054 キングオーガ登場です。
現れたのはキングオーガ。
そして、数え切れないほど大量のオーガ。
「坊っちゃん、これが最後の波のようです」
マーロウが告げる。
一同は終わりが見えたことに安心するが、それと同時にキングオーガの脅威を肌で感じていた。
通常種のオーガですら二メートル超え。
キングオーガはそれよりもデカく、三メートル以上だ。
燃えるような赤い肌。
ギラついた目。
獰猛な牙。
こちらをギロリと睨みつける。
「後退するぞっ」
決めておいた作戦通り、イッチが後退を指示する。
「ニクス、伝令だ。村に走れ」
「ああ、父ちゃん、任せろ」
ニクスは力強く頷く。
前回、ゴブリンの襲来を伝えたときとは異なり、自分の役割に誇りを持った顔だ。
ニックが走り出し、他の皆も村へと続く道を後退して行く。
ヴォォォォオォォオォォ。
キングオーガが吠えると、オーガたちの身体が赤く光る。
オーガの筋力を上昇させるバフスキルだ。
他の皆が距離を取ったのを確認し、アレクセイはスージーとともに、警戒しながら後退する。
キングオーガは助走をつけてから跳躍――大きな落とし穴を飛び越えてきた。
ドシンと重い音が響き、地が揺れる。
「なんて筋力だ……」
アレクセイは武者震いする。
今の自分一人では勝てない相手だ。
スージーと二人がかりでも無理だろう。
だが、いくら群れようと所詮はモンスター。
こっちは一週間かけて、入念な準備をしてきた。
知恵があり、作戦があり、連携がある。
戦えるのはここにいるメンバーだけではない。
たとえ、オーガに立ち向かう力はならなくても、やりようによっては戦力になる。
村人全員が力を合わせれば、間違いなく勝てるはずだ――。
穴を飛び越え着地したキングオーガは片手を挙げて吠える。
それを聞いたオーガたちもこちらを目指す。
ちゃんと落とし穴を回り込んで迂回してやって来た。
「思っていたより厄介かもな。でも、大丈夫。こっちの方が上だ」
オーガたちがこちらに殺到してくる。
キングオーガは最後尾で様子伺いのようだ。
人間を舐めているのかもしれない。
アレクセイとスージーは一定の距離を保ったまま後退して行く。
『――【火球】』
『――操血術【血弾】』
走りながらも、遠距離攻撃で着実にオーガを減らしていく。
ある程度進んだところで、二人は立ち止まる。
やられっぱなしで怒り心頭のオーガが突進して――。
プツリとなにかが切れる音。
ダンッ!!
オーガの横っ腹に鋭く尖った魔硬竹の槍が突き刺さる。
続けて――。
ダンッ!!
ダンッ!!
ダンッ!!
立て続けに竹槍が発射され、先頭を走っていた三体のオーガに突き刺さる。
ギャアアア。
ギャアアア。
ギャアアア。
オーガが絶叫する。
その中を、音を立てずに森の中を移動する影があった。
「メルタ、ナイス」
アレクセイが声をかける。
今の攻撃は森の中に仕掛けておいた罠だ。
アントンが設置し、メルタが起動させたのだ。
その効果は想定以上。
先頭の何体かに大きなダメージを与えた上、後続のオーガたちは勢いのまま玉突きになり、混乱状態だ。
「よし、僕たちの番だね――【火槍】」
アレクセイの火槍がオーガに突き刺さり――。
『――操血術【血斬】』
スージーが血の刃で切り刻み――。
一方的な攻撃で、さらに数体のオーガを葬り去る。
「よし、引き上げよう」
危険を犯す必要はない。
村にたどり着くまで、同じような罠を仕掛けた場所がいくつかある。
少しずつ数を減らしていけばいいのだ。
その後も罠や遠距離攻撃でオーガを削りながら、村まで後退していった。
だが、キングオーガに率いられるオーガの数は大量。
まだどれくらい残っているのか、把握できない。
村がだんだんと近づいてくる――。
一週間前からは様変わりしていた。
畑も民家も外からは見えない。
村は黒い壁で囲まれていた。
いや、正確には壁ではない。
魔硬竹によって組まれた竹垣だ。
その高さは二メートル半。
強固で堅牢な防壁。
アレクセイの計算では、オーガの突進にも耐えうる強度だ。
イッチを先頭に、最後尾はアレクセイとスージー。
オーガを迎え撃っていた皆が、村に戻ってきた。
彼らは竹垣の手前まで下がり、迎撃体制で待ち構える。
それに遅れて少し、森の道からオーガが飛び出してきた。
「今だっ、みんなやれっ!」
オーガの吠える声にも負けない、イッチの大声が響き渡る。
竹垣には等間隔で小さな窓が開いていた。
その窓から、こぶし大の石が飛び出し、オーガに命中する。
村人による投石だ――。
アレクセイが来るまでは、村人はやせ衰えガリガリだった。
だが、ナニー料理とリシア親子のポーションによって、見る見るうちに健康を取り戻し、それどころか、屈強な肉体へと生まれ変わっていた。
さすがに全身筋肉ヨロイへと変貌した【怪力】ジロほどではないが、常人を遥かに上回る。
その上、イッチの【戦闘指揮】によるバフも乗っている。
戦闘技術はなくても、彼らの投石は十分に通じる威力だ。
石による攻撃は止まない。
男女合わせた大人総動員の投石は、次々とオーガに命中し、敵の戦力を減らしていく。
そして、戦力となるのは大人だけではなかった。
「いっせいのせっ!」
次回――『乱戦です。』
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