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俺が勇者パーティーをクビになりかけたら、聖女の様子がおかしくなった。

作者: 怒筆丸 暇乙政

 勇者ハロヒコは言った。


「──悪いが、お前はクビだ」


 ……知ってた。

 だが勇者ハロヒコは、今までずっと心の内に秘めていたのか、これでもかと俺に言ってくる。


「ニッチスキルでも、実は重要スキルでも、逆にクビになった事で充実したスローライフを過ごすでも良い。だが、何をやらせても中途半端にしか見えない今のお前、つまり魔法剣士シバイヌに、俺はどうしても価値を見出す事は出来ないんだ……」


 勇者ハロヒコの重い言葉に、俺は同意せざるを得なかった……。

 彼の言う通り、俺は今じゃ何でも中途半端だ。実は隠れた重要スキルがあったとか、そんな物さえない。何でも出来た過去の俺の存在意義なんて、今じゃ微塵の欠片もない……。

 俺の関わってくるストーリが過ぎ去った今、終盤に向けて強力になっていく強敵たちに、中途半端な俺の能力では役に立つどころか、もはや足手まといになりつつあった……。

 勇者ハロヒコは続けて言う。


「わかってくれよ……。元魔術師の女賢者ネコミケは、強力な全体攻撃魔法と充実したサポート魔法を持っている。そして、そのサポートを受けて前衛に立つ重装備で高い防御力をもつ俺でさえ、HPはギリギリなんだ。それを支えてくれるのは、奇跡の回復魔法と防御系サポート魔法を持つ聖女のモモッチなんだ……」


 俺は泣きそうになった……。

 今の俺は、サポート魔法の援護があっても強力な敵の攻撃を防ぎきれずにやられてしまう。かと言って高い物理攻撃力がある訳でもないし、上位攻撃魔法も無いのでどのみち高いDPSは出せない。さらに虚しくなるのが、ちょっとだけHPを回復できる中回復魔法と、ささやかな防御力底上げのサポート魔法がある程度だ……。

 勇者ハロヒコは辛そうな顔になって言った。


「わかるだろ? 今このパーティーに必要なのは専門家なんだ……。俺の代わりに高い攻撃力や高い防御力を、もしくは攻撃でも回復でもサポートでも良いから何かに特化した魔法詠唱者……そう、とにかく何かズバ抜けた専門家が必要なんだ……」


 そして聖女モモッチが俺に、とどめのセリフを言った。


「──貴方が女の子だったなら、きっとクビにならなかったでしょうね!」


 グサッと俺の胸に何かが刺さった……。聖女モモッチは尚も言う。


「勇者ハロヒコはね、メンバー全員を女の子にして、ハーレムパーティーにしたいのよ。それが、いわゆる需要なのよ?」


 この言葉で遂に、俺の目から大粒の涙が溢れだした。俺は、前世でやったRPGで同様の事を思っただけに、マジ泣きした。俺は、当時の俺にクビを宣告された気分になって涙が止まらなくなった!


──だが、ここで転機が訪れた!


 俺が、


「わ、わかったよ……俺はこのパーティー抜けるよ……」


 と言うと、なんと聖女モモッチと賢者ネコミケが、勇者ハロヒコに向かって言い放ったのだ!


「ハイ! なら、私も辞めます!」

「じゃあ、ぼくもこのパーティー抜けるな~ん!」


 急な出来事に動揺する勇者ハロヒコ。彼は何を思ったのか、ゆっくり手を上げボソッと言った。


「……えぇ? う、じゃ、じゃあ、俺もッ!」

「──どうぞどうぞ!」


 俺も含めた全員の息はピッタリだった。勇者ハロヒコは焦り散らす。


「ちょっとまってよ~! えっ、えぇ~!? 俺、勇者だよ!? ちょっと、勇者クビなんて聞いた事ね~よ! その振りは汚ね~よ!」


 だが聖女モモッチは凛として言い放つ。


「ついこの間、私は知ったの! 貴方を勇者と言ったあの国王はね、実はすべての冒険者パーティーに『真の勇者は君だ! でも他の人にはナイショだよ!』って言って回っていたのよ!? つまり、やる気を出させる為に、こすい上司が部下にこっそり言う汚いアレをしていたのよ! これが真実だったのッ!」


「──えぇぇぇぇぇ!!」


 我々だけじゃない。冒険者の酒場に集うすべての冒険者が驚いた!

 聖女モモッチは、もはや全員を聴衆に回し、語りだした。


「よくよく考えて見て欲しいの。──そもそも“勇者”って何? 称号でしょ!? なのに何でまだ結果も出していない新米冒険者の事を“勇者”と呼ぶの? つまり私は何が言いたいのかと言うと、勇者と言うのは、名乗ったり名乗らせたりするモノじゃなく、──最終的に魔王を倒した人の事を言う称号ではないのかって事なのよッ!」


「────ッ!!」


 酒場に衝撃が走った! しかしある女戦士は怒り交じりに反論する。


「勇者の血筋はどうなる!?」

「──血筋ね? それとも血脈? 血液検査でもする? それともDNA鑑定かしら? でも勇者のサンプルってあるのかしら……。つまり、現段階では結局わからないでしょ?」

「うっ、そ、それは……」

「つまり私が言いたいのは、結局“勇者の血筋が魔王を倒す”と言うのなら、逆算的に“魔王を倒した人が勇者の血筋”って事になるんじゃないかって事なのよ!」

「ぐっ、それは確かに……ッ!」


 戦士は論破された。酒場はざわついた。いつの間にか俺の涙は引っ込んでいた……。

 思えばこの異世界には、この聖剣を引っこ抜いたら勇者確定とか、そう言った類の伝説は無かった。まだ勇者しか装備できない武具はだれも手に入れていなさそうだし……。

 すると、賢者ネコミケと聖女モモッチは、笑顔になって俺に言った。


「この勇者もどきハロヒコをクビにして、新しい女子メンバーを入れるな~ん! そうすれば、魔法剣士シバイヌのハーレムパーティーの完成な~ん!」

「うふふ。なら女戦士がいいわね? 屈強な前衛になるわよ?」

「──おうッ! なら私がいるぞ! 少なくともこいつより攻守ともにやれるぞ! どうだ?」


 論破された女戦士が挙手してパーティー参加の意向を俺に伝えて来る。

 そして勇者もどきハロヒコはこの流れに滅茶苦茶焦った。


「え、ちょっ、まって! いや、その、やっぱクビは取り消すから! 取り消すから待ってぇぇぇぇぇえええ! 置いてかないでぇぇぇぇええええ!!」


 だが俺は、表の馬車を指差し言ってやった。


「4人パーティーなんて誰が決めたんだ? ──みんなで冒険しようぜ?」

竜ちゃ~ん泣泣泣

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