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「趣味がキモい」と幼馴染にこっ酷く振られた僕、魔道具に理解があるギャルに告白される~趣味が合う彼女と魔道具を作っていたら、コンテストに受賞して人気者になっていました。今更よりを戻したいと(ry~

「オタクとかマジキモくて無理だから」


 それが僕——ルークの告白に対する答えだった。


 目の前に立っている幼馴染のルーナは軽蔑し切った目でこちらを見ている。いつもなら見惚れてしまうくらい可愛い容姿なのに、今は背筋が凍るくらいの威圧感だ。


「オタクくん告白大失敗〜〜!!!」

「今の気持ちはどうでしゅか〜〜??」

「オタクくんがルーナちゃんと付き合えるとか夢見すぎ!!」

「無謀とかまさにこのことだよな〜〜!!!」


 周囲にいたクラスメイトたちが、僕のことを笑っている。ルーナしか呼び出していないはずなのに、大勢のクラスメイトに笑われて、僕は今にも逃げ出したい気分だった。


「ルークってさあ、趣味がキモいんだよね。何、魔道具作りって。マジないわ〜〜」


「え、趣味がキモい……? あんなに褒めてたのに?」


 僕はルーナの言葉に耳を疑う。だってルーナは僕が魔道具を作るたび、いつも褒めてくれていた。僕が手製の魔道具をプレゼントすると喜んでいてくれていたはずなのに……。


 でも、目の前に立っているルーナはいつもとは違って、僕を馬鹿にしたような、蔑むような目で見つめていた。


「だってさ、褒めて貢いでくれないと困るじゃん? どこから金が出てるのか知らないけど、あんためちゃくちゃ高価な素材使って魔道具作ってるんだもん。

 そりゃあ、貰ったら売っぱらうわよ。あんたの魔道具、やけに高く売れるからさ」


「う、売っていた……? 僕の魔道具をかい……?」


「そうよ! おかげで遊ぶお金がたくさん手に入ったわ! そこは感謝してあげてもいいかもね」


 ……そういえばルーナが、僕の作った魔道具を使っていたところ、見たことなかった。


 売っていたのか……。そんなことも知らずに僕は今までルーナにあれやこれやと魔道具を作っては、あげていたのか……。


「聖騎士だけならカッコよかったけど、魔道具作りとかいう変な趣味のせいで台無し。辞めたほうがいいよ? 本当にキモイから」


「キモい入りました〜〜!!」

「今時、魔道具作りとか流行らねえっての!!!」


 ルーナだけじゃなく、クラスメイトまでもが僕を馬鹿にしてくる。本当に地獄だ……。


「マジでその趣味やめた方がいいよ。まあでも、私のためにこれからも貢いでくれるっていうなら、私の犬として扱ってあげることも考えてもいいかな。

 私はこれからダンジョン行くから考えときなさい。無様に土下座しながら頼んでくれたら、私の犬にしてあげるからね〜〜!!」


「だってよオタク君! 俺たちは今からルーナちゃんとダンジョン楽しんでくるからよ!」

「羨ましかったらルーナちゃんの言う通り土下座でもするんだな! 俺たちもこき使ってやるからよ!」

「ギャハハ!! クラスの一番人気で、文武両道で家柄も最高、それに剣聖のルーナちゃんと、陰キャオタクのお前が釣り合うわけねえんだよバーカ!!」


 と好き放題僕を罵って、ルーナとその取り巻き達は教室を出て行った。ルーナの犬なのはどっちだ! とか少しは思ったけど、何も言い返す気にはなれない。


 ただ、今は大好きな幼馴染にこっぴどく振られたことを悲しむことしか出来なかった。



***


「なんで魔道具作りが趣味っていうだけで、あんなにも言われなきゃならないんだ……はあ……」


 僕は校舎の屋上で一人ため息をつきながら言う。


 可愛くて、優しくて、いつも笑顔で接してくれたルーナはもうどこにもいない。幼馴染であることを利用して、僕からむしり取っていただけなんてショックもショックだ。


 僕はルーナに渡す予定だったネックレスに視線を落とす。今日はルーナの誕生日だったから、喜んで欲しいと思い精一杯作った魔道具だ。


「こんな物持っていても仕方ないよね……」


 自分で持っていても仕方ないけど、かといってルーナ以外に渡す人はいない。この魔道具をどうしようか……そんな風に考えてる時だ。


「みっけたーーー!!!」


「え!?」


 屋上の扉がそんな声と共に勢いよく開かれる。落ち込んでいた僕はついついそれに驚いて、後ろを振り向く。


「もうめっちゃ探したんだよ! 教室行ったら誰もいなくて、マジ?ってなったし、窓から外を見たら馬鹿女が馬鹿ども引き連れてどっかいくし、もうホント苦労したんだから!!」


