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マセキ・セキマ  作者: 黒野遠里
1/2

荒野で叫ぶ少年

ある街の一日中客の喧騒が絶えない飯屋で、店主は忙しそうにポトフを皿に盛り、それを浮かばせて客に運んだ。

飯屋の外では大工達が魔法で石を並べ、建物を作っている。

大通りには商店が並び、たくさんの人々が往来し、賑わっている。

その道から上を見上げると、一匹の竜が人々を見下ろしながら、堂々たる姿で横切って行った。

 

今から約1800年前。

ある宗教の僧が、寺の湖で黒い石を見つけた。

後にそれを媒介にして様々な現象を引き起こせることが分かる。

黒い石はそれから各地で大量に発見され、意図的に引き起こせる現象を”魔法”と、黒い石を”魔石”と名称付けられた。


人の世は魔石の発見からゆっくりと文明を発展させていった。


そして現在、石歴1796年。

グラス公国の首都イングスから西へ、山をいくつか越えた所に、レンズという小さな村があった。

この村の人々は魔石との親和性が低く、そのほとんどが魔法を使えない。

魔法大国であるグラスの首都イングスに比べて文化は劣っているものの、人々はつつまじく平和に暮らしていた。

この村の領主の息子に、イヴァという少年がいた。


ーーー


「おはようございます、イヴァ様」

「…おはよう」


何か夢を見てた気がする。


「今日はレンズ山ふもとの見回りの仕事がございます。」

「分かった、いつもありがとう」


朝6時。

メイドに起こされて一日が始まる。

毎年この時期になると農作物の収穫の途中経過を確認するために挨拶も兼ねて見回りをする。

最後の見回り先であるレンズ山の地域は、一部洪水の被害に合い、今年の収穫が良くなかった。

イヴァは階段を降り、食卓へ向かった。


「おはようございます、父上」


自分が食卓に向かうと、食事は用意されていて、父上もすでに席についていた。

いつもの風景である。


「…」


「…」


父上と会話が続くことはない。


「行ってきます」


二人で朝食を取り、自宅を出る準備をする。

玄関に続く廊下には歴代の家長の絵が並び、父上の絵が一番端の壁際にある。

自分の絵は違う壁に並べられるのだろう。


「おはようございます!イヴァ様!」

「おはよう!ジーパ!」


村の皆はすでに起き、各々の事をして活気に満ちていた。

肉屋のミーティは昨日仕入れた大量の肉を切り分け、野菜売りのトムは野菜をざるに乗っけていた。

肉屋の隣の家から、太鼓の練習の音が軽快に聞こえる。

野菜売りの隣の家では人が集まってビリヤードが行われている。

いつもの景色だ。


イヴァは村の中心から出て、馬で東にあるレンズ山へと向かった。

麦畑が広がる道を駆けていく。

春風がまだ緑色の麦の穂を揺らし、サーッと奏でた。

馬に乗りながらイヴァは目を閉じ、それを感じた。


「太鼓の音よりいいな」


イヴァは冗談めいて、馬に同意を求めた。


到着すると、レイフさんが迎えてくれた。


「ご無沙汰しております」

「長らくぶりで!どうぞ入ってください」


レイフさんに迎えられて藁屋根の家へと入り食卓についた。

入ると家は焚火で暖かく、りんごの香りがした。

食卓の上の花瓶には花が植えられている。

ティナが取ってきたのだろう。

小さい頃から何度も来ている家だ。 

紅茶をもてなされ、イヴァは席についた。

やがて二人は、ぽつぽつとしゃべり出した。  


「領主様はお元気ですか」

「相変わらずですよ」

「イヴァ様もご苦労なされている」


3年前から父上はイヴァに対して明らかに厳しい態度を取るようになった。

それをレーフさんは知っていた。


「我々には普段通り接していただいていますが、かなり無理をして話されているようです。」

「しかしあの方は本当に素晴らしい人だ。他の領主とは一線を画す」


父上の外交の仕事で、関わることが多いからだろう。

レイフさんがレンズ山ふもとの農作物の取りまとめを行うようになってから、それまであった村人の収入格差などの不平等がなくなったらしい

イヴァは少し不服そうな顔をして、話を変えた。


「今年の収穫について、教えてください」


レーフさんは少し微笑んで、答えた。


「手紙を送ったように、洪水によって畑に被害が出ましたが、収穫量を分配することで今年は何とかなりそうです。しかし、被害の影響で、来年も一部の畑が使えなくなりそうで困っております」


