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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
4章

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23話 これ、よかったら使ってくださいませんか?

「サリュ王子?」

「いえ! なんでもありませんっ! 俺もがんばります!」


 散れ、妄念!!!

 脳内で、年上シトエンが俺を誘惑しているが、強制終了! 


「あ……。その、サリュ王子」


 シトエンはするりと俺から離れて立ち上がった。


 なんだろう。

 俺も彼女に続いて立ち上がる。よく考えたら、椅子やソファ、ベッドもあるのにふたりして床に座って何やってんだか。


「これ、よかったら使ってくださいませんか?」


 テーブルの上からシトエンが何かを取り上げた。

 俺も近づき、彼女の手を見る。


 そこにあるのは、細長い帯状の紐。随分長い。


 絹だろうか。高価そうな素材だ。色は藍色と白、それから淡い紫が使用されていて、グラデーションがきれいだ。両端は見たことない編み方になっていて、玉が結びこまれている。……貴石か? 青いけどまさか青石じゃないよな。先端は編まれずに長く紐が束になっていた。


「ティドロスでは使用されないようなのですが……、これ、下げ緒というもので」

「下げ緒?」


 確かに聞き覚えがない。


「刀の鞘に括りつけるものなんです。タニア王国では、腰ひもと刀を括りつけて敵から抜かれないようにしたりとか、刀を抜くときに鞘ごと動いてしまわないように、とか。いろんな理由はありますが、最近では装飾のために使用されることも多くなりました。あと、その……」


 へえ、と聞いていたら、シトエンの顔がぱっと赤くなる。


「そ……その、恋人や妻が夫の無事を祈るために贈ったりするんです」


 …………。


 恋人や!

 妻が!!!


 夫の無事を祈るために!!!!

 贈る、だと!!!!!!??????


 それをシトエンは!!!!!!!!

 俺のために用意してくれた!!!!!


 なぜなら!!!!!!

 シトエンの夫は俺だからああああああああ!!!!!


「モネさんから材料を買って、イートンに教えてもらいながら作っていたんですが……。この吉祥結びがどうにも不格好になって……」


「シトエンの手作り⁉ これ!!!」


「手作りといいながら、本当にイートンやモネさんに手伝ってもらうばかりで……。本当は調査に出る前にお渡ししたかったんですが、間に合わずにさっきようやくできあがりました」


 シトエンは耳まで真っ赤にし、下げ緒の先につけられた貴石を見せてくれた。


「この青石はわたしがタニア王国から持ってきたものなんです。お守りにもなりますから」


 そう言って、下げ緒を差し出してくれた。


「よかったら身に着けてくださいますか?」

「もちろん!!!!!!!」


 言いながら、シトエンを抱きしめた。

 シトエンは腕の中で「きゃっ」と可愛い声を上げたものの、すぐにくすくすと笑った。


「下げ緒を受け取ってほしかったのに」

「シトエンごと受け取ったんだよ」


 屁理屈を言うと、シトエンがまた笑う。

 腕を緩めると、シトエンが笑みを漂わせたまま俺を見上げていた。


「ありがとう、シトエン」

「とんでもない。喜んでいただけてなによりです」


「あの……さ」

「はい?」


「仲直りの、キス……しないか?」


 わだかまりは消えたわけだし、と提案してみる。

 シトエンはきょとんとした顔で俺を見上げていたけど、紫水晶みたいな瞳を緩め、口の端の笑みを深めた。


「そうですね」


 そう言って顎を上げ、目を閉じる。


 ………。


 キスを待つ、シトエン。


 ………。


 があああああああああああああああああ!!!!!!!!

 可愛すぎるだろううううううううううう!!!!!!!!


 シトエンのキス待ち顔!!!!!!!!!


 尊すぎるだろ!!!!!!!!!!!


 まぶたを縁どる長いまつ毛とか!!!!

 月光石みたいに白く潤んだ肌とか!!!!


 顔も小さい!! 首から肩にかけての華奢さ!!!!


 首!!! 特に首から鎖骨にかけて!!!! 優美さってこういうことを言うんだよ!!!! 見とけ、芸術家!!!! いや、見るな!!!!!! これは俺だけが見ればいい!!!!! 芸術家なら妄想しろ!!!!!


 肌自体が淡く発光してんじゃないかってぐらいきめは細かいし、さわったらとろけるんじゃないかっていう甘さがある!!!!


 さわったら……?

 

 さ わ っ た ら !?!?!?


 待て待て待て待て待て待て!!!!!

 なんで俺、仲直りのキスって言ったんだ⁉


 仲直りの……違うことでもよかったじゃないか!!!

 もっとこう……あっただろう、俺!!!!!


 そっちの方が絆も深められたんじゃないのか!?!?


 バカ野郎! 俺のバカ野郎!!!


 い、いや。

 ここからの流れでいくらでも挽回できる! それは方向修正できることだ!


 俺はごくんと息を呑み、それからそっとシトエンに口づける。


 柔らかく温かい彼女の唇。

 重なった瞬間、彼女がぴくりと身体を震わせる。だけど、すぐに手を伸ばしてぎゅっと俺の軍服を握る。ふわ、と彼女の香水が濃くなった気がした。


「あ、あのシトエン」


 そっと唇を離し、彼女を抱きしめる。耳元で囁くと「なに?」と甘やかな声で応じてくれた。


「このあと……」


 一緒に過ごさないか、と伝えるより先に。

 コンコンコン、と。

 ドアが三回鳴った。


「…………」

「あ、あのサリュ王子……?」


 俺が返事をしないからなのか、シトエンが腕の中で戸惑った声で問う。


 わかっている。

『なんだ』と返さないといけないのはわかっている。


 わかっているけど……!!!!!


「団長。いるのはわかっています」


 ラウルだよ!!! 

 やっぱりラウルだよ!!!!


「書類にサイン漏れがあります。至急出てきてください」

「それ、いまじゃないとだめなのか⁉ 明日とか明後日とか!」


「ほかにも変更事項があります」

「明日の朝でもよくね⁉」


「うだうだ言っている暇があったら、早く出てくる!」


 ラウルに叱られた。


 シトエンがくすくす笑いながら俺から離れる。

 ……ちっ。仕方ねぇな。仕事に戻るか……。


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