 彼女はズカズカと僕に近づきながらそう言う。僕は意外な人物の登場に思わず、彼女の名前を口にする。


「え、え? な、なんでクロエさんがここに!?」


 そこにいたのはクラスメイト。


 確か名前はクロエ。長い金髪にド派手なネイルが印象的で、常にクラスの中心にいるいわゆる陽キャという存在だ。


「なんで……って。君がルーナに告白して振られたから探してたんよ」


「え? クロエさんがなんでその、僕が告白するのを知って……? というか、さっき教室にいなかった……よね?」


 クロエさんは声が大きくて見た目も派手だから目立つ。さっき僕がルーナに告った時、取り巻きの中にはクロエさんはいなかった。(というか男子生徒ばっかだった)


 僕がそう聞くと、クロエさんはどこか言いにくいことがあるのか気まずそうに目を逸らす。数秒の沈黙が流れて、彼女は言葉を告げる。


「あたしが今から言うことはマジ、めちゃくそキツイことだけど耐えられる自信ある?」


 そう言うクロエさんの表情は本当に心配しているようだった。僕は息を呑んだ後、ゆっくりと口にする。


「うん、お願い」


「オッケー。先ず始まりは昨日。マジックフォンにあのクソ……ルーナからメッセが届いたの」


 クロエさんは鞄の中から手のひらより少し大きめの箱を取り出す。


 万能通信魔道具マジックフォン。液晶をタッチして様々なことが出来る魔道具だ。


「メッセの内容は、君が告ってそれをこっ酷く振るから見物者募集って。自分の交友のある人に片っ端からメッセ送ってたみたいよ」


「そ、そんなことが……」


 僕がルーナに告白すると決めたのは昨日。昨日、ルーナを教室で呼び出す約束していた裏でこんなことが行われていたなんて……。


「この時点でマジあり得ねーとか思ってたんだよ。だってさ、人が頑張って告白するっていうのに、それを笑いものにしようとしたんだよ? マジ何様っていう感じだよね! そう思わない!?」


 グイッと身を乗り出しながらクロエさんはそう言う。近い近い!って内心思いながらも、クロエさんがルーナに怒ってることに驚く。


「そんであいつら、人の趣味のことまで馬鹿にしてマジ最悪! 魔道具作りなんてめちゃくちゃ繊細で作れるだけすげえってのに、そこに対するリスペクト無さすぎじゃね!? 人の作ったもん売ったとか……! あー言ってたら腹たってきたわ、一発ガツンと言ってやろうかな!」


「まあまあ落ち着いてクロエさん。ここは穏便に、そう穏便にね」


「あんたは悔しくないの!? このままやられっぱなしで!! もっと言うとね、あいつ……あんたが告った裏でクラス一のチャラ男……クーズと結ばれてたんだよ!? クーズも寝取ってやったって、あんた以外のみんなに自慢して……それでも穏便にって言える!?」


 クロエさんが僕のために怒ってくれているのは確かだ。クロエさんの表情や言葉から本気具合が伺える。


 でも、今のままなら僕が傷つくだけで済むんだ。別に無理して何か言わなくても……。


「い、いや……悔しいといえばそうかもだけど、振られたのは事実だし。それに僕だけが馬鹿にされていればこのまま終わるし、どうせ彼らもすぐに飽きるでしょ。だから、大丈夫」


「大丈夫な人は自分からそんな顔で、そんなこと言わないよ」


 クロエさんは手鏡を渡しながらそう言う。さっきの激しい言葉遣いはどこに行ったのか、落ち着いた声で。


「……たしかにひどい顔だ」


 僕は自分の顔を見て、自分の言葉が嘘だと分かった。今にも泣きそうな表情を僕はしていたのだ。


「このままじゃ終われないっしょ! だからあいつらにガツンと見せてやるのよ!!」


「ガツンと見せてやるって……具体的にはどういう風に?」


 僕はクロエさんにそう聞く。クロエさんは待ってましたと言わんばかりにニッと笑ってこう口にする。


「付き合お! 私たち二人で!!」



***



「つ……つつつつつ付き合う!? なぜ!? え!? どうして!?」


 僕はクロエさんの思いがけない言葉に驚き、思わず飛び退いてしまう。


 僕の反応を見てなのか、クロエさんは困ったような表情を浮かべた。


「ええ〜〜そんな変なこと言ったかなあたし」


「い……いやいやいや、だって僕たち今までまともに話したことすらないんだよ!? そ、それがいきなり付き合うって……」


 あまりにも段階をすっ飛ばしてる……!!


