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マセキ・セキマ  作者: 黒野遠里
2/2

盗賊レーフ

イヴァが育ったレンズ村は、グラス公国の国領に含まれている。

グラス公国は、魔石を大量に埋蔵しているテンプル山を保有しており、世界一位の魔石産出国である。

そのため他の国よりも魔法が豊かで、特に公都イングスでは、ほとんどの市民が日常に魔法を用いている。


例えば料理屋にかまどはない。

野菜を切ったりするのも全て魔法で行われ、魔法で熱した鍋やフライパンを用いて調理をする。

道をまたぐように、家と家の間に紐がつるされていて、朝になると主婦達が服を窓の外に放り出し紐に並べて干す光景が見られる。


最も見がいがあるのは、引っ越しだろう。

なんとイングスでは、その際魔法で建物ごと持ち上げ、「引っ越し」をする。

この「名物」は市民に親しまれ、頻繁に行われている。

普段から建物が浮いたり降りたりしていることも含めて、この活気ある街を人々は「チリオチ(鳥が鳴くところ)」と呼んでいる。



この街のあるカフェで老年の男と女が、そこだけ時間が止まっているかのように静かに話している。

二人はここのひと気がなく、また、魔法を用いてコーヒーを抽出するのではなくマスターが焙煎器と抽出器を用いてコーヒーを作っているところを気に入っている。


「ニラル王国の侵略行為といい、最近はなにかと物騒だねぇ」

「全くだ。レンズ村の災害も、本当は人災だって話だよ」

「なに?魔法災害ってことかい。あの規模で?」

「そうだ。レンズ村には魔石の所持が許されていない。市民の間では、「人体実験があったんじゃないか」って噂もあるくらいさ」

「それはどうだろうね」

「…というと?」

「私の勘だと、魔剣が生まれたんじゃないかと思うね」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


イヴァはいくつか山を越え、川のほとりで休んでいた。

深い森の中ここの上だけ木は生えておらず、光が穏やかに射しており、花が咲いている。

川の向こう側で猪が水を飲んでいる。襲ってくる気配はない。


イヴァは自分の故郷について調べるために、イングスに向かっていた。

旅の途中、木の実が豊富に生えているため、食事は十分に取れた。

しかし、夜になると悪魔がうろつくため、睡眠の際も警戒を解けず、睡眠が十分にとれていない。


「ここなら大丈夫かな…」


勝手な期待、というより寝不足がそろそろ限界に達していた。

うつらうつらと頭を揺らした後、意識が飛ぶように倒れ、深い眠りについた。


その夜、久しぶりに夢を見た。


自分は己の無力さに嘆き、絶望に打ちひしがれていた。

隣にいた女が、ただそれを慰めていた。あの絶望は定めだったのだと。

彼女の、自己犠牲的な優しい表情に私はーーー



そこで目が覚めた。

日が、木の緑の隙間を斜めに射す。朝だ。

それまであったけだるさが全身から消えたようだった。

すぐに出発をしようと、準備をした時、


父から預かった塊がなくなっていた。


ーーー


落ち着いて、もう一度なくなった理由について考えた。


・動物がどこかに持って行った

・寝ている時に川に流れた

・人に盗まれた


これらの可能性が高いが、ここの川の流れは遅く、塊は沈みはしても流されることはないだろう

動物か人間に持っていかれた場合、近くに巣穴か住処があるはずだ。


イヴァは川のほとりの周りを調べた。


20分ほど探して、洞穴のようなものを見つけた。

穴の奥は闇がずっと続いている。

夜道には慣れていたが、得体の知れなさをイヴァは感じていた。


「出てくるのは人か動物か…悪魔の住処か」


近くにあった植物を束ね、火打ち石を使って火を起こしてたいまつを作り準備をする。


そして暗闇の中へと入っていった。



洞穴の中は、下へと下る道が続いていて、地下へと進んでるようだった。

一本道が続く。


「…くそっ」


穴の暗さが、イヴァに数日前のことを思い出させる。

住民達が惨殺された夜が、ティナの最後の言葉が。


道を進めば進むほどそれらがイヴァの足に絡みつき、やがて歩みを止めた。


「…決めたんだろ?」


ーーーー


それは15の少年には過酷すぎる運命だった。

故郷を失ったイヴァは、その日の夜中狂い叫んで、やがて狂い疲れ、父が最後に言った言葉を思い出した。


「望むがままに旅に出ろ」


そうだ、自分にはやらなければならないことがあった。


「自分の道を突き進みなさい」とマーザさんは言った。

あの時、マーザさん達は自分が死ぬことを分かっていた上で、自分に言葉を託してくれた。


皆は何を知っていた?

