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作家と殺し屋(台本)  作者: りんかさん
2/3

お互いの思考が分かるまで

殺し屋さんメインのお話です。

男「上がってきたか。湯加減はどうだ。」


女「……湯加減はどうだ、とか初めて聞かれたわ。今どき、お風呂なんて全部自動で調節してくれるじゃない。あなた、一体どんな家に住んでたの?」


男「至って普通の家だぞ。水も出るし雨風も凌げる。」


女「……生活水準が低いわ。」


男「生きることが出来ればそれでいい。」


女「そう……まあいいわ。湯加減、丁度よかったわよ。」


男「ならいい。だったらさっさと寝ろ。これからはもう夜更かしするなよ。急に死なれても困るからな。」


女「あなたは一体私をなんだと思っているのよ。人間、そんな簡単に死なないわ。」


男「分かったから寝ろ。」


女「わ、分かったわよ…。言っておくけど、寝込みを襲ったりしないでよね?」


男「さっきも言っただろう、興味があるのはお前の」


女「分かったわよ、2度も言わなくていいわよ…。」



ー電話での会話ー

編集「先生!?やっと連絡してくれましたね!?今一体どこにいるんですか!?家に行っても留守ですし!」


女「そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわ。とある事情で家とは違う場所にいるのよ。仕事はしているし別に失踪する訳でも無いから安心して。」


編集「それはそうですけど!……今回の原稿、主人公の女の子が誘拐されるシーン、すごくリアリティがありました。まるで誘拐された経験があるみたいでなんだか、なんだか嫌な予感がしてるんですよ。本当に大丈夫ですか?」


女「大丈夫よ…話はそれだけかしら?」


編集「……はい、まあ、それだけです。何かあったらすぐに私に連絡してきてくださいね?次の原稿もよろしくお願いします。」


女「ええ、分かったわ。心配してくれてありがとう。じゃあね。」




男「…確かに携帯を返したのは俺だが、まさか目の前で連絡を取り始めるとは思わなかったぞ。少しは警戒するもんじゃないのか。」


女「それを言うなら、あっさり返してくれたあなたにもびっくりよ。携帯に細工がしてあるのかと思って、試しに編集に電話したら普通に繋がったしね。私が言うのもなんだけど、本当にちゃんと誘拐している自覚はあるの?」


男「それはお前が、携帯を返してくれないと仕事が出来ないなどと言い出したからだろう。お前は1度言い出したら本当にキリがないから返したんだ。それに、仕事が出来ないというのは俺としても困る。」


女「あなたもあなたで少し押しに弱すぎるわ。誘拐なんてものをしているのだからもう少し傲慢に振舞ってもいいんじゃないかしら。」


男「むしろ傲慢に振る舞われているのは俺の方だと思うが……、そう言えば、なぜ助けを呼ばずに濁したんだ。さっきの通話の相手は編集か家族かなんかじゃないのか?」


女「特に帰る理由も見当たらなかったからよ。ここに居れば仕事も出来るしご飯は勝手に出てくるし。正直快適なのよここ。」


男「俺はもしや、家政夫か何かだと思われてるのか?」


女「あら、やっていることはそうよ。」


男「……くそっ、こんな事ならもっと誘拐して正しい方法を確立させるべきだった。」


女「経験のためだけにそんなことを真面目に後悔しないでよ…。あなた、本当になんの仕事をしているの?」


男「それは言えない。」


女「どうして?もうあなた、かなり喋ってしまっているじゃない。」


男「どうしても、だ。」


女「本当に、本当に変な人ね。」


女(もう言ってしまっているようなものじゃないの。この人、間違いなく真っ当には生きてこなかった人だわ。……ますます私を誘拐している理由が分からない……。)


男「…………なんだ、人をジロジロ見るな。」


女「いえ、少し疑問があって…。そうね…聞いてもいいかしら。」


男「なんだ。」


女「あなた、どうして私を誘拐なんてしたの?話を聞く限りあなた、相当危ない橋を渡りながら生きてきた人じゃないかしら。そんな人が、こんな一介の小説家を誘拐して、しかもただ見てるだけだなんて、何か裏があるとしか思えない。」


男「………………。」


女「それにあなた、最初に会った時に『時間が無い』って言ったわ。あれはどういう意味?その割にはのんびり私を観察しているし、まるで…まるで、いまこの瞬間を味わっているような…。そんな感じがするのよ。」


男「……はぁ、お前のその好奇心からくる謎の鋭さには本当に感服するな。」


女「え…?」


男「……人生で1度くらいは、自分の意思で行動してみたかったんだ。俺は…物心ついた時には既にとある組織にいた。常に傍には武器や死体が転がっていた。大人に命令されるまま、武器の扱い方や暗殺術を学び、命令されるまま、誰かを殺して生きてきたんだ。昨日まで仲間だったやつも殺したことさえある。何人殺したかなんて覚えてもいないし、殺すことに関して特に何も思わない。そういう風に、育てられたからな。」


女「……………。」


男「ある日、殺した男の部屋に1冊の本があった。今まで読書なんてした事は無かったから、ふと気になって読んでみたんだ。本の中の人間は、笑ったり泣いたり、怒ったり悲しんだり、自分の感情を表に出して、全力で気持ちを伝えていた。全力で、生きていた。なんだか頭を殴られたような衝撃が走って、最初は本を投げてしまったんだ。でもまた続きが読みたくて、その衝撃を求めてまた読み出した。しばらくは本を投げては読んでを繰り返していたな。」


女「………本を投げるだなんて、中々作家に聞かせる言葉じゃないわね。」


男「ふっ、そうだな。作家からしたら冒涜的な行為だろう。だが、その頃の俺にはそれほどまでに刺激が強かったんだ。俺はその本を持ち帰り、1ヶ月かけて読んだ。本はボロボロになってしまったが……面白い、と思った、本当に。登場人物の感情1つ1つが俺の知らない、感じたことのないものだった。」


女「…………それが、私の…本。」


男「そうだ、お前の本だ。お前が書いた本だ。……任務以外の時間は全て本を読むのに費やした。楽しかった、色んな世界に行き、色んな出会いがあり、色んな別れがあった。どれもこれも知らない世界で、どの登場人物もみんな生きていた。俺は、こんなに世界が広かったことを知らずに過ごしていたことに気づいたんだ。」


女「………あなた…。」


男「そこからだ、お前に興味を持ち始めたのは。1人の人間から、心臓に刃物を刺せば簡単に死んでしまう脆い人間から、どうしてこんなに色んな世界を作り出すことが出来るのか。考えれば考えるほど分からなかった。だからお前を攫ったんだ。」


女「……なんて突拍子もない考え方なの。分からないから誘拐した、だなんて。」


男「……そう言えばまだ質問に答えていなかったな。なぜ時間が無いのか。それは、俺が脱走してきたからだ。」


女「…っ!」


男「組織からの脱走、それは死を意味する。ここが見つかるのも時間の問題だ。ああ、安心しろ、お前に危害を加えられることは無いだろう。時が経てば、お前はすぐに元の生活に戻れる。」


女「……そこまでして、そこまでして、……私の思考が知りたいの?」


男「ああ。」


女「私は……私の作品は、誰かの人生を変えたのね。」


男「少なくとも俺は、狂おしいほどお前に変えられたよ。」


女「そう……そうなのね………。」

次回でこのお話は終わりです。最後まで読んでいただけると嬉しいです。

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