 こういうのは普通お友達からじゃないのか?


 いや、僕今にして思うとまともな女性との関係、ルーナ以外いなかったんだ……!! こういう時どうすればいいのか困る!!


「せ、せめてなんで、付き合うということになったのか、そこらへんの説明とか理由とかを……」


「ん〜〜、こういうのは一目惚れでいいっしょ理由は」


「ひ、一目惚れ……」


 あっけらかんと答えるクロエさんに対して、僕はその言葉を反復するしかなかった。


「いやま、マジのガチで言うとね、あたし、ああいう陰湿ないじめをする奴……というか、人を笑い物にするような女めっっっっちゃ嫌いなの。ああいう奴には一発痛い目みた方がいいと思うんだよね」


「それと付き合うになんの関係が……?」


 クロエさんがルーナのことが嫌いなのは理解した。だけどそれと付き合うことになんの関係があるのか、僕は見出せなかった。


「ああいう女はね、プライドはめちゃ高いの。自分が振った男が次の日になったら、別の女捕まえてる〜〜ってなったら、ああいう手合いのプライドはズタズタなわけ」


「そういうふうに言われると僕ってかなりのクズ男じゃない? 大丈夫?」


「先に仕掛けたのは向こうだからヘーキヘーキ。しばらくの間、あたしと君とでイチャラブして、あいつが何をしでかしたのか骨の髄まで分からせるのよ!!」


 見える……! クロエさんの全身から炎のオーラっぽいものが!


 まあこんだけ燃えるようなオーラを発してるということは嘘ではないのだろう。


「でもそれってクロエさんにメリットなくない? クロエさんの気持ちは分かるけど、僕なんかと付き合ったら、君が何言われるのかわからないんだよ」


「うん、だからね。その、協力の代わりというか……き、君に魔道具の作り方教えてほしいな〜〜って」


 ……めちゃくちゃ恥ずかしそうに頬を赤らめながらクロエさんはそう言った。


 え? 魔道具の作り方……? そんなものを彼女が……?


「それくらいならいいけど、どうして魔道具?」


「贈ってあげたい人がいるの。でもあたし、魔道具作りめちゃくちゃ下手くそだし、なんなら手先不器用だし……君が魔道具作るの得意らしいからその……教えて欲しかったんだけど……接点がなくて」


「だからこの状況を利用したということ?」


 クロエさんはバツが悪そうにうなづく。


 クロエさんはバツが悪そうにしてるけど、僕としては少し安心してる。


 無償の協力なら何か裏があるんじゃないかと探ってしまうが、協力の見返りを要求されるなら裏があるとか考えなくてもよさそうだ。


「……分かったよ。魔道具作りくらいなら全然教えてあげるよ。だから、その、こっちの方もよろしく……お願いします」


 ……最後恥ずかしくなって言葉が詰まってしまう。めちゃくちゃ美人のクロエさんと付き合うって考えると、なんだかこう……嬉しい気持ちよりもどこか恥ずかしい気持ちの方が優ってしまって。


