものが多く、現在家令が対応をしております。旦那様、ご指示を」
「指示……」
領主が血の気の失せた顔でつぶやく。そして無言になった。
この領主、俺と年が変わらないが士官学校卒ではない。
領主という役割上、騎士団を率いることもあるが、あくまでお飾り大将なのだろう。
『ご指示を』と言われてもまごつくだろう。しかも、それを下に対してさらけ出すわけにはいかない。
しかもこれ……。
絶対、シトエンにまつわる攻撃だ。
ちらりと窓の外を見る。黒煙は上へのぼるのをやめたが、代わりに横に広がって領主館全体を包み始めている。
内部から爆発したと言っていたが、攻撃を受けていることに変わりはない。
早急に立て直しをしないと、後手後手にまわっては、館ごと飲まれる。
「王太子殿下からあずかった近衛兵はどうしている?」
俺がラウルに尋ねる。
「団長のご指示を仰ぎたい、と」
「領主館の外を固めてくれ。内部を攻撃し、それに呼応して外部から攻め込んでくることも考えられる」
「承知。うちの団員はどうしましょう」
「ミーレイ班にもう一つ班をつけて内部調査に。スレイマン班はこの別館に。モネロゼと共にシトエン警護にあたらせる。領主」
「は、はい……」
「うちの残りの班員をけが人の救護にあたらせる。誰と協力をすればいい?」
「ではこの執事長と!」
「お願いいたします」
執事長が膝に額をつけるほど頭を下げる。
「ラウル、わかったな?」
「承知」
「行け」
俺の指示に対して動き出そうとした執事長とラウルだったが。
「待ってください! けが人救護ならわたしも!」
「シトエン妃!」
「シトエンさま⁉」
モネとロゼを振り払って、シトエンが俺のところまで駆けてくる。手に持っているのは、イートンがここまで運んできた医療かばんだ。
「気持ちはわかるが……それは無理だ」
ほかのどんなことでもシトエンの頼みならかなえてやるが……。
こればっかりは絶対にダメだ。
「ですが、先ほど重傷者がいるとありました。処置は一刻を争います。それに倒壊したものでずっと圧迫されているけが人がいるとしたら、なおさら早期の対応が必要です。肺血栓塞栓症になるまえに助け出さねば……!」
「は、肺……?」
え、なんて? と俺が戸惑っていると、ラウルの声が素早く飛んでくる。
「これはシトエン妃を狙っての攻撃かと思われます。いまシトエン妃が領主館に行かれるのは無謀かと」
シトエンに、というよりラウルは俺に「しっかりしろ」言っている。そうだ。シトエンの力が必要かもしれないが、渦中に近づけるわけには……。
「おっしゃる通り、この発端はわたしかと思われます。そのわたしのせいでたくさんのけが人が出ているとしたら、じっとしているわけにはいきません」
シトエンが俺を見上げて訴える。
「モネさんとロゼちゃんの言うことをちゃんと聞きます。だからわたしを領主館に……」
「わざわざ敵の手に落ちに行くのですか?」
ラウルが俺をにらむ。
間に挟まれて俺は冷や汗が出る。
いや、わかっている! シトエンをこれ以上危険にさらすことはできない。
だけど、シトエンの「わたしのせいで……」という罪悪感も理解できる。しかも、自分ならなんとかけが人を対処できるかもしれない、となると……。
それらをうまく言葉に表現しようと、うんうんうなっていたら、二度目の爆発音が響いてきた。
「どこだ⁉ 今度はどこが……!」
「黒煙に包まれているのではっきりとは……。ですが、三階西端……?」
領主と執事長が窓に張り付いて状況を確認しようとしている。
「ゲストルームを集中的に狙っているのか? ということは清掃人は、領主館にシトエンがいると思っているのか?」
「いいえ。たぶん、ラウル殿やサリュ王子が言うように、誘っているのでしょう。『ほらほら、出てこないと、どんどんけが人が増えるよ』って」
応じたのはモネだ。
声音は平坦なのに、聞いた途端、寒風に肌を撫でられたような気になる。
知らずにギリと強く奥歯を噛んだ。ろくでもねぇ奴らだ。




