057 進むべき道が決まりました。
――スタンピードが終わり、村では勝利の宴が行われていた。
命を賭けた戦いの興奮は中々収まらない。
生まれ育った場所の存亡がかかっているなら尚更だ。
村中がどこか浮かれた高揚感で占められていた。
「さあ、じゃんじゃん食べてくださいね~。いっぱい食べて、明日からもモリモリ働いて下さい~」
スタンピードでは裏方に徹していたナニーだが、今は宴の主役だ。
休みなく料理を続け、皆の胃袋と幸せを満たしていく。
「ナニーのおかげでみんな強くなれたよ、ありがとう」
「にひひ~、嬉しいです~。ナニーと結婚したくなったら、いつでも言ってくださいね~」
ナニーの料理で皆の身体が作られた。
彼女こそ縁の下の力持ちだ。
ナニーから離れたアレクセイは、皆を回って感謝の気持を伝えていく。
「マーロウ、【第六感】は大活躍だったね。それに弓も見事だった、ありがとう」
「坊っちゃんのおかげで、また花を咲かせることが出来ましたな。この老体で良ければ、いくらでも使って下さい」
【第六感】により、キングオーガの出現をいち早く察知できた。
それにより、万全の体勢で迎え撃てたのだ。
「アントンの罠が大活躍だったよ。それに準備期間にみんなを指揮してくれたね、ありがとう」
アントンの罠でだいぶ間引くことができた。
それに準備期間に計画通り進められたのはアントンの指導があったからだ。
「リシア、ディーナ、ポーション助かったよ。おかげで戦い続けることができた、ありがとう」
「お兄ちゃん、またシャンプーしてね」
「この前の夜の続きを楽しみにしてます」
二人とも不眠不休でポーション作りに励んだ。
今回の継戦能力は二人のおかげだ。
「キリエ、子どもたちに魔法を教えてくれて、ありがとう」
「わっ、わたくしはなにもしてませんよ。みんなが頑張ったんです」
子どもたちの努力があったのはもちろんだが、キリエの熱心な指導があったからだ。
「タロ、サブロ、シロ、ゴロ、道を拡張したり、竹垣を作ったり頑張ってくれたね。投石も助かったよ、ありがとう」
「「「「うっす。村のためっす。当然っす」」」」
彼らを含め非戦闘職の大人たちも立派に貢献した。
彼らの地道な働きがあったからこそ、今回の作戦が可能になったのだ。
「ジロ、大活躍だったね、ありがとう」
「マッスルマッスルッ!」
ジロの丸太攻撃を戦力に計上できたのは大きかった。
彼がいなければ、戦いはもっとしんどかっただろう。
「イッチ、完璧な指揮だったよ」
「いやあ、自分は大将の作戦に従っただけですよぉ」
【戦闘指揮】のおかげで皆の戦力が底上げされた。
それだけでなく、彼はニクスとサンカとの素晴らしい連携を見せた。
「ニクス、強くなったね。それと伝令、ありがとう」
「へへっ、兄貴に褒められると嬉しいぜ」
ちょっとした油断はあったものの、少し前に比べれば十分に強くなった。
真剣に訓練に打ち込んできた成果だ。
顔つきも少年らしさが抜けてきた。
「サンカ、ニクスのサポート助かったよ、ありがとう」
「主殿の御役に立ててなりよりです」
まだ未熟なところがあるニクスだが、彼女のフォローのおかげで大きな怪我を負うこともなく乗り切れた。
「メルタ、罠発動ご苦労さま、吹き矢のサポートも助かったよ。おかげで戦いやすかった、ありがとう」
「主様……」
罠を発動するのは、今回の作戦で重要な役割だ。
慎重に臆することなく、タイミングを見計らう必要があるし、敵に気づかれてもいけない。
彼女はその役目を完璧に果たした。
「君たち、魔法の勉強頑張ったね、ありがとう」
「お兄ちゃん、ぼくたちがんばったよ!」
子どもたちも魔法攻撃で戦闘に参加した。
牽制程度ではあったが、成果よりも過程の方がアレクセイにとっては嬉しかった。
小さな子どもたちも、村のために努力し、ひとつのことを成し遂げたのだ。
この経験は彼らにとって、かけがえのないものになる。
「ポーラ、子どもたちに教えてくれたね、それに君の魔法は想像以上だったよ、ありがとう」
「役に立てた?」
「ああ、もちろんだ」
この一週間、一番頑張ったのはポーラだ。
しゃべれるようになった彼女は、今までを取り戻すかのように、みんなに積極的に話しかけた。
自分のことでも精一杯のはずなのに、他の子どもたちに魔法の指導までしていた。
ポーラが笑顔を取り戻したのが、アレクセイはなによりも嬉しかった。
そして、最後に横になって休んでいるスージーのところを訪れる。
スージーはすでに目を覚ましていた。
血色も良くなっている。
「スージー、ありがとう」
「お姉ちゃんですからね」
二人にはこれだけで十分だ。
これ以上の言葉は必要ない。
会話を交わさずとも、心は通じ合っている。
「起きられる?」
「はい」
「そろそろ、宴も終わりの時間だ」
二人は広場に戻る。
アレクセイが皆の前で締めの言葉を伝えようとすると――。