 対照的にクロエさんはパァと表情を明るくする。クロエさんは僕の手をパシッと掴んで。


「本当に? 本当に、本当に、魔道具作り教えてくれる?」


「え、あ、うん。僕でよければ全然いいよ」


「ぅぅぅぅぅいいいやったー!!!! じゃあ約束! 君はあたしに魔道具作りを教える。代わりにあたしは君と付き合う! これでいいよね、ね?」


 目をキラキラさせながらそう言うクロエさんに対して、裏表探るとか無粋だったかと思う。


「ちなみに一つ聞きたいんだけど、どんな魔道具を作りたいんだい? 贈り物……と言うことは実用性抜きのビジュアル特化させた物とか?」


「あ! それはね……えーと確か、そうこれ! こんなのが作りたいの!」


 クロエさんが鞄の中をガサゴソと漁って、魔道具を取り出す。赤色の宝石が特徴的な……ネックレスなのだが、それにめちゃくちゃ見覚えがある。


「……こ、これってどこで?」


「うーん、確か去年の学園祭だったかな〜〜。学生主催のフリマで出てたんだよね。え? もしかしてこれって……」


 去年の学園祭と聞いて納得する。と同時に心がピシッとひび割れるような音がした。


 間違いない。クロエさんが取り出したその魔道具は……去年の学園祭付近で、僕がルーナに渡した。


「それ作ったの僕なんだよね」


「え、マジ?」


「マジ」


 ルーナの言っていたことを突きつけられている気がして、僕は深くため息をつく。


「ま、まーショックかもしれないけどさ。あたしはこれめちゃくちゃ凄いと思うよ。だってこれ、魔力込めなくても、スイッチを押すだけでさ」


 ネックレスにある小さなスイッチ。そこを押すとネックレスから一筋の光が現れて、それは宙に無数の魔法陣を描く。


 次の瞬間、それらは瞬き、散って、流星群の如く魔力の光が空を駆けていく。


「こんな綺麗なギミックを小さなネックレスに搭載出来るとか何者〜〜とか思ったし、臨場感ヤバすぎて超感動したよ!!」


 ……思い出した。ルーナが何年かに一度の流星群が見られなくて凹んでいた時、少しでも元気を出して欲しくて、実用性を捨てたギミック特化の魔道具を作ったんだ。


 作った我ながらなんでこんなものを作ったんだ〜〜って渡した後に、自室で後悔していた気がする。主に恥ずかしさで。


 僕の中では黒歴史入りの魔道具なんだけど、恐らくルーナの言葉からして、一度も使われなかったんだろうな……って思う。


 そんな魔道具をクロエさんが手にして、それに感動したということに、作者冥利を感じる。


「市販でもそうそうないレベルなのに、そんな魔道具を君が作ったなんて超ビビったわ! いやまじ、今世紀最大のビビり〜〜みたいな」


「あははは。じゃあこれもあげるよ。お近づきの印として」


 僕はルーナに渡す予定だった青色のネックレスをクロエさんの手に握らす。クロエさんはそれをキョロキョロと見る。


「マジ!? 見た感じめちゃ高い魔石使ってるみたいだし、これとは違って実用性を兼ね備えたっぽいし……。そんなの貰ってもいいの?」


「いいよ。僕が持っていても使わないし、それに僕の作った魔道具に感動して、魔道具作りに興味を持ってくれた……そう言ってくれたのが嬉しくて。だからそれは君のものだ」


 ルーナみたいに使わず、売っぱらう人に渡すよりも、クロエさんみたいに大切にしてくれる人に渡した方が魔道具も救われるというものだ。


「じゃ、じゃあ貰っとく。ありがとルーク! ……ってヤバ。呼び捨てって意外と恥ずかしい〜〜」


「……あ、そうか。付き合うっていうなら呼び捨てしないといけないんだ……。く、クロエ……これでいいかな?」


 ルーナが相手だと呼び捨ても楽なのに、クロエさんが相手になるとそうもいかない。


 お互いに名前呼びして恥ずかしがって、そして僕らは示し合わせたように互いの顔を見る。


「っぷ、顔めっちゃ赤いじゃんウケる」


「クロエだって真っ赤だよ顔」


 と言い合って、僕らは互いに笑い合う。


「じゃあ明日からよろしくルーク」


「ああ、よろしくクロエ」


 こうして僕らの奇妙な付き合いが始まるのであった。



***



「魔道具に使う素材って、実用性に重きを置くか、ビジュアルやギミックに重きを置くかでかなり変わるんだ。例えばこれの場合は……」


「やば。素材のチョイス一つ取っても奥深いんだね。マジ勉強になるわ〜〜」


 時間が経って翌日の昼。早速僕は屋上で昼食をとりながら、クロエさんに魔道具製作について軽く教えていた。


「ここまで独学で仕上げたなんてマジ、ルークすごすぎじゃね? プロの世界でも通用するっしょこれ」


「僕なんかまだまだだよ。基本的に直感で魔道具作ってるから、同じものが二つ作れるとは限らないし。プロって同じものを全く同じ精度で完成させるから、レベルが違うよ」


「そういうもんなのか〜〜。でもルークって魔道具作りに熱入ってるから、意外となんとかなりそう〜〜ってな感じ」


 クロエさんは微笑みながら僕にそういう。たしかにやろうと思えば出来るのかな……?