それを知らなければならない。


だから昨日の絶望はもう振り返らない。


前を向こう


ーーーー


そう決めたはずだった。


「何を立ち止まっている」


自分に怒り、顔を下げたまま目の前の闇を睨んだ。

自分の中で決意が固くなり、先ほどまで絡まっていた絶望は消え、またイヴァは進みだした。

代わりにイヴァはその背に、故郷の全ての民の無念を感じた。


洞窟を進んでいくと、火の明かりのようなものが見えてきた。

つき当たりを右に行ったところに、何人かが話している声が聞こえる。


イヴァは見つからないように、こっそり顔を出した。

10人くらいのフードを被った男達が机に向かって、真剣そうに地図らしきものを吟味し、議論をしていた。

恐らく彼らは盗賊で、盗みの計画をしているようだ。


「よし…」


イヴァは盗賊達の後ろを横切り、奥にある部屋に進もうとした。

塊はここのどこかにあるはずだ。


音を立てないよう忍び足で奥の部屋へと走った。

盗賊達の意識は地図に向いている。

部屋へとさしかかろうとした時、突然


「ゴウウゥン!!!」

と、爆発音が鳴り響き、壁が振動した。

天井から砂が落ち、盗賊達の意識は地図の外へと向かった!


「誰だ!!」

盗賊の男が叫んだ。まずい、気づかれた。

元来た道を戻ろうとした瞬間、


その男は目の前に現れ、頭を棍棒で殴られた。


イヴァはそのまま意識を失った。


ーーー


気づくと縄で縛られ、柵のようなものがかかっている部屋に閉じ込められていた。

どうやら自分は牢屋に閉じ込められたようだった。


「目が覚めたか」


柵越しに男が椅子に座っていた。

見た目は30代前半くらいで、灰色の髪をオールバックにしている。

さっき見た盗賊の中では一番身長が低そうだが、そのいで立ちからリーダーのような立場なのだろう、とイヴァは思った。


「盗まれたものを返してもらいにきた」


イヴァが最初に声を出した。

ここで何か嘘をついてもかえって怪しい。


「ほう…あの黒くてでかい岩のことか。まずお前は何者だ?イングスのスパイか?」

「違う。レンズ村から来た」

「嘘だな。あの村は数日前に滅亡した」

「俺だけが生き残った」


灰髪の男はさも疑わしそうに顔を歪めた。


「そうか。じゃー聞くが、あの黒いでかぶつはなんだ?どうしてそこまでして返してほしい」

「分からない。だけどそれは父に託されたものだ。返してもらわなければならない」

「おー、お前よく捕まっている身でそんな上から言えるな。返してもらうときには言い方ってもんが…」

「返せ!!!!」

イヴァは激しく怒鳴った。


「おいおいどうしたー」

他の盗賊達も興味ありげに部屋に入ってきた。


しかし灰髪の男は、さっきまでのどこかふざけた表情は消え、真面目な顔をして、


「なんでもねぇ、大事なものなのは分かった。だが、そのでかぶつはもう俺の物だ。返してほしかったらそれに見合う労働をして返してもらおう」

「盗賊と働く暇はない!早くかえ…」

「黙れ。言う事を聞かねぇと殺すぞ」


灰髪は低い声で脅迫した後、にっこり笑って、


「ラーフだ、よろしく」

「それとレンズ村の話は他にはするな」


こうしてイヴァは盗賊団に入ったのだった。


ーーー


「お前は風魔法を覚えるまで雑用係だ」


とラーフに言われ、風魔法は教えられないまま、雑用を始めてから数日が経った。

イヴァはそこで給仕や掃除(主にトイレ)をしていた。

