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隣国で婚約破棄された娘をもらったのだが、可愛すぎてどうしよう  作者: 武州青嵐(さくら青嵐)
3章

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38話 シトエン暗殺計画

そして再び目を覚ました時。


 全身の倦怠感に重い息を吐いた。なんだこれ。身体全体が泥沼に沈められたみたいに動かない。


 おまけに目ヤニで張り付いているのか、瞼が開きにくい。何度か瞬きをしてうめくと、顔を寄せてきたのはラウルだ。


「団長……っ! シトエン妃……っ! 団長が!」


 ラウルとは物心ついた時からの付き合いだが。

 あいつが泣いたのを初めて見たのは、シトエンとの婚約前日だ。


『これでぼくも嫁がもらえる』と泣いていたが。

 いまはその時とは比べ物にならないぐらい号泣していて。


 そのうえ、鼻水。ラウル、鼻水……。


「お前……きたねぇよ」

 そう言って俺はまた記憶が不明瞭になる。

 

 次に目を覚ましたきっかけは重さだ。

 腹が重いー……。腹の上に何か乗っている……。


 ゆっくりと目を開くと、ロゼが俺の腹の上にすがりつくようにして泣いている。


 まだ死んでねぇよ、と苦笑いした視界の隅に。

 シトエンを抱きしめて慰めているモネが映りこむ。


「うらああ! ユキヒョウ、お前……っ!」

 油断も隙もねぇな!と怒鳴ったところで血圧が上がり過ぎたのかブラックアウトした。


 そのあと目が覚めたときに側にいたのは母上だ。

 この人でもこんな顔をするのかという顔をして。


「生きてる!」


 そう叫んだ途端俺に抱き着いた。

 のはいいのだけど……っ。


 母上の膝が俺の傷跡にゴリッと……っ!


「ぎゃあああ!」

 途端に激痛が走り、俺は絶叫して気絶した。


 そうやって。

 短期の覚醒を何度も繰り返していたが、どんどん眠っている時間のほうが少なくなっていった。


 しっかりと日中起きて夜眠れるようになったのは、ぶっ倒れてから11日後だ。

 7日目ぐらいからシトエンが俺の枕の位置をちょっとずつ高くしてくれたりしていて、なんだろうと不思議だったのだが。


 なんでもずーっと寝っぱなしだったところでいきなり起き上がると脳貧血を起こすらしく、徐々にジャッキアップしていくのだそうだ。そういえば、モネがシトエンを抱きしめているのを見た時に飛び起きて……。あのブラックアウトはそういうことらしい。


 比較的しっかり起きれるようになった直後は、お手洗いに行くのにも息が切れたけど、今は平気。


 自覚する不調もあんまりない。まあ、すぐに走れとか言われたら無理だけど。


 シトエンは足の可動域を心配していたけど、まったく問題ない。感覚もあるし、ちゃんと思い通りに動く。


 早く肉が喰いたいが、まだ消化のいいものしか食事に出ない。


 歯ごたえのないものばっかり食わされて不満だ。

 噛みたい。とにかく噛みたい。

 気づけばガチガチ歯を合わせているときもあって、ラウルに『牛の骨でも噛みますか?』と言われた。俺は犬か。


「アリオス王太子とメイル嬢は無事国に戻った」


 長兄からそう報告される頃には、俺は普通にベッドに座り、飯を自分で食うほどには回復していた。


「サリュには改めてまた謝罪したいそうだ」

「いやもう結構」


 俺はうんざりして手をひらひらと振る。あいつらが来ると面倒ばっかりだ。

膝を曲げて胡座しようとしたら、ちょっとだけ突っ張る。


 傷、というか火傷の痕だ。痛みがないだけマシなんだけど、シトエンはこの火傷の痕をみて落ち込むからあんまり顔に出さないようにしなくては。


 さりげなく表情を装ってから、ふと気づく。


「ん? でも詫びたいってことは、騒動の黒幕はやっぱり宰相だったんですか?」


「アリオス王太子からはそのように聞いている。すべての発端はルミナス王国宰相によるもので、ティドロス王国には多大な迷惑をかけた、と。ノイエ王の名で、追って正式な調査書を送ってくれるそうだ」


 ベッド側に置いた椅子は二脚。

 俺の枕元近くにシトエン。足元の椅子に長兄が座っていた。


「もともとルミナス王国は鉱物資源をタニア王国に依存している。宰相はもっと深い結びつきが欲しくてシトエンを……まあ竜紋をもつ娘との婚約をこぎつけたのだそうだ。それが反故にされたことが原因だろう、とはアリオス王太子の見解だ」


 ふん、と長兄は鼻を鳴らす。


「実際、シトエンがうちに嫁いでから、ティドロス王国は、タニア王国と鉱物資源に関する独自の契約を結んだし……その輸送手段も海路だ。陸路でルミナスを通過し、余計な関税を支払わずに済む。それもルミナスにとっては腹が立つことだろう」


「それでシトエンを?」

 俺は眉根を寄せる。長兄は苦笑した。


「これ以上、タニア王国とティドロス王国の結びつきを強くしたくなかったんだろう。シトエンがいなくなれば結束が緩むどころかタニア王国は『シトエン死亡の原因』をティドロスに求めて関係が悪化する……かもしれない。それほどタニア王はシトエンを溺愛なさっているしな」


 だがしかし、と長兄は続けた。


「まあ、完全なとばっちりだ」

「ですよね」


 食い気味に頷いてしまう。


「シトエンと同時にわずらわしいメイル嬢も消したかったようだが……。ことは露見し、暗殺はすべて失敗」


「あ。宰相はどうなったんですか?」


 まぁ……生きていても処刑は免れまいが。


「アリオス王太子がその場で捕縛命令を出し、本国にも緊急配備の要請を送ったからすぐにでも捕まると思ったのだが……」


「逃げたんですか!」


 びっくりしたが、長兄はむすっとした顔で言った。


「死体で見つかった。うちの国内ではなく、ルミナス王国国境付近で、だがな」

「自殺? 他殺?」


「他殺だろう。あとはあちらの国のことだ。我々は報告を受け、謝罪を受ける。そしてルミナス王国に対して優位性を確保した。それで終了。サリュもそれでいいか? シトエンも」


 長兄は俺とシトエンを交互に見た。


 俺は小さく息を漏らす。

 シトエンの命を狙っていた張本人。


 それは宰相だった。

 その宰相が死んだ今、もうシトエンの命を狙う者はいないのだろうか。


「……兄上。宰相はなんらかの集団に命じてシトエンの暗殺を指示していたと考えています。その集団は判明しましたか?」


 長兄は首を横に振った。


「わからん。ただそれを命じていた宰相が死んだのだ。これ以上深追いしてくるだろうか?」


 問われて、俺は黙り込む。


 ……以前、モネに「シトエンを狙う理由」について尋ねたことがある。そのとき、あいつは、『知らないわ』と答え、『頭領の命令は絶対。組織にいる限り、私たちに否はない』と言っていた。


 もし。

 もし、本当に宰相の命令だけで動いていたのなら、暗殺計画はここで止まる。


 だが。


 シトエンの命を狙う真の理由が竜紋にあり、そのことを暗殺集団の頭が知っていたら……?


 理由はわからないが、俺を刺したあの男がどうしても気になる。


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