「しかしいいのかい? こんな真っ昼間から僕とこんな話していて。僕と違ってクロエさんには友達もいるだろうし」


「ヘーキヘーキ! それにあたしたち付き合ってるんだから昼間から二人でいてもなんら不自然じゃないでしょ?」


 クロエさんは昼間からというが、実際のところは朝からだ。朝登校した時に校門で待っていて、僕を見た時の第一声が。


『おっはよ〜〜! 待っていたんだよ早く行こう!』


 とか大声で言うから、周囲の生徒からは丸聞こえ。同じクラスというのもあって、授業の合間合間にガンガン絡んでくるから、クラスメイトたちの視線が痛かったなあと思う。


「んーーやっぱ、現役で魔道具作ってる人の話はマジ参考になるわ〜〜。色々調べてみたんだけど、あたしじゃ基礎からつまづいちゃって。ルークが魔道具作ってるのを知ってから、一度は話してみて〜〜とか思ってたし」


 クロエさんがそう言ってるのを聞いて、僕は昨日にも覚えた違和感を思い出す。


 ……クロエさんって、どこで僕が魔道具を作ってるのを知ったんだろう?


 ルーナに魔道具をそれなりにプレゼントしていたけど、昨日を除けば大体は二人きりの時に渡している。


 僕が魔道具作るのも大体は家だし……、今までなんの絡みがなかったクロエさんが知っているような理由が僕には思い当たらない。


「ねえクロエって……」


 僕がクロエさんにふと思い上がってきた疑問を聞こうとした時だ。僕の言葉を遮るように彼女がやってきた。


「ねえちょっと! これはどう言うことなの!? 説明しなさいよ!!」


 額に分かりやすいくらいの青筋を立てたルーナが僕たちの前に現れる。


 屋上の入り口付近には経過を見守るように、野次馬がたくさん集まっているのが見えた。


「……説明って、見りゃ分かるでしょ。あたし達今、一緒にお昼ご飯食べてるの」


「はあ? なんであんたが口を出すのよ。私はルークに聞いたつもりなんだけど!?」


 ルーナはクロエさんを睨みながらそう言って、その後僕を睨む。


「クロエの言う通りだよ。僕達は雑談しながらお昼食べているだけ」


「な……!? な、なんでそいつとなのよ! 陰キャでキモオタのあんたが、そんな奴と……」


「なに、もしかして妬いてんの?」


 隣にいるクロエさんの言葉。僕はそれに耳を疑う。も、もしかしてこの子……ルーナを煽った?


 ルーナはクロエさんに煽られたせいなのか、さらに怒りの様相を顔面に滲ませる。


「はあ!? なんであんたらなんかに妬かなくちゃならないのよ! わけわからない!!」


「だよね〜〜。だってあんた昨日こいつ振ったもんね。振ったやつのことなんか今更気にしないわな。

 まあだからルークはあたしが貰ったわ」


「は……はあ? 貰った……って、あんた、ら付き合ったっていうこと?」


 ルーナがわかりやすく目を泳がしている。


 クロエさんは畳み掛けるように、僕の腕を両手で掴んでグイッと体を引き寄せる。


「そーそー、いや〜〜あたしとしてはマジ感謝だわ。趣味を気兼ねなく語り合えるし、ルークってかなりイケメンだし、話していて楽しいし!!」


「へ、ふ、ふーん。魔道具作りなんかで意気投合してて馬鹿みたい。あんなのキモオタの趣味じゃん」


「はあ? あんたバカなの? あんな知識と発想、精密な作業を要求される魔道具製作を下に見るとかマジないわ〜〜。

 あんたが今指につけてる指輪型の魔道具だって、そのキモオタの趣味で作られてるんだよ」


 ルーナは言葉を返されるとは思っていなかったのか、額をピクピクとさせて何も言い返せなかった。


「ま、別にあんたが何を言ったところで今更遅いんだけどね。ルークはあたしが貰ったし〜〜。ま、あんたも新しい男見つけたんしょ? それでいいじゃん。

 それとも何? 振った男があたしと付き合ってるのが許せない?」


「……なっ!! べ、別にいいわよそんなやつ! むしろ貰ってくれてせいぜいしてるくらいだわ!」


 ルーナはそう言い捨てると振り向いて僕たちから去っていく。クロエさんはそんなルーナに対してグッとガッツポーズをしていた。


「あたしの言った通りでしょ? これでプライドズタボロっていう寸法よ!」


「そ、そうだね。ルーナが言い負かされてるところ初めてみた……」


 ルーナは口喧嘩になると感情に任せて言いたいことを言いまくるタイプなため、かなりタチが悪い。


 そんなルーナが正面から言い負かされているところを見て、不思議とスッキリした。


「まーまだまだこれからなんだけどね。

 ……ってヤバ! もうそろ授業じゃん!」


「うわっ! 本当だ! クロエ行こう!」


 僕は昼休憩が終わりかけていることを知り、咄嗟にクロエの手を掴む。


「ふぇ!? あ、うん! 急ご急ご!」


 一瞬クロエの声が上擦った気がするけど気のせいだよね……?