盗賊のトイレは本当に汚く、至る所に糞尿が飛んでいる。

そして桶にたまったものを洞窟の外に出て、川に流す。

また、彼らは服は洗わないため、汗のにおいが固まったような異様な臭さを常に醸し出していた。


料理の材料は自ら取らなければならない。

主に釣りと採草でその調達を行い、料理を作った。


彼らを殺そうと考えたこともあったが、あの瞬間移動の魔法が強力で、太刀打ち出来ないだろうととりあえずは諦めた。


雑用同士で、タルポという同年代の少年と友人になった。

ラーフ達が外に出ている間、俺とタルポが残って仕事をしている。

彼は臆病者で、ラーフにあこがれて最近盗賊団に入ったらしい。

しかし、彼も風魔法の習得に苦戦していて、仲間に半人前扱いされていることを悩んでいた。


ある日、タルポと釣りに行った帰り道、彼はお気に入りの場所があるんだ、と言って山の頂上へと一緒に向かった。


「こっちだよ!」


タルポに連れられて頂上までたどり着くと、そこには広い街の景色が広がっていた。


「イングスだよ。本当に大きな街なんだ」


イヴァはその景色と事実に驚いた。


「ここまで近くまで来ていたのか」

「なに?」

「いやなんでもない」

「ここの街の一番すごいところが、もうすぐ見れると思う。見てて」


二人で座り込み、その景色を眺めていた。

赤や青の屋根を持つ高い建物がずっと並んでいて、中央に大きな城が見える。

レンズ村の城より10倍ほど大きいだろう。

そんなことを考えていると、二つの建物が動き出して、宙に浮き、互いの場所を交換して、また地面に落ちた。


あまりの衝撃に、イヴァは立ち上がった。


「すごいよね!多分魔法で引っ越しをしてるんだと思う」

「なるほど…」


イヴァは納得しまた座った。


「ぷっくっくくく…」


タルポは急におかしそうに笑いだした。


「なに?」

「いやだって、イヴァここに来てからずっと思い詰めた顔してたから。そんな驚いた顔したの初めてで面白くて」


その通りだった。

多分給仕をしている時も、糞尿を片付けているときもずっと、盗まれたことよりレンズ村のことを考えていたと思う。

タルポに見透かされて、それで励ますつもりでこの景色を見せてくれたんだろう。

秋の風が木々をなびかせ、その葉と草がサーっと音を出している。

久しぶりに穏やかな気持ちになったイヴァは、目をつぶって微笑んだ。


「ありがとう」


素直な言葉が自然に出てきた。


「いえいえ」

「僕もね」


タルポは続けた。


「僕もずっと不安だったんだ。盗賊になったけど、本当に僕なんかがそんな事出来るのかって。まだ魔法も全然使えないし」

「じゃあやめろよ、物を盗むことなんて何もいいことはないだろ」

「小さい頃からラーフさんを村で見てて、一緒に仕事をするのが夢だったんだ。それにあの人達は悪徳商人や悪徳貴族からしか盗まないし、奴隷を扱うようなことはしてないよ。たまに普通の商人から盗んでるけど」

「俺も盗まれた」

「ね…返してもらえるといいよね。イヴァみたいに村の出身じゃない人が盗賊団に入るのもほとんどない。イヴァで二人目だ」

「それは珍しいことで…」


イヴァはさぞ不機嫌そうに言った。


「一人目はどうやって入った?」

「君のようにここを見つけたんだよ。彼女は自分から入りたいと言ってきた、他に居られる場所がなかったらしい。ラーフさんも最初は渋ってたけど彼女の話を聞いて了承したんだ。どんな話を聞いたのかは分からないけどね…」

