旅の始まり
「愛はこの世界で最も尊く貴重であり人は皆それを求めて生き続ける。」
見渡す限りの荒野の中歩く魔族の少女ルーは唐突につぶやいた。共に歩いているコナルはルーのつぶやきに対し特に反応を示さない。こうしてルーが意味もなく何かをつぶやくことは魔王城に居た頃からよく暇になるとしていたことだ。ルーが物心付く前より使えているコナルは初めの方こそ真剣につぶやきに対しての問答をルーとしていたが、そのほとんどは答えの出ないまたは人によって答えの変わるものばかりだった。そのくせルーはそれなりのとした答えを求めてくるためコナルは困っている。ルーはそんなコナルの心情を知りながら自分が暇になるとコナルに対して良く分からないことをつぶやくのだ。暇つぶしであるが少しぐらい得るものが欲しいと彼女はどこか思っているのかもしれない。得るものなど何もないかもしれないが。
「コナルは愛って何だと思うの?」
ルーはしばらくしてもコナルが反応してくれないからとうとう質問してきた。こうなってはこのよくわからない話題で話し始めなければならない。
「思いやり。異性間の愛情。憎しみと対をなすもの・・・」
「いや、そんな堅苦しい答えじゃなくてさもっとこうなんて言うか・・・」
「私がルー様に向けている感情とか、そう言うことですか。」
「そうそう、そんな感じ。もっと不確定、不確実・・・確かめようのないもの。そう!確かめようのないものこそが愛なんだ。」
「それはそれは、厄介なことですね。」
機嫌がいいのかルーは芝居かかった動きをしながら言った内容にコナルは事務的に返答した。しかし今まではそんな答えで納得していないはずだがどういう風の吹き回しなのか?
「こんな中身のない会話何てもしかしたら初めてかもしれないね。」
頭の後ろで手を組み自分よりも背の高いコナルを見ながらどこか嬉しそうにルーは言った。
「前まではさ、必要ならどんな些細なことも自分のものにしようとしてたし、不要なことはなるべくしないようにしてたんだ。」
それは常に付き従っていたコナルはよく知っていることだ。魔王の娘としてどこへ出しても恥ずかしくないようにはたから見れば厳しい教育がルーには施されていた。それらに対してルーは付いて行くのがやっとのところだった。
「兄上、姉上はともかく弟妹達には負けたくはなかったからね。」
今回討たれた魔王プロフディにはルーを含め数十人の子供がいた。全員が次期魔王候補として扱われ常に切磋琢磨する仲であった。ルーはこれといった才能は無く教育初期ではこれでは次期魔王にはとても成れないと揶揄されていたが、どうにか喰らい付いてあきらめないよう続けていくうちに認められていくようになっていた。そもそも教育について行けるだけでも並みの魔物では無理なことだ。
「だからさ、さっきみたいな“おしゃべり”出来る日が来るなんて思ってなかったよ。」
どこか嬉しそうに見えるのは今まで背負っていた魔王候補という重荷がなくなったからだとコナルはルーの言葉を聞きながら思った。
「そりゃ、親兄弟、仲の良かった皆とは二度と会えないのは悲しいことなんだけれど、それよりもお前と“おしゃべり”出来るのが今は嬉しい。」
「私もルー様と“おしゃべり”出来ること嬉しく思います。」
噓偽りなく、心の底から出た言葉だった。「まだ死にたくありません」と自分たちだけ生き残ってしまった事にどこか後ろめたく思っていたがルーにこう言われコナルの後悔は消えた。
「お前も嬉しく思ってくれるか!これからは“おしゃべり”いっぱいするから覚悟しろよ。」
コナルは頷き、ではこれから向かう国についてなんてどうでしょう?と領土、人口、人種など必要最低限の情報以外に建国時の噂話、流行しているものなどどこで知ったのか色々なことをルーと共に“おしゃべり”しながら歩みを進めて行った。
ありがとうございました。