 僕はクロエの手を引っ張って教室へと向かうのであった。



***



「なによなによなによ!! あんな見せつけみたいに付き合ってさ!!」


 私の心情は穏やかではなかった。


 その理由は昨日振ってやったキモオタ陰キャのルークが、同学年でも一番の美人と名高いクロエと付き合っていたからだ。


「振ったら落ち込むと思ったから、しばらくはそれで楽しむつもりだったのに〜〜!! これじゃ、私が負けたみたいじゃない!!!」


 クロエに言い負かされたところも他の生徒に見られてしまった……!!


 これじゃあ、あいつを振って悦に浸るという計画が台無しじゃない!


「ふん! で、でも、魔道具製作なんて地味な趣味で繋がってるんでしょ? すぐにみんなから後ろ指刺されてやめるわよ!」


 ルークは魔道具製作さえしなければ優良物件で付き合ってやってもよかった。でも魔道具製作という趣味がキモすぎて振ったのだ。


 あれだけこっ酷く振ってやれば、ルークは魔道具製作を辞めるかもしれない。その時、ルークが頼み込んできたら付き合ってやると思ってたのに……現実は全然別の方向へと進んでいた。


 でも魔道具製作という趣味が陰キャの趣味というのは周知の事実! どうせあのカップルもすぐに破綻するに決まってる!!


