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030 馬車が街から帰ってきました。スージーは怒っています。

 ゴブリンの一団を倒したアレクセイたち。

 しばらくその場で警戒していたが、モンスターはその後、一体も現れなかった。


 そうしているうちに――。


 ザイツェンの街に買い出しに行っていたスージーとマーロウが帰ってきた。


「アレク様、ただいまです」


 馬車の御者台に乗ったスージーが手を振る。

 隣ではマーロウが手綱を握っていた。

 合流した一行は村に戻る。


「おかえり、どうだった?」


 御者台から降りて並んで歩くスージーにアレクセイは問いかける。


「アレク様こそ、どうでした?」と意味有りげにスージーは問い返す。


「うーん、スージーの期待に応えられたような、応えられなかったような。なんとも中途半端な結果だったなあ。後で詳しく話すよ」

「それは楽しみですね」

「それで、そっちは?」

「買い付けは問題ありませんでした」


 スージーは取り引きの明細書を手渡す。

 アレクセイはそれを読んで、満足気にうなずき、スージーに尋ねる。ここからが本題だ。


「トリートメントシャンプーはどうだった?」


 今回、街に行かせた理由はふたつ。

 ひとつ目は物資の買い出し。

 もうひとつは、リシアが開発したトリートメントシャンプーの取り引き相手探しだ。


 その効果は貴族の女性なら、いくら払っても手に入れたいほど。

 そして、リシアしか作れないので、アレクセイが独占できる上、一日一本しか作れない希少品だ。

 トリートメントシャンプーはこの先、莫大な利益を生み出す。


 それだけに、取引相手は慎重に選ばなければならない。

 アレクセイはザイツェンの街にあるいくつかの商会に、お試しとして一本十万ゴルで卸してみたのだ。

 平民の平均月収と同じくらいの価格だが、これでも安すぎるくらいだ。


「こっちをナメてるところばかりでした」

「やっぱり、そうだよね」


 スージーは怒りをあらわにするが、アレクセイは感情を動かさない。


 リドホルム家に切り捨てられ、辺境の寒村に追放された、世間知らずの若造――これが、アレクセイに対する世間一般の評価だ。


「酷い商会は『十万ゴルは高いなあ。本当なら、五万ゴルがいいところだよ。今回は男爵の顔を立ててあげるけど、次からはこの値段じゃ買い取れないね』なんて、言ってましたよ」