レンズ山では農地は共同で利用し、収穫を均等に分配するというルールが、代表であるレイフさんによって定められている。


「なるほど…では城の近くにある農地で、去年地主がなくなったために空き農地となっているところがあります。距離があるためどこかに住み込みという形にはなりますが、数人を雇うのはどうでしょうか?」

「ありがとうございます。是非その案でお願いします。」


今年災害の被害に合ったのはレンズ山だけだったものの、見回りを全てこなしたことにイヴァは安堵し、一息ついた。

するとそれを見ていたレイフは、感慨深そうにして紅茶を飲んだ。

その後突然笑い出した。


「うっはっはっ…イヴァ様も本当に大きくなられた」


レイフさんは本当にうれしそうに言って、食卓越しにイヴァの頭を撫でた。

叔父がいたならこんな感じなのだろう、とイヴァは思った事がある。

小さい頃から面倒を見てくれた。

それだけに沢山迷惑をかけてきた。

生まれたころから母もいないイヴァにとっては、こういった家族愛のようなものが苦手だった。

イヴァは気恥ずかしそうに頭を手から避けた。


「成人したんですから当たり前ですよ」

「15の年で成人というのも早すぎると思いますがね…イヴァ様は休むことも覚えたほうが良い」


それからレイフさんを遠くを見るようにして、続けた。


「うちの子供達がイヴァ様と過ごした日々を思い出します」


父上の見回りについて行った時に、初めて会ったダルスと取っ組み合いのけんかになり、父上に二人して叱られたことが懐かしい。

しかしそのけんかを機に、ダルスとティナの兄妹と仲良くなり、二人の父であるレイフさんと父上も交流を深めることになった。


会うのは一年に数回だけだが、その度色々な地元の遊びを教えてくれる。

同い年のダルスは川釣りが得意だった。

三人で過ごした日々で、一番多く時間を使った。

彼は普段は短気だが、釣りでは1時間でも魚がかかるのを待っていた。


3つ下のティナは去年花占いを教えてくれた。

ダルスはそういった遊びが苦手でどっかに行ってしまったが、それでもティナは本当に楽しそうに私に教えてくれた。

彼女は先生に向いている気がする。


俺とダルスが今年、15の歳に成人したので、これからは会う機会が減ってしまうだろう。


レイフさんとぽつりぽつり思い出話をしていると、二人が農作業から帰ってきた。

ティナはイヴァを見るなり、顔を赤らめ、そわそわしていた。


「いらっしゃい、イヴァ」

「よお」

「二人とも久しぶり。今ダルスの話をしていてな、お前昔好きだったサーカス団の女の子に、かっこよく見せるために夜こっそり芸の練習をして…」

「その話をすんな!!」


二人が帰って来てから、さらに話が盛り上がった。

ティナは時に赤面し、ダルスは時に得意げになった。

きっといつまでも、時が経って互いに家族を持ったりしても、集まってこのように親しく話すことが出来る。

そんな確信があった。


「ずっと穏やかに時間が流れるといいですね」



「おばさんは元気ですか?」

「…今呼んでくるね」


少し間があって、ティナが返事をした。


「…」


階段からティナと一緒に降りてきたのは、弱った姿のマーザさんだった。

去年よりかなり痩せて、目もすこしうろんげだった。


「お久しぶりです、マーザさん」

「今年はオーツ城近くでテラローゼが咲いたようですね。本当にめでたい」

「はい、近々城で展覧会を行うので、その時はぜひ来てください」

「まあ、ありがとうございます、楽しみにさせていただきますね」


テラローゼが咲いたのは去年だった。

花の展覧会はすでに終わっていて、花は2週間もたず枯れた。