「ご領主様」
アントンが村人を代表してアレクセイに声をかける。
「先日のお話、答えが出ました」
「うん。聞かせてくれ」
アレクセイが村人に課した問い――。
働く時間を減らしてのんびりと暮らしていくか。
今までと同じように働き豊かな生活を目指すか。
安定を取るか、変革を望むか、とも言い換えられる。
この二択に対するウーヌス村の答えは――。
「我々は今まで通り働きます。豊かさを得るために村の発展を選びます」
アントンの目は揺るがない。
村人たちで十分に話し合い、みなで決断を下した――その確固たる思いが伝わってくる。
「僕たちが進むその道は困難が山積みだ」
それはアントンも承知しているので、深くうなずいた。
「新たな領民として外からやって来る人々と関わらなければならない。自給自足からお金を使う生活に変わらなければならない。新しい問題が生じるたびに皆で相談して解決しなければならない」
閉じられた村で暮らしていれば、想定外のトラブルはそうそう起こらない。
だが、外と、他者と関わるならば、トラブルは必ず起こる。
「それでも、この道を選ぶんだね?」
アントンの目をじっと見つめ、問いかける。
「ご領主様のおかげで、我々は救われました。我らはご領主様に恩返しがしたいのです」
村人たちの顔から、感謝の気持ちが伝わってくる。
「空腹と隣合わせで死の恐怖に怯えながら、なんとか今日を乗り切る生活。余裕なぞ、一切ありませんでした」
アレクセイはやって来た当時のことを思い出す。
貧しく困窮して、生きる意味を持っていない村人たち。
「だが、変わりました。ご領主様が変えてくださりました。腹は満ち、ゆとりが生まれ、皆が笑顔になりました」
本当に、いい笑顔になった。
アレクセイはそれをなによりも嬉しく思う。
「それだけではありません。今回のスタンピード。ご領主様がおられなければ、我々は全滅しておりました。村を救っていただきありがとうございました」
村人一同、声をそろえて――。
「「「「「ご領主様、ありがとうございました!!!!!」」」」」
大きな、大きな、感謝の思いがアレクセイに届き、アレクセイの胸を、心を揺さぶる。感無量だった。
「そのご恩に報いたいのです」
「うん、わかったよ」
「ご領主様はこの小さな村に収まるお方ではございません。ご領主様ならば、我々だけでなく、より多くの人々をお救いになられることでしょう。我々はそのお手伝いをしたいのです。どうか、何卒、よろしくお願いします」
アントンは深く礼をする。
村人たちも同じ思いで頭を下げる。
「分かった。君たちの覚悟を受け入れよう。これからも一緒に歩んで行こう」
「よろしくお願いします」
「これからも方針は僕が示す。だけど、決定するのはみんなだ。それだけは忘れないでね」
アレクセイはそこまで語って、切り替える。
「じゃあ、これからの話をしよう――」
過去から未来へ――。
「数日後に隣領の街から商隊がやって来る。様々な外の物を山積みにした馬車数台の商隊だ」
村人は色めき立つ。
「みんなにはお金を渡す。男女年齢を問わず、同じ額のお金だ。そのお金で買い物をしよう」
年齢性別を問わず一定額――ベーシックインカムの理念だ。
話が進むに連れ、ざわめきが大きくなる。
「新しい服、便利な道具、食べたことのない食材にお酒もある。与えたお金で好きな物を買うんだ」
歓喜が爆発した。
「まずはお金の使い方に慣れないとね」
その夜、やって来る商隊について話が盛り上がり、村人が床についたのは、だいぶ遅い時間だった――。
第一部完結です。
ここまでおつき合い下さり、ありがとうございましたm(_ _)m
楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価★★★★★お願いしますm(_ _)m
一人でも多くの人に本作を読んでいただき、ベーシックインカムを広めたいです!
第二部では村はさらなる発展を遂げるとともに、本格的にベーシックインカムの話に入っていきます。
現時点ではプロットを練っている段階で、ある程度書き溜めてから連載再開いたします。
それまではいくつかSSを投稿する予定です。
次回――『『ベーシックインカムへの道』との出会いを語ります。』
7月31日の更新です。
また、第二部はカクヨム先行で投稿し、なろうではまとまってから連続投稿というスタイルでやっていきます。
お好みの方法でお楽しみ下さい!
これからよろしくお願いしますm(_ _)m
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ガチムチだけど剣は使えない。でも、魔法は規格外。そして、コミュ障。
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