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黄昏時ノ探偵  作者: きのこシチュー
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卯の三つ 茂ミノナカノ悪魔

——何故、花は枯れるのだろう。


綺麗な瞬間は、どうしてすぐに終わってしまうのだろう。


いくら考えても、いくら花に尋ねてみても、それは分からなかった。



——その問いは、命の意味を問うに等しく。

——とすれば、その答えは永遠に見つからない。


それでも——。







夜長がぽそりと呟いた言葉は、誰にも拾われる事のないまま、オカルト研究部の2人と末原、皐月が事務所を後にし、残されたのは夜長だけとなった。

夜長は軽く食事を摂った後、睡眠をとる為に布団を被り、眠りについた。


——までは良かった。普通だった。


しかし。

「ん…?あえ?!ココドコ?!?!」


目が覚めた時、そこは事務所ではなかった。



「嘘でしょ…?そんな事ってある…??」

辺りを見渡す。

何もない、強いて言うのならちょっと靄のかかった空間に、夜長はいた。

「ま、まるで白で塗りつぶして不透明度極限まで下げたみたいな…!!いや僕も何言ってんのか分からないけど!!」

頭を抱えて何やらよくわからない事を叫ぶ夜長の元に、一つの人影が近づいてきた。

「大丈夫かー?夜長」

「うわびっくりした!!…なんだ、皐月くんか」

「なんだとはなんだ」

片手にメガネを持った皐月が夜長の背後にいたらしく、振り返ったら彼がいた。

と、その後ろからひょっこりメガネの少年が顔を出した。

「あ、僕もいます」

「末原くん…2人とも既に合流済みだったんだね」

友達がいて安堵の溜息を漏らしたのもつかの間。次の刺客(?)が夜長を襲う。

『オイオイ、大丈夫か?タンテイさん』

「えっ待って誰?!いきなり話しかけてこないで?!」

『いやだナァ、忘れないでクレよ〜、ボクだぜ?バクサマだぜ?』

「え…?」

バク、と聞いて夜長と皐月と末原はきょろきょろと辺りを見回すが、何処にも誰もいない。

「ど、どこにいるんだい?!」

『あー、いないない。ボクってバ、夢の世界では実体化シナイから』

「えっ待って今ここ夢の世界なの?!」

『ソウダヨー、気づかなかったのカイ?』

突きつけられる真実に戸惑う夜長。皐月は「これが明晰夢かー」などとめちゃくちゃ呑気な事を考え、末原はビビリ故に震えている。

「で、でもなんで…?僕卯の二つでこんなことができるのは貘だけって言ったよね?!」

『おーおー、メタいコトは言わない方がキチだぜぇ?』

どこかから貘の呆れた笑いが聞こえる。

まったくもって貘の言う通りである。あまりメタ発言は控えてもらいたい。

『と、ソンナことはドーデモいい。オマエらをココに招待したワケは、ボクでは見落としちゃうナニかを、オマエらならミツケルかもしれないと思ったカラさ!トクベツに夢の世界に招待シテみたってワケさ!』

えっへん!とドヤ顔をする貘の顔が眼に浮かぶ。

「だからってどうやって…?」と訝しむ夜長に、皐月が「ポッケの中見てみ」と耳打ちする。

言われた通りポッケの中を覗くと、そこには。

青い花弁を付けた、3センチほどの小さな花が、一輪入っていた。

それを見て、夜長と末原は苦い顔を浮かべる。

「これ…花…!」

『そう、ソレ!ボクからのショータイジョーだよ!それがアルとボクからの声が聞こえるシクミになってるのサ!』

「だからってなんで花…?!」

内心不安になる夜長と、先程よりも震える末原をよそに、皐月は「ハイテクだなー」とか「仕組み知りたいなー」とか呑気なことを考えている。お前はもう少し危機感を持て。

『マアいいから!早くタンサクしてヨォ〜』

「う、うん…」

少し不安になりつつも、夜長は貘に言われるがまま、この世界を探索する事にした。

…の前に。

「そういえば夜長、花札の用意はいいのか?」

「そうだね、とりあえず出しておこう」

夜長はズボンのポケットから、蝶と桜が描かれた箱を取り出した。

『ナンだい?ソレ』

「これは…ちょっと特殊な花札さ。見てて?」

不思議そうな声で尋ねた貘を横目に、夜長は箱に指で五芒星を描く。その指を離した刹那、彼の右手には8枚のカードが握られていた。

「…ゔー、いい役ないなぁ」

そのカードを眺め、夜長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

『えっ?!イマなにが起こったノ?!』

「ははは…僕も仕組みはよく分からないんだけどね…まあ、これが僕の主武器、みたいなものかな」

貘の驚きの声に、夜長は少し照れながら、そう答えた。


そして、探偵一行とオマケの貘の、夢の世界探索が始まった。




真っ白な少し靄のかかった世界を歩く。

何もない空間だと思っていたが、歩いてみると、色々な所に扉が浮かんでいることがわかった。

『ここはナ、貘ダケが通れる、スベテの夢の世界に通じテル場所…タトエるなら、ウラ方なんだヨ』

「だからあんなにたくさんの扉が…?」

『そうサ。あとネェ、扉にはウマイ夢かマズイ夢かダケ書かれてるカラすっごいベンリなんだ!!』

「あっ…そう…」

無駄話をしながら、足音以外何も聞こえない静かな世界を、歩いて、歩いて、歩いていく。

数十分は歩いたところで、この夢の世界に明らかな変化が見え始めた。

それは——

「な、に…これ…」

『エッちょっと待ってヨ!コレ…


血、なのカ?!』


刃物でズタズタに切り裂いたような痕に、何かの液体で赤く染まった扉。

それが、無数に浮かんでいる——そんな、まるで悪夢のような空間が、そこにはあった。

心なしか視界にかかっていた白い靄も、赤みを帯びているようにも見える。

この惨状を見て末原は気を失い、皐月から「お前吸血鬼だよな?」とツッコミが飛んでくる。

『ナンダこれ…昨日マデなかったゾ?!』

貘の慌てたような声が聞こえる。

「………なるほど」

そう言って、夜長はずんずんとその不気味な空間を歩いていく。

「お、おい待てよ夜長!」

その後を皐月が追う。末原を担ぎながら。





数歩歩いた後、夜長はピタリとその足を止めた。

そして先程手にした花札から3枚取り出しそれを目の前に投げつけた。

札の柄は松、梅、桜に短冊の描かれたものであり、つまりこいこいルールにおける“赤短”と呼ばれる役である。

札を投げた瞬間、パァンと何か透明なものが弾け飛ぶ。

その先に、人影が見える。その人影には、足がないように見えた。


『…へぇ。結界をすぐに壊しちゃうなんて、やるねぇ探偵さん』


なんと、先程までテレパシーのように聞こえていた貘の声が、透明な何かを破壊した瞬間、目の前の人影から聞こえてくるのだ。

「やっぱり…!()()()()()()()()()ね?」



探偵は、目の前の人物を指差し、こう宣言した。





「——君が、この事件の犯人だ」






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