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1章:星

 二人が同時にこちらを見る。向野さんは驚愕の、生田は期待感に満ちた目をしていた。


 これはきっと、僕じゃなくても答えられる。凡才でも、ヘアアレンジの知識がなくても、相手の立場で考えさえすればおのずと導き出されるはずなのだ。だからこそ生田は人間を土台にすることを選んだ。殺人という、世間が注目する手段を用いて。


「彼女たちの髪型は……星座の動物を表現しているんじゃないですか?」


「星座の……動物?」


「はい。彼女たちの髪型を思い浮かべてみてください」


 向野さんはショルダーバッグから写真を取り出し、それぞれを見比べる。


「須田芽里乃の髪はパーマが当てられ、アフロになっていました。これはシンプルに、羊の体毛を表しているんじゃないですか?」


 生田の瞳が輝きを帯びる。


「佐倉ケリーはおうし座ですから、つまり牛です。彼女は部分的にバリカンを当てられていましたが、残った髪を真上から見ると雄牛の、角の形になるんです。整った角じゃなくて、少し捻じ曲がっていますけど。戦いを繰り返し変形した、力の象徴とでも呼ぶべきでしょうか。双葉璃子はふたご座だから、左右対称の髪型になっていました。完璧なシンメトリーでなかったのは、顔のわずかな違いを模したのでしょう。蟹江の場合は……」


「……蟹、ですか?」


「はい。まるで蟹のハサミで切り刻んだような鋭さと乱暴さを併せ持っていました。だからこそヘアカット用じゃないハサミを使ったんだと思います」


「素晴らしい……」


 生田は声を震わせ、感動に打ち震えていた。


「ここまで俺の作品を仔細に理解してくれる人と出会えるなんて。……いや、確かに伝わる人にはちゃんと伝わるようデザインしたつもりなんだ。でもあくまで俺は素人で、いや、親が離婚してから妹のヘアカットはずっと家でやってたから未経験ってわけじゃないけれど、ただ大人の髪をいじるのは妹の時と全然違って……」


 理解者との邂逅を果たしたと思ったのか、生田は早口で制作背景を語る。それを遮ったのは向野さんだ。


「女性の髪は、あなたの作品発表の場ではありませんよ。第一、命を奪う必要なんてなかったはずです」


「何を言っているんだ? 個展の展示物が動いたらおかしいだろう。博物館のミイラや琥珀だって死んでいるからこそ、そこから生を感じ取ることができるんじゃないか。マネキンじゃ駄目なんだ。四肢があって膨らんだ胸があってエネルギッシュな若さがあって、本物の人間を使用することで、俺の芸術は完成する!」


 全能感に満ち溢れたように、生田は哄笑した。対して向野さんは、犯人に罪を反省させることはできないのかという無念さと苛立ちをにじませている。


「ほら、早く警察を呼べよ。聴取でも裁判でも、俺の主張は変わらない。ニュースで報道されれば、たくさんの賛同者が現れるはずだ。死刑なんて怖くもない。芸術家は死してなお数百年と評価されるものだからな」


 僕は無力感に苛まれかけている向野さんを一瞥し、スマホを取り出した。ロックを解除して一一〇番を押しながら、生田に訂正をする。


「言っておきますけれど僕、理解なんてしてませんよ?」

「あ?」


「僕はあくまであなたの思想を読み解いただけです。そもそも女性が手間暇かけて髪をケアするのは自己表現のためであって、他人が土足で踏み入っていいものじゃないかと」


 向野さんが顔を上げ、僕を見る。


 別に説教をするつもりはない。僕には乙女心なんてわからないし、誰かの生き方を咎められるほど偉い人間でもないのだ。



 ただ、一言だけ言わせてほしい。



「これはあくまで僕個人の意見ですが、あなたのヘアアレンジ……」




 もしも、美術館にあれらが展示されていたら、きっとこう思う。






「めちゃくちゃダサいです」

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