マーザさんの調子が悪いのはすぐに分かった、記憶が混濁しているのだろうか。

かんばつ入れずレイフさんが話した。


「そういえば3日後に城で演劇が行われますよね、私たちもあれを見に行くのです。」

「そうなんですね、演劇団は既に城に迎えられています。彼らは本当に面白い方々ですよ。旅団のメンバーだった者や娼婦、政治家や王族だった方なんかもいて、色々な話を聞かせていただきます。」


始めこそ体調が悪そうだったものの、徐々にマーザさんも話に加わり、会話が弾んだ。


あっという間に、夜が更けてきた。


「そろそろ帰ります。また相談ごとがあれば手紙をください。」

「道中ぬかるんだ道などにお気をつけ下さい。」


4人が玄関まで迎えてくれた。


「本当にありがとうございました、今年もよろしくお願いいたします。」


すぐにまた会えるだろう。

そんな事を考えながら馬にまたがろうとする。

するとマーザさんが前に出てきて、低い声で言った。


「イヴァ様、我らが子よ、自分の道を突き進みなさい」

「はい」


とっさに反応したものの、マーザさんが言ったことはよく意味が分からなかった。

すると、寝室の方からオルゴールの音が聞こえた。

誰かが回したのだろうか。

マーザさんはやはり体調が良くないようだった。

まるで何かを託すような、妄想をしているのかもしれない。

そう思って顔をあげると、


マーザさんは真剣な顔つきで、


レイフさんはその言葉に恐れおののいているような顔で、


ダリスは沈痛な面持ちで、


ティナは何かに震えていた。


何かがおかしかった。

去年から、いや、考えるとずっと何か違和感を抱えていた。


なぜ父親は突然厳しくなったのだろう


あの時ダリスとどういう理由で喧嘩をしたのだろう


馬を走らせて当たる風が生温い。

風と、あのオルゴールの音が体にまとわりついて、これ以上考えると吐き気をもよおしそうだった。

馬を走らせる。

違和感が手綱を焦らせる。


行きにぬかるんでいた道までたどり着いた。

馬の勢いを失ったもののここまでくれば城は近い。

そう少し落ち着いた後、前を見ると、

麦は潰されていて、ぬかるんでいた道は潰され、地面が固まっていた。


何かが巨大な物が踏みつぶしながら通った後だった。

足跡は城に向かっている。


馬を走らせた、今度は確信をもって手綱を握った。

何かが村を襲っていた。


絶望の唄が鳴り始めた。


ーーー


城付近では、兵士と悪魔によって村人の蹂躙が起きていた。

ひどい惨状だった。

無抵抗の住民は次々無残に殺されていく。

魔法を使う人間達に住民はなすすべがある訳がない。


兵士達は機械的にそれを行っていく。

彼らはグラス公国の国旗を掲げていた。

演劇団は軍に所属している。しかし、それについて考えている場合ではない。

一人でも多く救わねばならない。


目の前で幼馴染で服屋のジーパが襲われていた。

馬を走らせる。


「逃げろジーパ!今助ける!」

「イヴァ様…」


しかしジーパは逃げようともせず、兵士の炎魔術で焼かれた。


助けられなかった。

俺が狙われると思ったのだろうか

一瞬、無力感を感じていると、即座に兵士は、魔法の狙いをこちらに切り替えた。

殺さなければならない

遠距離での勝負に勝つことは不可能近い。

盾を構えながら馬で近づく。


「泥」


兵士は土魔術を使って、イヴァの馬の足元に泥をぬかるませて動きを止め、炎魔術の準備をした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私はグラス公国の兵士として数々の戦争を経験した。