「彼女?」

「テルだよ」



ーーー


「行くぞ」


その日の夕方、突然ラーフがそう言って、盗賊達はなにかを準備し始めた。

彼らはどこか嬉しそうな顔をしている。


「お前んとこのチビ、3才になったくらいか?」

「おう、俺のことなんて忘れてるかもしれねーなー」

「俺も去年誰ですか?って言われてよ…」


彼らは楽しそうに話していた。

タルポも一緒に荷物の支度をしている。


「どこに行くんだ?」

「僕らの村、コタン村に行くんだよ。毎年村で祭りがある日に一度帰って、家族と過ごすんだ。」

「あの荷物は?」

「あれは金だ。俺らは盗んだものを売った金の一部を、村に献上してやってるのさ」


ラーフが後ろからイヴァとタルポの肩に手をかけ、にたりと笑いながら答えた。



「お前も来いよ」

「行かねえ」

「故郷を思い出しちまうからか?トラウマだよなぁ」


イヴァは激昂したが、それを胸の内に沈めた。

ラーフに怒ってもしょうがない事だった。


「俺から盗んだもの持って行けよ、盗賊が盗まれたら面子ガタ落ちだもんな!」


イヴァは皮肉を込めて言った。

しかしラーフはにやにやしながら、


「いや、お前は絶対にそれを盗み出して逃げたりしない。そういう人間だ」


そう言って荷物の場所に戻り、準備を続けた。



「おい、ここら辺の金品も持って行けよ!」

「へーい」


彼らの騒々しい声が聞こえてくる。

イヴァは岩の壁沿いでしゃがみ、うなだれていた。


「一泊して帰るから留守番ちゃんとやれよ。テラ!先行ってるからな!」


ラーフ達はそう言って洞窟の外に出た。

タルポもいない盗賊の住処はシンとなり出口の方で足あとだけが聞こえた。

ラーフに、自分が知らなかった自分を言い当てられたことが悔しかった。

なにより俺は、

俺はもう旅をする体力がなかった。


イングスに行って、もし村の事について知ることが出来たとして、その後は?

家族も友達もいなくなって、俺の役割もなくなって、それから何をすればいい?


イヴァはいつのまにか未来に絶望していた。

これから生きる術もなにかをしたい願望もなかったことに気づいた。


辺りはシンとしている、静けさがよりイヴァにそれを考えさせた。


「バンッ!」


突然部屋の向こうで何か音がした。

イヴァは立ち姿勢になり、警戒する。


すると、ドアが開いて誰かが出てきた。

出てきたのは、黒髪の少女だった。

端正な顔つきで、努力すれば身体の先の部屋が見渡せるんじゃないかというくらいに、

透明な存在だった。


恐らく彼女がテルだろう。

そう思って安心し、あぐらに座ろうとした瞬間、


「風」


体を突き飛ばされ、岩の壁に叩きつけられた。

彼女は風魔法を使って、イヴァを吹き飛ばした。


「待て!俺はお前の仲間…」

「お前は見たことがない」


そう言ってまた少女は風魔法の準備をした。


「しょうがない…」


イヴァは臨戦態勢に入る。


彼女を拘束して話を聞いてもらおう


ーーーーー


ラーフ達の村に行く準備をし、部屋を出たら誰かがいた。

留守を狙って盗品を取り返そうとしたところか。


しかし会ってしまったらしょうがない。

この盗人を気絶させ、拘束しよう。

私は生きなければならない。



即座に風魔法を打つ。

直撃だった。

盗人の身体は壁まで吹き飛ばされ、苦しそうに嗚咽する。


まだ意識があった。

もう一度打つ準備をする。


敵はそこに落ちていた盾を構え、こちらに走り出した。

特攻する気だろう。


更に強力な風を打つ。

敵はガードしきれず吹き飛ばされたが、今度は壁に当たるまでにはならなかった。


最初の攻撃でかなり重体のはずだ。

それに相手は魔法を使えないらしい。

吹き飛ばされてもなお特攻の姿勢を見せた。



相手が向かってきて、それを吹き飛ばすのを何回か繰り返した。

彼は身体能力がかなり高いらしい。

しかし、足取りは重くなり、こちらに向かうスピードも遅くなってきた。


風魔法を深めに構えた。

強力な魔法ほど、イメージに時間をかけ、体力を使う。

トルネード

まともに当たれば肉体がばらばらに飛んでいく、非常に危険な魔法。

ラーフからよっぽどの事がない限り使うなと言われていたが、彼は十分に危険だった。


「今度こそ倒れろ…」

「!!!」


魔法をイメージした。

しかし発動は叶わなかった。


肉体だけの、限界のスピードをもって私に突撃した。

敵は体力を温存し、強力な魔法を発動する瞬間を狙っていたのだ。


しかし敵はそこで倒れ、私の足を掴むまでに止まった。

すぐ風魔法を準備した。

彼が倒れているとは言え、時間をかけている暇はない。


「風」


今度は直撃で、敵の身体を吹き飛ばした。

もう意識はないだろう。

そのまま吹き飛べ。


しかしそれも叶わない。

右足が何かに急に引っ張られ、激しい勢いで回転し、転倒する。


なぜ?