「そうよ! 陰キャとギャルの組み合わせなんて長続きするわけないわ!! ふふふ、破綻する時が楽しみね!」


 わざわざ私が手を下すことなく、ルーク達は別れるだろう。


 その時の私はそう思っていた……それが間違いであると知らずに……。



***



「魔法陣描くときは魔石ペンという道具で丁寧に描いていくんだ。こんな風にね」


「うわ〜〜、普通の魔法陣描くのもまあまあムズイのに、手のひらサイズの魔石に描くとかマジ神業! あたしもこういうの書けるようになるのかなあ?」


「トライアンドエラーだよ。大丈夫。魔道具が完成するまでは一緒に作ってあげるから」


 僕らは放課後、魔道具を作るために学園にある工房に来ていた。


 学園の工房には職員以外誰もおらず、快適に利用出来る。


「じゃあ次はクロエの番だ」


「オッケー! 材料たんまりと買い込んできたから、これで失敗の心配はなし! 任せて!」


 クロエはそう言って、作業台の上にドカンと大量の材料を置く。まさか作業台に積み上がるレベルで買ってくるとは思いもしなかった。


「じゃあ教えていくよ。まずは……」


「マジでこんなところでやってるやーん!!」

「うわカビ臭え! よくこんなところでできるな!」

「ヤッホークロエちゃーーん、そんなやつ無視して今から俺たちの遊びに行かない?」


 工房に何人かの男子生徒が入ってくる。クロエはそいつらをみて、表情が険しくなる。


 僕だってそうだ。なにせ、奴らの先頭に立っている生徒は、ルーナと付き合ってるはずのクラス一のチャラ男、クーズだ。


「そーそー、そんなキモオタなんかどうでもいいっしょ。魔道具作りとかマジないから、俺たちと楽しいことしようぜ〜〜」


 ゲラゲラと笑うクーズとその取り巻き。我慢の限界で何か言い返してやろうと思った時だ。


「てめーらの方がねえわ。帰れ」


 僕の近くで作業していたクロエがそう口にした。


 短い言葉が効いたのか、クーズは青筋をピクピクとさせながら言う。


「オイオイオイ、クロエちゃん何かの聞き間違いかな。今、俺のこと馬鹿にした?」


「そうだけど。作業の邪魔だから早く帰ってほしいんだけど。あたし、今ルークと魔道具作るので忙しいから」


 ギロリとクーズが僕を睨む。そしてクーズは僕の方に近付いてこう言う。


「オタク君さあ、何クロエちゃんと付き合っちゃってるわけ? あんま俺のこと舐めてると、こうしちゃうよ!!」


 クーズが作業台を蹴ろうとする。作業台を倒して、作っているものを台無しにしようという魂胆だろう。


 僕はその蹴ろうとしている足の甲を思いっきり踏みつけて、蹴りを阻止する。踏み付けられた痛みからクーズが顔をしかめた。


「クロエも言ってるし、大事になる前に出ていってくれないかな」


「て……テメェ! キモオタ陰キャのくせに舐めてるんじゃねえぞ!!」


 頭に血が上ったクーズが拳を振り上げる。僕は手首を掴み、腕を捻って抑え込む。クーズは必死に振り解こうと抵抗するが、それではびくともしない。


「てめえ! ざけんな!! これを今すぐに解きやがれ!!! 今すぐにボコってやるからよ! というかお前ら見てねえでやっちまえ!!」


「オウオウ陰キャオタクがチョーシ乗ってんじゃねえぞ! 死ねやボケカス!」


 取り巻きの一人が走って勢いをつけながら殴ろうとする。僕はその足を引っ掛けてクロエがいる方向とは別方向に、彼を転がす。


「これ以上ことを大きくするのはお互いのためにならないと思うけど……まだ、続けるかい?」


 僕はクーズとその取り巻き達に対してそう言う。クーズは観念したような表情を浮かべる。


「わかったわかった! もう離せ! 俺たちはお前らと関わらねえ!!」


 クーズがそう言うので僕は手を離して、彼を解放する。彼らは来た時とは真逆で、逃げるようにして帰っていく。


 それを見届けた後、緊張が解けたのか、全身の力が一気に抜ける感じが僕を襲った。


「あああああ〜〜〜、緊張したああああ。マジなんとかなってよかった……」


「ちょ、ルーク大丈夫!? 怪我とかない!?」


 クロエが慌てながら僕に駆け寄る。


「大丈夫。怪我とかはないから」


「それならいいけど……って、さっきのあれ何!? クーズ達を軽くあしらうとか見たことないんだけど!」


「ああ……それはこれのおかげ」


 僕はそう言って首からぶら下げているネックレスを指で弾く。クロエはそれにキョトンと首を傾げる。


「自作の魔道具なんだ。強化の魔法を内蔵してて、強化したい部位を即座に強化できるようにしているんだ」


「これに強化の魔法入ってるとかマジすご! いやでも……魔法使ったらなんとなく気がつきそうなものだけど……」


 そう、魔法を普通に使えば魔法陣やら魔力の放出やらでなんだかんだ目立つ。それによほど熟練していなければ魔法なんて瞬間的に発動できるものでもない。


「目立たないようにしてるんだ。極力魔力の放出を最低限にして、魔法陣も微小サイズまで縮小しているのがこれ。

 魔物とかと戦うようじゃなくて、あくまで人間とかに襲われた時を想定した護衛用の物だね」


「だからか〜〜って、こんな小さい魔道具にそこまでの機能詰め込むとかマジやばすぎ! 超天才じゃん!!」


「結構頑張ったんだこれ。今度ある魔道具コンテストに持っていこうと思っているんだ」


「そっか〜〜、賞取れるといいね。よーし! あたしも頑張って自分の魔道具を作るよ!」


 クロエはニカっと明るい笑顔でそう言った。まあこの笑顔のために少しのゴタゴタがあったと思えばいいか……。


「じゃあ続きを教えていくね」


「オーッス!」



***



「おい聞いたか? この学園で魔道具コンテストの受賞者が出たって!」

「聞いた聞いた! 二年の先輩でしょ? いいな〜〜めっちゃカッコいいって噂だよ!」


 そんな話し声が学園中に満ちていた。


 あのキモオタを振ってから数ヶ月後。私は学園に張り出されたそれを見て、ガックリと膝をつく。


「嘘でしょ……こんなこと」


 数ヶ月前にあったと言う魔道具コンテスト。そこにルークと、その彼女であるクロエが入賞したのだ。


 二人は一躍学園の人気者に。それもそのはず、何故なら魔道具コンテストは権威のあるコンテストだからだ。


 学園では二人の話題で持ちきり。後輩からは憧れの先輩として見られて、同級生からも人気が出ている。


「あの時……ルークにひどいことを言わなければ」


 数ヶ月前のあの日。ルークにひどいことを言わず、ちゃんと受け入れていれば……ルークの隣に立っていたのは私だったはずなのに!!