人を殺すことに抵抗はない。

今回の略奪先の村の人々は、魔法が使えないようだった。

目的が伝えられていない状況で、理由も知らず無力な人間を殺すことに少し心を痛めるが、

国の繁栄のためならば仕方がない。

繁栄が止まれば次は私達の国が狙われるかもしれない。

隣国のニラル王国に決して劣ってはならない。

なにより使命を果たさなければ家族を養うことは出来ない。

無抵抗の彼らはそういう運命だったのだ。

理性と魔法を持った人間の世界も、弱肉強食の世界でしかない。

村人は奇妙なほど無抵抗に殺されていった。

この村は一体なんなんだ?いや、なんでもない、私には関係のないことだ


しかし現れた。

友を殺され最大の憎悪の目でこちらを睨む人間が。

この目だ、自分の運命を理解していないような

彼らこそが、我々に使命遂行を駆り立てる。

機械的に任務を遂行することを決意する。


すぐに戦闘準備に入る。


敵は盾を構えた。

炎魔術を打つと思ったか

馬の足元を泥に変える。

もうお前はここまで届かない

さらばだ


炎魔術を構えた時、敵は盾を投げ、馬の頭を踏んで跳躍した。

飛んできた盾から身を守ろうとしたその時、敵の剣先はもう目の前まで届いていた。

もう魔法は間に合わない。


貴様の愛馬の頭を踏み台に?

完全に予想外だった。

家族は俺が死んでも大丈夫だろうか。

今となって殺した人々に懺悔したくなる。

彼らもまた…

ようやく彼らの「目」を理解できた気がする。

もう少し生きられたらこの命を、彼らに謝り、彼らのような人を救うために使いたい。

なぜ俺はここで死んでしまうのだろう。いや…

いや、

これが運命か


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


家々の火は城門に燃え移り、城まで届こうとしていた。

村は完全に終わっていた。

舞い上がる火の粉と煙と、地面にべったりついた血で、目の前は赤に染まっている。

生きている村人はほとんどいないだろう。

しかし、一人でも多く救わなければならない。

焦りで思考がまとまらない。


「イヴァ様!!」


城の兵士達が駆け付けた。

しかし数人しかいない。


「他の者達はどうした!」

「…主さまが城にてお待ちになられています、急ぎ向かってください。ここは我らに任させてください」

「この事態にか!」

「…お願いします」


城へと走る。

目にしたのは、城門はもう火が燃え移り、

庭では羽を持った悪魔が一方的に兵士を蹂躙している光景だった。


兵士達は大剣で両断され、

死体が刺さった三叉槍で貫かれ、

死体は足で踏みつぶされて悪魔達は次の兵士へと向かう。


惨状を横目に、城へと走る


「父上!」

「来たか」


父上は食卓の椅子に座っていた。

久しぶりに父上の声を聴いたことに感動することはない。


「生き残っている村人と兵士を連れて逃げましょう」

「その必要はない」

「なぜですか!?」

「お前に渡さなければならないものがある」


それよりも、

その先の言葉がイヴァから発することはなかった。


レンズ山での違和感が、幼少期からずっと感じていた違和感が、ある結論に達する。


「使用人はどこにいますか」

「皆自害した」


イヴァは嗚咽しながら質問を繰り返す。


「なぜ…私だけを生かして皆死のうとするのでしょうか」


それはイヴァの違和感が導き出した一つの確信だった。

なぜ?

私が生まれたこの村は一体、


「私たちは生まれながらにして罪人だからだ」


無慈悲に父は答えた。

イヴァは言葉を失う。


村の全ての民が、これまで穏やかな日々を送ってきた人々が罪人?