奇妙な事態に驚愕し、足をみると、縄をつけられていた。

縄は敵の右手に繋がっていた。


足を掴まれた時か…


まずい

体勢を整えようと、立とうとすると、

敵は怒涛の勢いで走り向かって来た。


もう間に合わない

身体を押し倒される


もう私は殺されるのだろう


敵はそういう目をしていた


もう、楽になれるのかもしれない。

それまで思いもしなかったことを、思った。


敵は短剣を持ち、振り下ろされたが、


その剣先は私から外れた。


ーーーーーーーーーーー


気が付いたら彼女に剣を振り下ろしていた。

しかし直前、テルから、ティナの面影を感じた。


違う、殺す直前にティナを思い出したのだ。

彼女達が自分に託したのはこんな殺しだったのかと


イヴァは落ち着いた。

乗りかかり下にいる状態のテルは、まっすぐに自分を見つめていた。


「…イヴァだ。タルポと一緒に雑用をやっている」

「…テル。ラーフ達とコタンに向かわなかったの?」

「俺は村とは関係がない。留守役だ」

「そう…とりあえずそこどいて」


イヴァはどいたものの、警戒を解かなかった。

まだ信じられているわけがない。


「大丈夫よ、あなたの事は分かったから」


テルは警戒を解くよう促した.


「じゃあ、留守を任せたわ」


しかしその足取りは重そうだった。

戦闘の時に右足を怪我したのだろう。

もう一度振り返って、


「足をくじいたから歩くの手伝って」


と痛そうにお願いされた。


ーーー


村への道はテルが案内してくれた。

道中はほとんど話すことはなかった。

あれだけの戦闘があったからそれは当然のことだった。


すっかり夜で暗くなった、岩に挟まれた谷状の細い道をずっと歩いていく。


足をくじいたテルは、イヴァの背中の荷物に木組みをつけ、そこに座った。


細い道を抜けると、広い水田が続いていた。

月明りが水面に反射し、遠くの山々が水田を囲うように広がっていた。

水田の道を歩くと火の明かりがあった。

火は大きく燃えていて、楽しげな音が聞こえてくる。

祭りを行っているようだ。


村につくと、村人達は火の回りで踊っていた。

ラーフ達は、それぞれの家族とそれを見ていた。

踊っている中にタルポの姿があった。


「タルポ!」

「イヴァ!来たんだ、テルは?」

「後ろにいる」

「タルポ、アシル達はどこ?」

「後ろにいたんだ!今はラーフさん達としゃべってると思うよ!」

「分かったわ」

「うん、ていうか足大丈夫!?」

「さっき道中でくじいたの」


テルはラーフの所に向かった。

すると向こうで子供達が「テル姉ちゃん」と呼んで嬉しそうにしていた。

さっきの戦いについてテルは言う気はないようだった。


「こうやって1年に一度楽しそうに火の回りで踊ることで、風の王を迎え入れるんだ」

「風の王?」

「そう、僕らの村は代々魔石との親和性が低いから、比較的簡単な風魔法をずっと使って来たんだ」

「だから感謝の意をもって一年に一度、風の王にもてなしをしている」

「村の民には重要な日なんだな」


「ぷっ、イヴァってたまに領主みたいなこと言うよね」

「はは、おかしいよな」


イヴァは山の上にある月を見つめながら言った。



「お兄ちゃん誰?」


タルポと話していたら、村の子供に声をかけられた。


「イヴァだ、よろしくな。お前は?」

「ナタ!よろしくな兄ちゃん!」


「イヴァもラーフに憧れて盗賊団に入ったの?」

「まーそういう所だ。ラーフはおっかないぞー。攫って来た子供を食べてしまうんだ」

「ラーフはそういうことしないよ!ぎぞくだもん!!」


ラーフ達は村の中で尊敬を集める存在のようだった。

確かに盗賊達の周りに子供達が群がっている。


「あなたも盗賊団なの?」

「新入りだ!新入り!」


小さな少年少女がイヴァに興味を持ち、群がっていた。

イヴァは終始彼らに付き合わされ、しまいには炎を囲んで一緒に踊った。


イヴァは不服そうだったが、同時にこういう事が本当に懐かしく尊いものに思えた。

子供達はその輪に加わり、瞬く間に炎が広がった。


かーぜーのーおうよーいーざーあーたえーたまえー


彼らの合唱が集まり、煙と共に空を上り、月へと向った。




タルポはイヴァの踊る姿を見て安心したようだった。


その輪の端で、ラーフとテルは二人で話していた。


「お前ら来てたんだな」

「結構遅くなったけどね。あのイヴァって人…」

「イヴァがどうした?」

「うん、彼ね、危険だからやめさせたほうが良いと思う」

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