「まあ、そんな反応だろうねえ」


 想定していた通りの反応で、アレクセイは苦笑する。


 アレクセイは商会を試したのだ。

 わざと安い価格に設定した上、自分ではなく従者のスージーを向かわせたのだ。


 ――どこの商会に先見の明があるかを知るために。


 こちらを下に見ていている商会は、安値で買い叩こうとする。そのような商会とは今後、取引する気はない。


「アレク様を見下すゴミクズです。ぶち殺してやろうかと思いました」

「でも、まともなところもあったんでしょ?」

「分かりましたか?」

「スージーの顔を見れば分かるよ。僕とスージーの仲じゃないか」


 もし、すべての商会がこの調子だったら、スージーの怒りはこの程度ではない。

 それがすぐに分かるくらいには、二人のつき合いは長く親密だ。


「アレク様……」


 感極まったスージーはアレクセイに抱きつく。


「頑張ったお姉ちゃんに、ご褒美ください」

「ああ、よくやってくれたね。助かったよ」


 アレクセイはいつものように、スージーの頭を撫でる。

 途端に、スージーはふにゃんと蕩けた。

 しばらく撫でてから手を離すと――。


「もっと、ご褒美欲しいです~」と蕩け声のスージー。

「ははっ、続きは夜にね」

「アレク様……」


 スージーは夜のことを想像して、ポッと顔を赤らめる。


「さて、報告の続きを聞こうか」


 アレクセイの言葉に、スージーは真面目に報告する態度に切り替える。


「こほん。ふたつだけつき合いを検討すべき商会がありました」


 スージーが伝えたふたつの商会。

 ひとつは古くからあり、リドホルム伯領にいくつもの支店を構える大手商会。

 もうひとつはまだまだ小さい新興の商会だ。


 二つの商会はアレクセイの試験にパスした。

 彼らとは真剣につき合うつもりだ。


「手紙を預かっています」

「分かった。後で読んでおくよ」


 話をしているうちに、一行は村に到着した。


「おーい、戻ってきたぞ。物資が山積みだ。手が開いている者は手伝ってくれ」


 馬車は荷を乗せたまま、村内の倉庫へ向かう。

 アレクセイの呼びかけに手が空いていた村民たちが集まる。

 スージーとマーロウがアイテムボックスを下ろし、中から仕入れてきた物資を取り出していく。


「まずは小麦粉だ。春まで保つように十分な量を仕入れてきたよ」


 アレクセイの声に、村人たちが歓声を上げる。


「じゃあ、順番に倉庫に運んでくれ」


 村人たちが列をなし、次々と小麦粉がぎっしりと詰まった袋を運び入れていく。

 ひとつ25kgもあるが、ナニーの食事と日々の農作業によって頑強な身体を得た村人たちは、軽々と運んでいく。

 小さな子どもも二人がかりで運んでいた。


「次は酒だ」


 続いてアイテムボックスから取り出される酒樽に歓声が大きくなる。

 アレクセイ就任以来の酒に、皆、興奮を隠しきれない。


「今日使う分は中央広場に、残りは倉庫にしまって」


 その次は――。


「最後は香辛料だ。ナニー、確認してくれ」

「は~い! みんな、これでまたレパートリーが広がるよ~。楽しみにしてね~」


 ナニーはウキウキで香辛料の詰まった箱を覗き込む。

 それを見ていた村人も、新しい料理への期待いっぱいに嬉しそうな顔だった。


「さて、これで冬越しの準備は整った」

「餓死者を出さなくて済むのですな」

「ああ、ひとりも死なせないよ」


 アレクセイの言葉に村長アントンは涙をこぼす。

 厳しい環境のウーヌス村にとって、冬越しは命がけ。年によっては、過酷な冬に耐えきれず、命を落とす者もいた。


 十分な量の小麦粉。

 豊富で多彩な野菜。

 毎日狩れるジャイアントワーム肉。

 森で採れる山菜やハーブ。

 そして、今回仕入れた香辛料。


 これらをナニーが栄養バランスのとれた、バフ付きの料理に仕上げるのだ。


 村の食料事情は革命が起こったというレベルだ。

 普通の農村では絶対に不可能。

 下手したら、リドホルム家よりも恵まれている。


「さあ、今日は宴会だ。みんなで準備するよ」


 村人たちはナニーを中心にご機嫌で支度に取りかかった。

 アレクセイはひと仕事終えたマーロウに話しかける。


「マーロウ、ちょっと話したいことがある」

「なんでしょう、坊っちゃん」

「実は今日――」


 アレクセイはゴブリン襲撃の件をマーロウに伝える。


「なるほど、そうでしたか……」

「マーロウの【第六感】には、なにか引っかからなかった?」

「ええ。なにも」

「時間や距離が離れているとダメなんだね」

「残念ながら、そのようですな」


 役立つ【第六感】だが、万能ではない。

 あまり、頼り切りになるのもよくないな――アレクセイはそう考える。


「明日からのことは、宴会が終わったら話そう。まずは、食べて呑んで、疲れを取ってくれ」

「ええ、そうさせてもらいます」


 話し終えた二人は、村人たちの輪の中に加わり、宴の手伝いを始めた。

 ふわっとだけど、1ゴル=1円くらい。


次回――『さて、ここで大事なお話です。どちらか選んでください。』

楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価★★★★★お願いしますm(_ _)m

一人でも多くの人に本作を読んでいただき、ベーシックインカムを広めたいです!


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