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007 ここが僕のウーヌス村です。

 アレクセイとアントンを先頭に、一行はウーヌス村を目指す。


「マーロウ、なにかいる?」

「いえ、近くにはモンスターの反応はありませんな」


 マーロウの【第六感】があれば、不意打ちは避けられる。

 アレクセイは警戒を彼にまかせ、村長アントンに尋ねる。


「どうして森に?」


 腰に山刀を下げてはいるが、戦闘を生業にしているようには見えない。ましてや、リシアは無力な少女だ。


「この子の母親のために薬草を採りに来たのです」

「お母さん?」


 アレクセイがリシアを見ると、彼女はうつむいたまま悲しそうな顔をしている。

 多少は警戒心が薄れたようだが、まだ会話してくれるほどではないようだ。

 黙り込んでしまった彼女に代わって、アントンが答えた。


「ディーナと言います。一年以上ずっと寝たきりなのです」

「一年以上? 容態は?」

「ずっと高熱が出て、衰弱しきっております」

「そうか、大変だったね」


 聞いた症状から、思い当たる病気があった。

 だが、確認できるまではうかつなことを言うつもりはない。


「そういう事情だとしても、二人だけでは危険じゃない?」

「普段はもう一人連れてくるのですが、あいにくと怪我をしておりまして」


 護衛になる一人が怪我をしても、代わりになる人間がいない。

 やはり、村人の数は少なく、ギリギリで回っているかどうか、といったところだろう。

 村の窮状を察し、アレクセイの顔が曇る。


「そうだったんだ。薬草は採れたの?」

「その前にワイルドドッグに襲われてしまいました」

「モンスターはよく出没するの?」

「いえ、珍しいことです。今日は浅い場所にしか入ってません。普段ならモンスターは現れない場所です」

「異変かな……」


 落ち着いたら調査が必要だな、とアレクセイは心に刻む。


 しばらく森の間を進んでいき――。


「そこを曲がれば、村が見えてまいります」


 緩やかなカーブを超えると森は途切れ、切り拓かれた場所が視界に飛び込んでくる。

 民家が立ち並び、木の柵で囲われている。

 その周りには畑が広がっている。


 ――畑は柵の外か。


 獣やモンスターに襲われないのだろうか。脅威がないのか、それとも、余裕がないのか……。


「北麦かな?」

「そのようですが……」


 アレクセイが尋ねると、スージーは顔をしかめた。


 畑はそれなりの広さであったが、豊かに実っているとは言い難い。

 土壌は固い上に、魔素マナの状態もよくなさそうだ。

 収穫を控えている時期なのに、麦はやせ細り、麦穂は心もとない。強い風が吹いたら飛び散ってしまいそうな頼りなさだった。


 ――まずは農地改革だな。


 アレクセイは領地経営のために、いくつか案を練っていた。実際には現地を見てから判断するつもりだったが、やはり、懸念していたように食料事情は芳しくない――いや、困窮していると言えるレベルだった。


 アレクセイが畑を見ていると、そこで作業する村人たちがこちらを不審そうな目で見てきた。

 警戒心九割、好奇心一割といった視線だ。

 アントンたちと一緒でなければ、警戒心だけだっただろう。

 「大丈夫だ」とアントンが合図すると、彼らはこちらに顔を向けたまま、農作業を再開した。


 畑を挟む道を進んでいくと、村の門に至る。

 門の前には二人の武装した男が立っていた。一人は中年で、もう一人は若い。顔が似ているから親子かもしれない。

 使い古された革鎧と鉄の剣という姿で、あまり良い装備には見えない。

 彼らは他の村人たちとは異なり、警戒心を隠さない。アレクセイと馬車に向かって剣を構える。


「村長、その者は?」

「新しい領主様だ」

「ごっ、ご領主様でしたか」


 アントンの言葉に二人は慌ててひざまずく。

 アレクセイはまたもや、「楽にして」と声をかける必要があった。


「村の中に開けた場所はあるかな?」

「ええ、ございます。村の中央に井戸がありまして、その周りは広場になっております」

「じゃあ、そこまで案内してもらえるかな?」

「かしこまりました」


 アントンに続いて村に入る。

 住居は十数軒。藁葺きの質素な家。

 村人はみな、痩せ細っている。

 表情には余裕がない。今日を生きるので精一杯なのだ。


 アレクセイだけでなく、スージーもマーロウもだんだんと顔つきが険しくなっていく。

 変わらぬ調子なのは、馬車の中にいるナニーだけだった。

 彼女は現在、料理の仕込み中だ。集中するあまり、外の様子には気づいていない。

 もし彼女が村人の痩せ具合を見たら、よりいっそう張り切って腕を振るうことだろう。


「こちらになります」


 村の中央には井戸があり、その隣にはパン焼き窯や竈が並んでいる。

 数人の女性が夕食の支度の最中だった。


 ――思っていた以上にギリギリだな。かろうじて生活できているレベルだ。凶作になったり、病が流行ったりしたら、いつ破綻してもおかしくない。


 アレクセイは神に感謝した。

 実家にいたままでは、彼らの窮状を知ることすらなかった。

 貧困に苦しむ人がいても、直接手を差し伸べることができなかった。


 しかし――。


 ――神は僕に彼らを救う機会を与えて下さった。そして、そのための力も。


 【名君】というジョブを授かり、この地を治めることになったのは、きっと神の思し召しだ。

 アレクセイは隣のリシアの小さな姿を見て、固く決心する。


 ――リシアを、そして、村人全員を笑顔にしてみせる。


 強い光がアレクセイの瞳に宿った。

 アレクセイは今、領主としての一歩目を踏み出す。


 手始めに――。


「みんなに紹介してもらいたいところだけど、まずは病人のところへ案内して欲しい。誰か詳しい者は?」

次回――『病人ですか? 任せて下さい。』

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