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27話 襲撃者たち

「こっちは任せて、サリュ王子!」


 モネの声が空気を裂いて届く。馭者台にモネとロゼが馬首を巡らせているのを視覚の隅で捕らえた。


「おう!」


 俺は応じて精一杯馬車に黒馬を寄せる。


 黒馬も危ない目には遭いたくないから必死だ。ラウルを呼ぶように時々いななきを上げるのを聞くのが申し訳ない。


 馬車の屋根にとりついた男は、首だけ先に馬車の窓に突っ込み、内部の様子を窺っている。


 シトエンがバッグを男に向かって放った。

 顔にヒット。よくやった、シトエン!


 俺の指示通り、馬車は速度を落とさない。

 ロゼとモネが奮闘してくれているのだろう。馭者は必死で走らせてくれている。


 俺は手綱を片手で操り、片方の足を鐙から持ち上げて鞍に載せる。じりじりと馬車に幅寄せをする。


 ギリだ。

 ギリ、いける。


 男はシトエンの攻撃に若干怯んだが、すぐに窓枠の上部分を掴んだまま、前回りの要領で車内に入り込んだ。


 馬車が大きく揺れる。


 車輪が左右に大きく傾き、その振動のせいで扉部分が大きく外側に開いて、金具が外れて落ちた。


 落雷のような音を立てて、外れた扉が石畳の道をはねて転がりながら遠ざかる。


 メイルの悲鳴が上がった。

 シトエンがその彼女を引っ張り上げて自分の背後に隠し、反対側の扉に逃げる。

 そのまま、もう一度バッグを振りかぶって男を打ったが、今度はさすがに男は怯まない。


 距離確認。速度確認。着地場所確認。


 俺は手綱から手を離し、鞍に載せた脚を軸足にして黒馬から跳躍する。


 鐙から足を離した瞬間、黒馬が加速してラウルの元に向かうのがわかる。いままでありがとうよと礼をいいつつ、宙で脚を掻く。


 ドンピシャ。

 狙い通り、俺は馬車内に転げ入る。


 ついでに背後から男を急襲することに成功。というか、ほぼ体当たりだ。男の背中にぶちあたることで俺自身がようやく止まれた。


 いきなり背後からどつかれるとは思いもしなかったのだろう。


 男はシトエンたちのほうに前のめりに倒れたのだが、「きゃあ!」とシトエンが悲鳴を上げて拳を突き上げる。


 それが掌底のように男の顎を打ち、男は座席部分に倒れ込んだ。

 いいぞ、シトエン! 騎士団で護身術を教えていただけはある!


「このムササビやろう。手間かけさせやがって」


 ぐいと首の後ろを掴んで持ち上げる。

 男は覆面をしているために顔はわからないが、ぶるんと身体を震わせて右手を一閃させた。


 寸前のところで躱す。ちっ、ナイフかよ。まあ、こんな狭いところで剣振り回すとも思わないけど。


「お前んところ、戦棍を使うんじゃねぇのか?」

 尋ねると、無言で突きをはなってくる。軽く右に躱したのだけど。


「あ!」


 思わず声を上げてしまった。

 そのまま男は馬車から飛び降りたのだ。


「逃げた!」


 それは俺じゃなく、ロゼの声だった。


 扉枠に手をかけて外の様子をうかがうと、男は回転してダメージをやり過ごし、馭者台から降りたと思しき男ふたりと共に逃走を始める。


「追え! 逃がすな!」


 俺が怒鳴ると、男たちを数人の騎士が追う。

 その姿はすぐに小さくなった。

 馬車はそのまま加速し、予定を変えて王宮へと戻ることになる。


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