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051 スージーの本気。アレクセイの本気。

 動きを止めたニクスに、三体のゴブリンファイターが襲いかかる――。


 ニクスが怯えた顔を見せるが、イッチは冷静だった。

 すぐに状況を判断し、片手を挙げる。


 それを合図に――。


 前方、右方、左方。

 三方向からニクスに迫るゴブリンファイター。


 右側の個体の目にマーロウの矢が。

 左側の個体の目にメルタの毒吹き矢。

 ピンポイントで突き刺さる。


「ニクス、正面だっ!」


 イッチの言葉に、固まっていたニクスが再起動する。

 正面のゴブリンファイターの振り下ろす剣を大剣で受け止め、弾き返す。

 そして、そのまま、隙きを見せたゴブリンファイターを袈裟斬りで倒した。


 それと同時、左右のゴブリンファイターはイッチとサンカによって葬られていた。

 これで今回の波は全滅――静寂が訪れる。


「バカ野郎。油断するなッ」


 父であるイッチがニクスに拳骨を落とす。


「このバカッ」


 サンカが同じように頭をはたく。


 ニクスは「いってぇ」と頭を擦りながらも、自分が悪かったと理解しているので、しょぼくれている。


「ニクス」


 アレクセイが声をかけると、叱られるのかとニクスは恐縮そうな態度を見せる。


「勝ち気なのはいいが、周りが見えなくなってはだめだよ」

「兄貴……」

「まあ、ニクスはまだ圧倒的に経験が足りていないんだ。次は気をつけよう」


 イッチとサンカがついていれば、下手なことにはならない――そう判断したので、アレクセイはそれ以上は追求しなかった。


「じゃあ、交代だ。しっかりと休むんだよ。休憩することも立派な任務だ。ちゃんと休んで回復に努めること。いいね、ニクスは特にだよ」


 張り詰めていた空気が弛緩する――。


「さて、ようやく出番だね」

「お姉ちゃんも活躍しますよ~」

「スージー」

「はい、分かってます。最初から全力ですね」


 だんだん一波のモンスター数も増え、波の間隔も短くなってきている。

 ひとつの波に時間をかけ過ぎると、次の波が合流してしまう。

 それはもっとも避けたい事態だ。


 先日のゴブリンコロニー戦では、本気を出していなかった。

 だが、今日は最初から全力だ。


「そろそろ来るね。マーロウとメルタはピンチ以外はなにもしなくていいよ」


 二人の遠距離攻撃は強力だが、矢には限りがある。

 今は出し惜しみする時期だ。


「さあ、ギア上げていこう」


 アレクセイはイッチに視線を送る。

 それを察したイッチはスージーに命じる。


「スージー、【操血術】で攻撃だ」


 スージーを包む赤い光がよりいっそう輝く。

 【戦闘指揮】は直接命ずることによって、効果が強くなるのだ。


 スージーはうなずくと、親指の腹を噛みちぎり――【操血術】を発動させる。


 ダンジョン入り口が騒がしくなってきた。

 次の波が来る。


 百体を超えるゴブリンの集団が次から次へと飛び出そうとするが――。


『――操血術【血奔流】』


 血の怒涛がゴブリンを絡め取り、圧殺する。

 それが収まったとき、生き残りは一体もいなかった。


「オーバーキルだったね」

「思っていた以上で、お姉ちゃんもビックリです」


 今回スージーが全力の【操血術】を用いたのは、試し打ちの意味もある。

 この一週間のトレーニングで、スージーの【操血術】の練度は上がったのだが、それは想定以上だったようだ。


「うん、十分に切り札になる。でも、数は打てないね」


 青ざめたスージーははあはあと息を荒げている。

 懐から小瓶を取り出し、赤い液体を飲み干す。

 すると、呼吸は落ち着き、顔に朱が差す。


 小瓶に入っているのはアレクセイの血液だ。

 この一週間でストックしたもので十数瓶ある。

 この小瓶がスージーの残弾のようなものだ。


「じゃあ、次は僕の番だ」

「アレク様の本気ですね」

「ああ」

「【忠義挺身】はどうしますか?」


 スージーはアレクセイを守るスキル【『――忠義挺身』】を発動させるかどうか尋ねるが――。


「いや、いらない」


 油断でも、侮りでもない。

 守られていると、どうしても甘えが出る。

 それを断ち切るためだ。


「お姉ちゃん。楽しみです」


 アレクセイは集中を高めていく。

 本気を出すのはずいぶんと久しぶりだ。

 この一週間トレーニングはしてきたが、実戦はまた別物だ。


 深呼吸を繰り返し、意識をフラットにしていく。


「来ますっ!」


 ダンジョンからゴブリンどもが出て来る


「大将、突撃だっ!」


 イッチの号令に、アレクセイの赤い光が強まる。

 アレクセイは右手ひとつで剣を構え、左手は手のひらを開く。

 踵を軽く上げた前傾姿勢。


 ひとつの弾となったアレクセイが飛び出す――。


 ゴブリンのど真ん中に飛び込み、アレクセイは渦の暴流を産み出す。

 混乱するゴブリンに対応する時間を与えず、剣で斬り、払い、首を落とす。


 それと同時に――。


『――【火球ファイア・ボール】』


 開かれた左の手のひらから火の球が飛び出し、ゴブリンを燃え上がらせる。


『――【火球ファイア・ボール】』


 斬ッ!


『――【火球ファイア・ボール】』


 斬ッ!


『――【火球ファイア・ボール】』


 剣で斬り、魔法で燃やす。

 これがアレクセイの本気の戦闘スタイルだ。


 素早い動きでゴブリンの間を縫い、斬り燃やしていく。

 ゴブリンはなにもできずに、数を減らしていく。


「とどめだ――【火槍ファイア・ランス】」


 太い火の槍がゴブリンロードの巨体を貫く。

 上位種であるゴブリンロード。

 今回のスタンピードで初登場の強敵は、戦いの前に退場するハメになった。


「親方、強いっす」

「いやあ大将すげえなあ」

「兄貴、カッコよすぎるぜ」

主殿あるじどの……」


 みなが憧れの視線を向ける中――


「さすがはお姉ちゃんのアレク様ですっ!」


 スージーは誇らしげであった。


 当の本人であるアレクセイはと言えば、自分の力に満足していた。

 ナニー料理、そして、【シナジー効果】による能力補正。

 自分がここまで強くなったと確認できた。


「うん、これなら、村人を守れるな」


 アレクセイはイッチたちに話しかける。


「これが僕とスージーの本気だ。まだ、しばらくは本気を出さなくても大丈夫だね」


 スージーも頷く。


「さあ、すぐ次が来るよ。いこう、スージー。今度は二人一緒だ」


 その言葉に、スージーは笑顔をほころばせる。


 やがて、次の波。

 現れたのは――ゴブリンではなかった。

次回――『オーガ登場です。』


楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価★★★★★お願いしますm(_ _)m

一人でも多くの人に本作を読んでいただき、ベーシックインカムを広めたいです!


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