「今日この日に死ぬ運命だった。レイフ一家もそうだ」


父上は言葉を続ける。


「村を離れたら、自分が望むがままに旅に出ろ。いつか全て分かるだろう」


続けながら、食卓にある大きな黒い塊を手に取る。

長さ2m程の大剣のような塊は、岩のようにごつごつとしていて、布で巻かれているが、禍々しさを隠しきれていない。


「お前に魔剣を渡す、太古より我々の罪として受け継がれてきた。そして、封印が解かれる時が来た」


そう言って父上は布を取り、ナイフで指を切った。

熱気が漂う。

城から火が上がっているのが分かる。


血を黒い塊に垂らすと、塊から白い光が放射される。

集約された力がそこにあるのを感じる。


「これであなた達を救います」


イヴァは何とか声を、精一杯の力強い声で振り絞る。

言葉があまりにたどたどしく、自分が泣いていることを今になって理解した。


父上は、

昔のように微笑んだ。


「渡せば全て終わる」

「イヴァ、お前を愛している」


塊に触れた瞬間、大量のエネルギーが波動のように広がった。

圧倒的な衝撃波は城を壊し、

城周りにいた兵士や悪魔は一瞬で塵と化し

村を全て吹き飛ばした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


光と爆音で視覚と聴覚がやられ、回復するまで数分かかった。

辺りを見渡す。

土地が一面焼け焦げて、何もない。

黒い土地がただひたすらに続いている。


「誰かいませんか!誰か!」


一人生き残り、口に血を滲ませて叫ぶ少年がいた。

しかし、燃えた木材がパチパチ……と立てた音だけが、むなしく聞こえるだけだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


辺りにはなにもない

突然白い光がピカッと光ると、たちまち何もかもが吹き飛ばされた

周りの家屋も畑も全て無くなった

私は運よく助かったのかもしれない


お母さんは、

お父さんは、

お兄さんは無事だったのかな


辺りを見渡そうとすると

頭から何かが零れた

顔を触ろうとして、自分の腕を見ると、腕は真っ黒になっていた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


絶望の中、一筋の希望が見えた。

レンズ山はここ程焼け焦げてないように見える。

もしかしたら生存者がいるかもしれない


無我夢中で駆け抜けた。

今勢いを失うと、余計な考えが頭に浮かんでしまう。

”なぜ私はこれを手渡された、なぜ村の人々は、父上は死ななければならなかった”


山が近づくにつれて、吹き飛ばされたもののまだ焼けきれていない家屋や、木々が見えてきた。

どうか無事でいてくれ!

レイフさんの家だった場所に着いた。


家は完全に崩壊している。


「レイフさん!マーザさん!ダルス!ティナ!」


叫び続けていると、何か箱が落ちた音がした。

それは、昔ここから近くのバザールで買ったオルゴールだった。

私とダルス、ティナの3人の名前が刻まれている。

キリキリと音を立てながら、メサの唄が流れる


オルゴールはすぐに止まった。


代わりに誰かの息遣いが聞こえてきた。


誰かがいる

生きている人がいる

すがる思いでがれきをどかしながら進むと、全身の肌が焼き切れ、黒くなっている誰かを見つけた。

その体格から少女であることが分かる。


「…ティナ?」


泣き狂いそうになる。

まだだ…まだ彼女を救えるかもしれない

近寄って体を抱き寄せる。


「ティナ、今すぐ病院に行こう。大丈夫、すぐ治るから」

「…イヴァ?…」

「そうだよ、すぐに助けるから」

「…イヴァ…帰ってきたんだぁ…私ね…本当はまだイヴァと…話していたかったんだ…」


ティナが死んだ。

何もかもを失って、狂ったように叫び続けた。


「アアアァアアア…アアアアアアアアァアアアア…」


ーーー


結局ダルスの遺体も見つけた。

レイフさんとマーザさんのは見つからなかった。


二人の遺体を墓に埋めた後、レイフさんの家から必要なものを取って、旅の準備をした。

こうなった答えを知らなければならない。

なぜ村人は、

なぜティナは13で死ななければならなかったのか


そして贖罪の旅へ


ーーーーー


顕微鏡をのぞく老人がいた。


老人はずっと、ある研究を続けていた。


その疲労か、ほぼ死にかけのように見えるその顔は、最後に、レンズを覗いて、


満面の笑みを浮かべて息絶えた。


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