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愛をあなたに

千年の愛をあなたに

作者: 冬真

最後はハッピーエンドです。

遠く遠く、百年以上前の記憶。

戦地に向かう彼を見送る事すら私には出来なかった。

下級兵士の男と一国の王女。

一目で恋に落ち、逢瀬どころか文を交わすのさえままならなかったが密かに愛を育み続けた。

けれど、彼の無事を祈る私の元へと届いたのは敗戦と戦闘部隊壊滅の知らせだった。

その日の夜。

王族が辱めを受けるわけにはいかないと、家族が揃った晩餐の最後に父が自ら飲物のグラスを配った。

両親も兄も義姉も皆静かに涙を流し、義姉の膝に座る3歳の甥も不安そうな顔をしていた。

グラスを掲げた父は高らかに王国を賛美しグラスを一気にあおった。

それに続いて私達もグラスに口をつける。

喉を液体が通った直後から全身を焼くような苦しみが襲う。

徐々に視界が霞み、音も聞こえなくなる中、私は震える手を空中へ伸ばすが何も掴むことなく空を切って地面に落ちた。

それが昔の私の最後だった。

『生まれ変わったら一緒になろう。』

口癖のように繰り返していた彼と私の約束だった。

私達の願いが叶うとは当時の私は1%も信じていなかった。

自分でいうのも信憑性に欠けるが、前世の私は現実主義者であったと思う。

交際していた彼へ嫁ぎたい気持ちに嘘はないが、それを叶えるには自分の身分と背負っている責任を放棄することになる。

王族として生まれたからには国を守り栄えさせなくてはいけない。

それは血税により私達の生活を支えてくれている国民に対する義務だからだ。

特に女性王族の婚姻は外交への関与が大きく、国の存続を左右する事すらある。

愛を貫くと言えば聞こえは良いが、それが原因で傾いた国がどれほどあったか。

恋に浮かれても愛に溺れるな。

私情に流されず状況を把握し判断をすべきと歴史は教えてくれている。

だから万が一の奇跡が起こり、彼と私は前世の記憶があるまま生まれ変わって出会った瞬間に気が付いてプロポーズされたとしても、昔に交わした約束が果たせるかというと現状を考えたならば難しいと思う。

今生の私は町人の娘として、彼は公爵家の跡取りとして生まれた。

以前と逆転したようなだけだなんて笑いたくもなる。

百年前よりは身分による格差は縮まっているものの、この国は未だ貴族社会が根付いていた。

特に高位貴族になればなるほど血統や家柄が重視され、最高爵位の公爵家跡取りの男が下町の娘と婚姻するなんて許されるはずもない。

それに彼には親が決めたとはいえ婚約者がいた。

「残念だけれど私は貴方とは結婚できないわ。貴方もよくわかっているのではなくて?」

プロポーズの答えを聞きたいと彼に招かれた公爵家の応接間で対面のソファーに座る彼に私は続ける。

全てを投げ捨てて逃げる選択肢も考えた。

きっとそれなりに幸せになれるだろうが、幸せなのは本人達だけ。

残した人々には迷惑をかけるし、婚約者に至っては不幸にしてしまう。

それを知っていて自分達だけが幸せな道を私は選べない。

「私は貴方を困らせてばかりね。」

新緑色した彼の瞳から一筋の涙が零れる。

前世の彼とは違う色の瞳、違う容姿、でもそんなのは関係ない。

中身が彼なら老人でも子供でも女性だったとしても好きになる。

例え人間じゃなくても愛してしまうだろう。

そして彼の心も私と同じだと知っている。

だから私の決断が彼をどれだけ悲しませ傷つけるのか痛いほど分かる。

「貴方の婚約者はとても素敵な人、彼女の人生を壊してはいけないわ。」

彼の婚約者は侯爵家息女で困った人がいれば貴賤を問わず手を差し伸べる優しい女性だった。

思慮深く教養もあり、彼と公爵家を支える良き夫人となるだろう。

「彼女を幸せにしてあげて。」

私をこんなにも幸せにしてくれた貴方ならきっと大丈夫。



「少しは手を動かしなさい——————って何を泣いているのよ!?」

妹と2人で母からお願いされた倉庫の片づけをしているのだが、床に座り込んで動かない妹に痺れを切らして声をかけると妹は何故か泣いていた。

「だ、だって、これが。」

「?何なのよ・・・何だ本じゃない。」

妹の手には古い本があった。

「違う!日記!」

「大して変わらないわよ。」

妹によるとこの黄ばんだボロボロの本は遠い昔のご先祖様の日記で、ご先祖様は恋人と身分違いが理由で結ばれることが叶わなかったらしい。

「愛する人の為に分かれるなんて辛い、辛すぎるわ!」

「身分の壁があったのなら仕方ないわ、別れた方がお互いに幸せよ。」

「お姉ちゃんは相変わらず夢がないんだから。」

「現実を見ているだけよ。ほら、さっさと片づけないと日が暮れてしまうわ。」

妹は不満げな顔をして日記と称する本を置き、片付けを再開する。

それを確認して私はパンパンになったゴミ袋を捨てるために倉庫を出る。

先程の日記は身分制度があった時代、近くても数百年前の品物ということになる。

こんな田舎の倉庫に良く残っていたものだ。

(ご先祖様も今の時代に生まれていれば良かったのに)

遠い昔に身分制度が撤廃された現代では身分の違いで結婚できないなんて考えられない。

貧富の差による問題は多少あるかもしれないが結婚が出来ない程ではない。

(時代が悪かったとしか言えないわね——————あら?)

家の前にあるゴミ置き場へ歩いていると門の前に人がいるのが見える。

さらに近寄ると若い男性だと分かる。

呼び鈴を鳴らすかどうか迷っている様子だった。

「あの、我が家に何か御用でしょうか?」

声をかけると男性は目を大きく見開いて固まり、瞳から次々へと涙が零れ落ちる。

「え、あ、ちょっと、どうかしましたか?」

妹といい見知らぬ男性といい今日は泣かれてばかりだ。

門の外に出てポケットに入れていたハンカチを男性へ差し出すが、男性はハンカチを受け取らない。

それどころかハンカチを持つ私の手を貴婦人にでもするように恭しくとると汚れるのも気にせず片膝をついた。

唐突な行動に戸惑い動けないでいる私の耳に男性の声が届く。

今度こそ私と結婚してくれますか、と。

裏設定で最初の王女様の甥は生き残っていて、その子孫が下町の娘であり、さらにその子孫である日記を見つけた姉妹に繋がっているとしています。

そして、王家の子孫は金髪碧眼を受け継ぎ、王女様も下町の娘も姉妹も金髪碧眼の予定です。


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