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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
3章

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39話 夢との関連性

「わたしは……本音では思うところがあります。サリュ王子は一時、危篤だったんですから」


 珍しくシトエンが憤然と訴える声に我に返った。


 怒っているのか、と思ったのに。

 シトエンに視線を向けると、しょぼんと肩を落としている。


「皆様の決定なさったことには従いますが……今後ルミナスとは一線を引いてしまうかもしれません……」


 俺と長兄は顔を見合わせ、「それで全然問題ない」と声をかける。


 そもそもシトエン、いままでが優しすぎたんだし。

 そりゃ距離置いても構わねぇよ。

 いや、危ないから距離は置いてほしい。今後も。


 俺はシトエンの手を逆に握り返す。うつむいていたシトエンが俺を見るから、にかっと笑って見せた。


「いいよ、それで。シトエンが思うようにすればいい」

「サリュ王子……」


 ほっとしたように顔を緩ませる。なんだか泣きだしそうな顔をするからどうしようかと慌てた。


「あまり長居しては傷にも触ろう。わたしはこれで退席する」


 長兄は言って立ち上がる。シトエンはすん、と鼻を鳴らして目をこすり、立ち上がってぺこりと頭を下げる。


「ありがとうございます。ユリア様にもよろしくお伝えください」

「あ。忘れるところだった」


 長兄は自分が座っていた椅子の背もたれにかけていた紙袋を手に取り、シトエンに差し出した。


「ユリアから預かってきた。渡してくれとのことだ」

「それは……ありがとうございます」


 おずおずとシトエンが受け取ると、「うむ」とばかりに長兄はうなずいて寝室を出て行った。


 ぱたんと扉が閉まる。侍従が部屋の外で待っていたのか、足音は複数でなにやら話をしている。


 だんだんと遠ざかるそれらを聞きながら、長兄も仕事の合間に来てくれたんだなと申し訳なくなってきた。早く治って俺が出向いて行かないとなぁ。


「サリュ王子、水分摂りましょうか」


 シトエンは紙袋をベッド脇に置き、立ち上がってコップに水を注ぎ始めたのだけど。


 ……あれ、まっずいんだよなー……。


 目覚めて直後から割と飲まされるんだけど、甘いんだかしょっぱいんだか……。うえってなる。


 普通の水がいい、とシトエンに伝えたんだけど、浸透圧だかなんだかの関係でこれがいいんだ、と。


 血がいっぱい出たあとは特に、水を飲ませるのは避けたいみたいで……。


 涙目になって『これを飲んでください』と言われたら飲むしかない。


 温めたら少しはましかと思ってラウルに温めてもらったらそれでもまずくて……。いまはもう感情を無にして規定量を飲むことにしている。


「少しだけごめんなさい」


 手渡されたコップの水を喉に流し込み、何も考えずに飲み干すと、シトエンはコップを持っていない方の俺の手首に指を添える。


 脈を測っているのだけど。

 ちらりとシトエンはなにもない自分の手首を一度だけ見た。


「シトエン」

「はい?」


 不思議そうに顔を上げる彼女に、俺は指をさした。


「脈測るときにさ、その手首を見るのって……」

「あ……クセで」


「それって、小さな時計を見ているのか? こんな大きさの」


 親指と人差し指で丸を作ってみせると、苦笑を浮かべていたシトエンが唖然としたように目を見開く。


「その……。舞踏会のあとにさ、シトエンに確認したいと思っていたんだ。竜紋のこともあるけど、夢のこともあって」


「夢って……。ここのところうなされていたあれですか?」


 シトエンが表情を硬くする。


「そう。あれさ、すごい変な世界の話で……」


 俺は夢だと思われるところで見た「巨大な、病院だとおもわれる建物」「見たことのない建材」「ふんだんに使われた窓ガラス」「同じ制服を着たひと」などを伝えた。


「そこにいるのは、黒い髪と目をして白衣を着た女性なんだけど。俺にはシトエンだとしか思えなくて……。その女性の側には、俺にそっくりな男がいて。その……距離感とか仲の良さとか考えたら……前世のシトエンと、あいつなのかな、とか」


 息を呑むシトエンはいつの間にか俺から手を離している。


 だから両手で、もう空になったグラスを意味もなくこねくり回しながら俺は続けた。


「俺さ、なんか夢を見る前からどうにも変な思考に引っ張られてて……」

「変な、思考……?」


 ようやくシトエンが口を開き、乾いた声を漏らす。


「シトエンと出会って。好きになって。そのときから、そりゃ『俺が守ってやらなきゃ』とは思ってた。それはもちろんそうだ。だけど……それがだんだん、『なんとしても守らなきゃ』とか『命に代えても』とか。最終的にはヴァンデルとラウルに『シトエンを守って俺が死んだらあとのことは頼む』とかそんなことまで言いだして……」


「え……」

 絶句するシトエンに、俺は頭を掻く。


「ラウルに帳面ぶつけられて、ヴァンデルに殴られてはじめて目が覚めた。なんか俺、おかしいなって。そんなことしたってシトエンは喜ばないのに、でも、どうしても思考が引っ張られているというか……変だったんだ。シトエンにずっとそばにいてほしい、守りたい、守らなきゃ、なんとしてでも、みたいな」


 俺はそこでひとつ息を吐き、このところ考えていたことをシトエンに伝える。


「これっていつからこんな風に考え始めたんだ?って改めてさかのぼってみたら……。その、言いにくいんだけど……」


「な、なんですか」


 シトエンが前のめりになるから更に口ごもりかけたんだけど、意を決する。


「竜紋に、口づけてからかな、と……」


 聞いた直後はぽかんとしていたシトエンだけど、数秒後、ぼんっと頭から湯気を噴き上げるほど顔を真っ赤にする。


「いや、そのごめん。でも……っ、でもさ! シトエンとその……そういうことをして……その。そのとき、竜紋にキスしたぐらいから俺、なんか揺れ始めて……。で、極めつけは夢まで見始めて……」


 あわあわと俺もどうフォローをしたらいいのかわからない。


 シトエンは両手で赤い頬を包んで俯いていたけど、大きく息を吸い込んでから顔を上げた。


 てっきり「誤解です!」とか「何考えてんですかっ!」とか怒鳴られるのかと思ったら……。


「あるかも……しれません。関連性」

 まだ熱は引いていない赤い顔でシトエンは力強く首を縦に振った。


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