 なんて愚かな真似をしてしまったんだろう。私はただただ自分の過ちを悔いるばかりだった。



***



「魔道具コンテスト、入賞おめおめ!! やったね! いや〜〜マジスッゲーって思うわ。さらに最優秀賞でしょ!? 凄すぎてリスペクトしか感じないというか〜〜!」


 僕は放課後の工房で、いつもよりハイテンションなクロエにそう祝われていた。


 数ヶ月前にあった魔道具コンテスト。僕の作品が最優秀賞を受賞したのだ。


「ありがとうクロエ。それもこれも……」


 と僕はここで言葉を切る。


 実はこの魔道具コンテスト。僕は出す予定ではなかった。ルーナに振られたことがショックで、どうもモチベが上がりきらなかったのが理由。


 そんな僕が立ち直って、魔道具コンテストに出せたのはひとえにクロエのひたむきな努力する姿勢を見たからだ。


 それに背中を押されて出した……とは少し言いづらいし、黙っておこう。


「どしたん? 少しボーッとしちゃって」


「いいやなんでもないよ。……それに、クロエだってようやく完成したんでしょ。作りたかった魔道具」


「そーそー! やっと! やっっっっと出来たんだよね!!!」


 クロエはそう言いながら小さなケースを取り出す。青い獣毛で作った高級感のあるケースだ。


 中には虹の魔石が美しいネックレスが入っていた。ここ数ヶ月、試行錯誤しながら完成させた魔道具だ。


「ところでその魔道具、誰にあげるつもりだったの?」


 クロエは僕と出会った時、魔道具を贈ってあげたい人がいると言っていた。


 今までそれが誰なのか聞くことはしなかったが、ついつい気になって僕はそう聞いてしまう。


「えへへ、それはね!」


 そう、そう聞くのは少し野暮だったのだ。


 少し照れくさそうに、頬を赤くしながらクロエは僕に向けてそれを差し出す。


「え……ぼ、ぼく?」


 僕はついついそう聞いてしまう。クロエが魔道具を贈ってあげたい人が、僕なんて想像もしていなくて、なんて返せばいいのか分からなくなったからだ。


 クロエはそんな僕に対して、笑顔のままこう言う。


「うん! ちょうど一年前。君がここで作業しているのを偶々見かけて、その姿がとってもカッコよかった! そう、なんて言うのかな、絵画が現実になった~~みたいな感じ」


 クロエはにししと微笑む。


 そうか、一年前。一年前はここでコンテストに落ちたショックで、とにかく魔道具を作っていたんだっけ……。


「その時に一目惚れしたの。魔道具に興味を持ったのも、全部あの日に君を見たから」


 その言葉を聞いた時、僕の脳裏にふと初めて出会った時のことが思い浮かぶ。


『ん〜〜、こういうのは一目惚れでいいっしょ理由は』


 そう、これはクロエの理由だったのだ。


「だからあたしと本当に付き合って……くれない? 打算とかそういうの抜きで……ダメ?」


 クロエからそう言われる。僕の答えはそれを聞いた瞬間に決まっていたようなものだった。


「こちらこそお願いします……でいいのかな。うん、いいよ」


 僕の返事を聞いてなのか、クロエは口から思いっきり息を吐き出す。まるで身体中の空気を吐き出したみたいだ。


「マッッッジ緊張した〜〜!!! いやホント良かったああ!! フラれたら気が気でなくて……」


「ハハハ、まあ少しは驚いたけどね。ところで見せて欲しいなクロエが作った魔道具」


 僕はクロエの作った魔道具を見る。美しい魔道具だと一目で思う。


「あ、ちょっと待ってて! きっと驚くと思うから!」


 クロエはそう言いながら魔道具を起動させる。空中に描かれる無数の魔法陣。


 次の瞬間から広大な森林、見渡す限りの大海原、風が吹き荒ぶ砂漠など、ありとあらゆる風景を目まぐるしく演出していく。


「これはあたしが行ってみてええ〜〜って思ってるところを魔道具で再現してみたの! どう? 結構な自信作なんだけど!」


「うん、すごい! たった数ヶ月でここまで仕上げたなんてすごいよ!」


 一つの魔道具で風景を見せることはありふれているけど、複数の風景を見せることはかなり難しい。


 それをたった数ヶ月で作り上げてしまうなんて、クロエの才能と努力に感服する。


「あたしももっと! もーーっと! 魔道具の勉強をして、あたしもコンテスト取るよ! 絶対!!」


「……ああ、一番近くで応援している」


 幼馴染に「趣味がキモい」と言われた時はどうなるかと思ったけれど、僕はこんなにも魔道具に理解を示してくれる人と出会えた。


 今はただそんな平凡な幸せを噛み締めていよう。


【作者から大切なお願い】

最後まで読んでくださりありがとうございます!!


面白かった!


読んでよかった!


楽しかった!


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是非よろしくお願いします!!

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