052 オーガ登場です。
「オーガか」
次の波はオーガが一体。太い腕の先には巨大な棍棒が握られている。
あれで脳天をかち割られたら……。
イッチたち三人の【兵士】はオーガを初めて見るが、その強さを肌で感じ取った。
「イッチ」
反応が遅れたイッチに、アレクセイがうながす。
「……っ。大将と姉御は様子見。残り全員で取り囲めッ! まずはジロだッ!」
緊張感が伝わってくるこわばった声だったが、ジロはそれに応える。
「マッスルッ!」
初手――ジロが丸太をぶん回す。
ドンッ。
ゴブリンの集団をまとめて弾き飛ばす一撃を受けても、巨体のオーガはビクともしない。
ダメージは与えているが、クリティカルには程遠い。
だが、一瞬、オーガの動きを止めることに成功。
「今だッ、かかれッ!」
右からニクス。
左からサンカ。
真正面はイッチ。
三人がかりでオーガを取り囲む。
オーガは寸秒、イッチを獲物を定めた。
振り下ろされる棍棒を、イッチはバックステップで躱す。
オーガの重い攻撃を受け止めれば大怪我だ。回避するしかない。
三人は攻め急がず、回避優先でオーガが隙きをを見せるのを待つ。
この一週間で磨きをかけた連携で、オーガを翻弄する。
そして、その間にジロはオーガの背後に回り込む。
「マッスルマッスルッ!」
大きく振り上げた丸太が振り下ろされ――。
気配を察知したオーガは咄嗟に首を曲げ、頭部への直撃を避ける。
ドンッ。
丸太はオーガの打つが、肩を硬い筋肉に阻まれ、それほどのダメージではない。
だが、怒りを買うのには成功したようで、オーガは力任せに棍棒を振り回し始めた。
そして、怒り余って、オーガは棍棒を叩きつけるが、ニクスは難なくそれを躱す。
空振って地面に打ち下ろされた棍棒。
地面が抉れ、激しい音を立てる。
動きを止めたオーガ。
次の瞬間――。
右目にマーロウの矢が。
左目にメルタの吹き矢が。
――寸分の狂いなく突き刺さる。
ギャアアアアァアァァ。
どちらも強力なトリカーブトの毒が塗られている。
我を失い、激しく暴れるオーガに向かって剣が、大剣が、和刀が襲う。
「マッスルマッスルッ!」
そして、ジロがフルスイングした丸太をオーガの脳天に叩きつける。
その一撃がトドメとなった。
オーガはドシリと重い音を立てて倒れ、絶命する。
「うん、問題ない。及第点だね」
見事な戦いぶりだった。
事前の作戦通りの動きができて、余裕を持って戦えた。
この調子なら、何回やってもオーガに遅れを取ることはないだろう。
ただ、問題がひとつ――。
「時間をかけすぎたようだね」
休む暇もなく、次のオーガが現れた。
「連戦はキツイでしょ。僕とスージーが行くよ」
「わかりました。大将、姉御、やっちゃって下さい」
なんの気負いもなく、オーガと対面するアレクセイとスージー。
一週間前に戦ったときは、最初から遠慮なしの全力で一刀両断だった。
しかし、今回は長期戦。
オーバーキルしていたら、すぐにガス欠だ。
二人は力押しではなく、技量を持ってオーガに対する。
片手に剣を構え、反対の手は開き魔法を撃てるようにしているアレクセイ。
両手に持った二本のナイフを構えるスージー。
二人の役割分担ははっきりしていた。
アレクセイが攻め、スージーが守る。
「さあ、おいで」
アレクセイが挑発すると――。
ウォオォォォォ。
オーガは吠え、アレクセイに向かってくる。
そこにスージーが割って入り――。
カンッ。
重い棍棒の一撃をナイフで撫でて軌道をそらす。
その間に、アレクセイが魔法で火球を飛ばし、剣で斬りつける。
オーガの攻撃はスージーが簡単にいなし、アレクセイがダメージを蓄積していく。
特別なスキルや大技は一切使っていない。
単純な基礎戦闘技術だけで、オーガをあしらい、つけ入る機会をあたえない。
まるで正解を知っている迷路を辿るように、最短距離でゴールへ到達。
オーガはなにも出来ないうちに死に絶えた。
「交代でやっていこう」
そこからしばらくの間、一体のオーガだけの波が続いた。
アレクセイとスージーはもちろん、イッチたちも慣れてきて、危なげなくオーガを倒している。
そして――。
「一体ずつ受け持とう」
今度の波では、オーガが二体同時に現れた。
とはいえ、やることは変わらない。
オーガは連携して戦うほどの知性はないからだ。
まだまだ、順調。
アレクセイたちは問題なく、オーガを倒していった。
さらに時間が経過し――。
次の波に現れたオーガは――三体。
「後退だッ!」
それを見たイッチの叫びが響く。
次回――『後退戦です。』
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