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第八話 新たな仲間

 懸念事項があるとすれば一つ。

 レベルドレインを受けた私で、ゴブリン相手にどこまで戦えるのかということだ。


 ゴブリンといえば小鬼のモンスターで、世間一般的に言えば知能がある分、害獣よりちょっとだけ厄介といった具合だ。

 並みの戦士や魔法使いなら、たとえ群れが相手でも苦戦することはないだろう。

 そして、今の私は並みの戦士ほどの戦闘能力は残っているのだろうか。


 おい。そこんとこどうなのよ?


 アーニャはなぜか誇らしげにその薄い胸を張った。


『ゴブリンがどんなのかわっちは知らぬが……さっきの犬っころは倒せたんじゃから大丈夫じゃろ。まあレベル20くらいあれば、わっちらの眷属相手でもそう簡単には死なぬ』


 だからそのレベル20がわからないんだって。もっとわかりやすく説明してくれない?


『はー!人間とはなんと物わかりの悪い生き物じゃ。そもそもどちらが強いかなどという曖昧なことを、明確にする方がたわけなんじゃ。それを――』


 え、待って。むしろこれ私が怒られてるの?意味わかんないんですけど。

 編笠の下で私は小さくため息をついた。


「あーはいはい。わかったわかった。たぶんゴブリンを倒せるくらいの力はあるのね。オーケーオーケー」


 アーニャが面倒くさい熱弁を始めたので会話を無理やり止める。


 村から出て、森の中の道へと戻ったのだから、道があってもここはもう人間だけのテリトリーではない。直に日も傾いてくる。注意するに越したことはない。


 それに――


 私は不意に足を止めた。

 アーニャが眉を寄せて不審がる。どうやら彼女は気が付いていないようだ。

 なるほど、ね。戦闘能力は下がっても、冒険者として培ってきた経験と勘までは奪われていないみたい。


「で、こそこそと後をつけて私に何の用かしら?」


 沈黙。


 風で草木が揺れる音。


 虫の鳴き声。


 そしてアーニャは困惑したように私の方を見る。


『おぬし、いきなり何を――』


 言うんじゃ?という言葉は、突如として響く男の笑い声にかき消された。


「がはははははは!さすが冒険者だ!俺の存在に気が付くとは、なかなか特別な御方だと伺える!」


 いつの間にか、木々の合間から男が一人姿を現していた。

 若く、大柄な男だ。たぶん私とそう変わらない年齢だと思う。さっきの村民とは正反対のどこまでも陽気そうな印象を抱かせる。


「そりゃどうも。で、あなたは誰なのかしら?」

「よく聞いていくれた!天呼ぶ地呼ぶ風が呼ぶ!故郷を守れと轟き叫ぶ!ヨンパの村で一番の力自慢とはこの俺、ビクトルのことよ!ガハハ」


 うわぁ。なんかすごく面倒なのがやってきた……。


 村一番の力持ちというだけあってガタイはいい。野良作業で鍛えたのか、腕も私より一回りほど(・・・・・)太い。

 でも、たいがいこういう〇〇の村で一番の力自慢って、あんま役に立たないしむしろ死亡フラグなんだよねえ……。


「で、もう一度訊くけど私に何の用?」

「うむ。旅の冒険者が、村を脅かす脅威を排除しに行くと聞いてな。ならこの俺も一緒に行かねばならんと思ったのだ。村の危機を余所者に全て任せるというのは、俺の性に合わないからな。寝てばっかりはいられんよ!ガハハ」


 なるほど。それはいい心がけである。陰気さの欠片もなくて、とても同じ村の住民とは思えない。

 しかし、槍も防具もなく手ぶらというのはいただけない。


「言っただろ、ヨンパの村で一番の力自慢だって。この力こぶがあれば問題ない!」


 呆れる私の目前で、ビクトルはポージングして力こぶを作ってみせる。


 あのぅ、問題ないわけないんだけど……。石ころ投げられただけで致命傷になると思うんだけど……。囲まれて棒で叩かれても知らいないんだけど……。


 だが、ビクトルはそんなこと一切気にしていないようで、ひたすら陽気に笑い声をあげている。

 まったく、いったいどこからそんな自信が湧いて来るのだろうか。


「まあ、農作業しかしてないから槍なんて満足に使えないだけなんだけど」


 急に小声になってビクトルは補足する。

 やっぱだめだわこれ。


「あのね、ピクニックじゃないの。連れていけるわけないでしょ」

「おいおいおい!そんな連れないこと言うなって。それに冒険者とはいえ、女の子を一人で危険なとこに行かせられるわけないだろ。男が廃る」


 言っていることは立派だけど立派な死亡フラグです。アリガトウゴザイマス。


「待て待て待て。俺はゴブリンの根城を知ってるぜ。有益な情報だろ?」


 ビクトルはニヤリと口端を吊り上げた。


 根城か……。

 ふむ。なぜビクトルが知っているかは別として、ゴブリンの居場所がわかるのは良さげである。一気に強襲をかけたり入口に罠をはったり、火攻めができる。

 どう思う?


 アーニャは面食らった様子で私のことを凝視した。どしたんよ?


『え、あ、うむ。おぬしの好きにせい。わっちにはわからん』


 んー、私の幻覚のくせに冷たいなあ。少しくらいアドバイスしてくれてもいいのでは?


『わっちはあくまで傍観者じゃ。他はぬしが決めるがよい』


 それっきりアーニャは黙りこくってしまう。

 やっぱり夜が近づいてきているせいで調子が悪いのだろうか。仕方がない、そっとしておいてあげよう。

 で、ビクトルの件だが……。


「あ、俺は断られても付いて行くからその辺よろしく!」


 人の話をきいてんのかこいつはッ⁉


 ……はあ。

 見えないとこで大怪我されるよりは、いくぶんましだろう。

 森にも詳しそうだし。馬鹿となんたらは使いようって言うしね。


「わかったわ。でも、約束して。絶対に私の足を引っ張らないように。あんたをフォローできる余裕がわるかわかんないから」

「あれ、実はそれほど強くない感じか?」

「……諸事情よ」

「ガハハ!ヨンパの村で一番の力自慢であるこの俺がいるから心配することないゾ!」


 あんたが心配のタネだぞ。


「で、女冒険者さん。名前はなんて言うんだ?」


 そういえばまだ名乗っていなかったようだ。


「レティシア。レティでいいわ」

「そうかそうか!うんうん。奇麗な名前だ!レティ、よろしく!」


 よろしくという割には、なぜか握手はなかった。

 頭がくらくらしてきた。額に手を当て、ため息を一つつく。


「もう、また変な奴が仲間になったじゃない……」


 できる限り控えているけど、今回ばかりは恨みごとぐらい言っても主は大目に見てくださるだろう。


『かわいそうに。どうやらおぬしはそういうのを惹きつけてしまう体質みたいじゃの』


 などと変な奴の筆頭が言うのだから、私の心身はごりごりと削られていくのだ。

 あと憐れむような眼を向けるのをやめてほしい。

 マジで心神喪失になるから!

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