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2章:週刊リアリィ

「お久しぶりです、束さん」


 事件の後に髪をすっきりさせた向野さんは、服装も夏仕様になっていた。キャミソールワンピースは相変わらずだが、下に着ている白シャツはノースリーブ。白い素肌が眩しい。


「急にお呼び立てしてすみません」

「いえ、暇でしたから」

「では早速まいりましょうか」


 そう言って向野さんが指差したのはいつもの居酒屋……ではなく駅のホームだった。


「目的地へは電車移動ですか?」

「三つ隣です。駅から少し歩きますがよろしいですか?」

「問題ありませんよ。電車乗る前にコンビニでお茶買わせてください」

「どうぞどうぞ。私もここに来るまでにアイスを二個も食べちゃいました」


 どうやら向野さんは暑がりらしい。楚々とした立ち振る舞いの彼女には、日傘も麦わら帽子も似合いそうだ。


 電車に揺られている間、互いの近況を教え合った。といっても僕は大学の授業のことくらいしか話題がないので、向野さんがこの一週間で洋食屋のアルバイトを始めた話や、オムレツの起源は古代ペルシャまで遡るのに対しオムライスが誕生したのは一九〇〇年前後であるという話、仕事のミスがあまりに多く昨日職場をクビになった話などに耳を傾けていた。やはり走馬灯現象がないと、この人の基本スペックは残念らしい。


 下車後、駅から歩くこと二十分。とあるビルの前で、半歩先を行く向野さんの足が止まった。


「到着です」


 ビルの入り口横の壁に取り付けられたプレート看板からは、この建物が十階建てであること、ほとんどのフロアを出版社が使用していること、一階では平日限定でパン屋が営業していることなどが読み取れた。近隣に建造物は見当たらず、すぐ裏手には雑木林。良くいえば仕事に集中できる環境といったところか。


「私たちの目的地は、ビルの五階です」

「『週刊リアリィ編集部』ですか」


 政治批判や芸能人のゴシップ、凶悪事件の考察、競馬・パチンコといったギャンブル、果ては女性スポーツ選手のルックスランキングなど幅広いジャンルを取り扱う、一言でいえば「世間がイメージする、絵に描いたような週刊誌」、それが週刊リアリィだ。


「こないだの事件のインタビューとかですか?」

「いえ、むしろ逆ですかね」

「と、言いますと?」

「すぐにわかります」


 向野さんはエントランスにある警備室の小窓をノックし、中にいる警備員に会釈をした。相手も向野さんを認識しているようで、手前に置いてあるシートへの記帳を促す。やがて小窓が開き、ネームプレートを二枚差し出してきた。


 GUESTと書かれたプレートを胸元に装着し、僕たちはエレベーターで五階に向かった。


 この後の展開については、なんとなく想像がついている。


「こないだの事件」の、むしろ逆。


 つまり、新たな事件について。




 不死身の探偵が、再び動き出したのだ。


 ☆ ☆ ☆


「麗央~~! 久しぶり~~!」


 週刊リアリィ編集部に到着直後。スタッフと思しき女性が向野さんを見つけるやいなや、情熱的なハグをした。高身長だからか、抱きしめるというより包み込んでいるようだ。向野さんは抵抗も空しく、女性に上半身を締め付けられている。


「く、苦しいです……!」


 抱きしめたままくるくると回り出しそうな勢いだったが、僕の存在に気づいたらしく、急に両手を離し、キリッとした顔つきになる。


「この男の子が、例の?」


 問いかけに対し、向野さんは少し疲れた顔で頷いた。


 黒のサマーニットにベージュのパンツ姿の女性は、僕のもとにつかつかと歩み寄り、名刺を差し出してお辞儀をした。肩からさらさらとした黒髪が零れる。


「はじめまして。週刊リアリィの記者を務めている小原愛理(おはらあいり)です。このたびは無理なお願いをきいていただいて本当にありがとうございます」


 年齢は三十前後といったところか。メリハリのあるスタイルで、どこか妖艶さを感じさせる。


 それより気になったのは、後半の一言だ。


「無理なお願い?」

「え?」

「ん?」


 僕と小原さんが同時に目線を変えると、向野さんの水晶玉のような瞳がとたんに泳ぎだす。




 さては、もったいぶっていたんじゃなくて、言い出しにくかっただけだな。

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