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3章:解答編

「この謎は、私には解けません」




 不死身探偵から初めて聞くフレーズだった。


「……わからなかった、ということですか?」

「いえ、一晩かけてネット中の工場や倉庫の画像・動画を漁った結果、彼らの監禁場所の背景と一致する施設をひとつだけ見つけました。昨年に廃業したプラスチックメーカーが保有していた工場のようです。関東にありますから、片道四時間もかからないでしょう。そこに行って人質を解放すれば、事件は解決できます」


 明るい兆しの言葉とは裏腹に、向野さんは迷いを隠すような瞳をしていた。


「つまり、犯人を捕まえて人質を解放するだけでは真相にたどり着けないと?」


 向野さんはゆっくりと頷く。


 僕は目を閉じて、思考を巡らせる。


 なぜ集団誘拐事件が起きたのか。なぜ渦は金銭を要求しないのか。なぜ二十四時間というリミットを設けたのか。なぜNG行動が存在するのか。なぜ凶器にナイフを選んだのか。なぜ伝馬さんは殺されたのか。なぜ収たちがターゲットに選ばれたのか。なぜビデオ通話を許可したのか。


 

 やがて僕は、ひとつの結論にたどり着く。



 それはとても残酷で、想像するだけで倒れてしまいそうな現実だった。だが僕はこの事件を止める義務がある。


 誰のためかと問われれば、誰のためでもない。


 もしかしたら誰も報われないどころか、関係者全員が悲しむ結末を迎えるかもしれない。僕がやろうとしていることはただの偽善で、真に糾弾されるべきは僕なのかもしれない。


 それでも、前に進みたい。


 自分にはどうすることもできない、関係ないなんて、言うものか。


 僕は以前と比べ少しずつ変わっている。蟹江が生きていたころは、何だったらその後も僕は、踏み込むことを恐れていた。人を知るのが怖かった。


 だが今は違う。そのきっかけをくれ、今も僕を変え続けてくれる人に報いたくて、一歩踏み出す。


 僕は瞼を開き、向野さんに宣誓する。




「行きましょう。収たちを助けに」

  

 ☆ ☆ ☆


 犠牲者は二人に増えていた。実紗さんの夫・ケンジさんが首からおびただしい量の血を流している。僕がもっと早く答えにたどり着いていれば、食い止められたのだろうか。


 いや、後悔よりも今優先すべきなのは、事件の解明だ。


「計画って……どういうこと?」


 足のロープを解いても、収は立ち上がろうとしない。左足の怪我が影響しているのか、あるいはここを離れたくない理由があるのか。


「最初に違和感を抱いたのは一人目の犠牲者……伝馬さんが、肩にナイフを刺された時だ。渦が袖から出した時点で、折り畳みナイフは刃が剥き出しになっていた。そんな状態で懐に忍ばせておくなんて危ないじゃないか」

「折り畳み式とはいえ、専用のケースにでも入れていたんじゃない?」

「違う。そういう展開になることが予測できていたからだ。今までの経験から」

「……今までの、経験?」

「渦が集団誘拐を起こしたのは、今回が初めてじゃないって意味だよ」


 この事件は、連続する連続殺人事件だった。


「うーん、そう何度もうまくいくものかな? 過去に何度か同様の犯行があったとして、そのたびに死人が出ているわけでしょ? 被害者の遺族……今回で言えば兄さんみたいな当事者が黙っているとは思えないけれど」


 その通りだ。想定外の事態のひとつやふたつ、起きてもおかしくない。もしこれが渦の単独行動で、事件のカテゴリーが連続集団誘拐殺人だとしたら。


「……本当は集団誘拐でも、連続殺人でもないんだ」

「え?」


 ここからが真の解答編。




 そして僕たちにとって初めての、兄弟ゲンカとなる。




「これは、集団自殺なんだろう?」

残り2話で完結です。

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