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黄昏時ノ探偵  作者: きのこシチュー
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寅の三つ 百八十二通目ノ恋

「…君は、誰だい?」

探偵はそっと優しく、黒髪の少女にそう尋ねた。

「………」

だが、少女はその黒い瞳で探偵を捉えるだけで、答えは帰ってこなかった。

「…そうかい。なら尋ねるよ、晩春くん。彼女とは、知り合い?」

「いえ全く。」

「……へ?」

スパッと切り捨てられた夜長の推理に、シリアスな世界が一変する。

「えーと…僕の推理では君と彼女は知り合いだと思ってたんだけど」

「全然知りません。僕が知りたいくらいです。」

「あっ……そう………」

手折られた推理。

いともたやすく行われるえげつない行為。

世界とは…こんなにも虚しい…。

「いや!いやいやいや!まだ諦めないぞ!手紙読んでいいかなっ?!」

「ええ、いいですよ。僕も読んでいいのなら」

「いや元から君宛なんだから否が応でも読ませるよ…?」

怒涛のツッコミラッシュに、夜長の胃は捩じ切れそうになるが、なんとか耐えた。



大量の手紙。


その内容というのは、思いの丈を綴った、謂わばラブレターだった。

また、枚数はざっと180枚はあるようで、どうやってこの量が収まっていたのか不思議なレベル。むしろこちらの方が怪事件ではないのか?

「…普通こんなにラブレター送るか?」

「熱狂的すぎて引くわ…」

「なぁ夜長、これで芋焼いたら美味しそうじゃないか?」

「やめなさい」

などと駄弁ってる間に、黒髪の少女は廊下を抜けてある部屋の中へ——


——というわけではなく。


少女は暗闇を湛えた瞳で、一点を見つめて。

ただそこに、佇んでいた。



「…なあ夜長。この女、何してるんだ?」

「さあ…」

動かぬ少女に対し、アルトは訝しげな視線を向けるが、やはり彼女は動かない。

「てかなんでいきなり出てきたんだ?」

「えっそこから?えーっと…恐らく彼女は、生き霊という奴だね。今回の場合は、想いすぎて魂が抜けて、自分の強い想いが込められた物に取り憑いた形だろうね。多分本体は原因不明の病として床に伏してると思うよ」

そして、魂が抜けた状態が長く続くと、本体の生が危ぶまれる為、早めに本体を見つけ出す必要がある…という事も付け加えて夜長は説明した。ちなみに、手紙には住所も名前も書かれていなかった。

しかしアルトはあんま理解してるようには見えない。

「はえー…じゃあどうすればコイツは動くんだ?」

「うーん…ラブレターだし、晩春くんが話しかければ…ってそういえば何も言わないけど手紙読んでみてどうだった?当事者くん」

夜長は隣で一緒に手紙を読んでいた彼の方へ目を向ける。

しかし彼は、とある一通の手紙を持ったまま、動かない。

「……晩春くん?」

「あ…、えっと…なん、でしょうか?」

ぽん、と夜長は彼の肩に手を置いた。

それによって自分が呼ばれてる事に気付いたらしく、笑顔で夜長の顔を見た。

…しかしその笑顔は、明らかに無理をしていた。

流石にそれは夜長も気付いたが、何かを言う前に、

「隙あり!」

「えっ?!あっ!!」

というアルトの手紙奪い(きしゅう)によって掻き消えてしまった。

「つ、椿紅くん…」

代わりに出てきたのは、そんな呆れ声だった。


「…………」

黙々と手紙を読むアルト。

彼女のこれまでにない集中力に、息を飲む夜長と皐月。

自分が見られてないと思い、暗い影を落とす晩春。

相変わらず動く気配のない、黒髪の少女。


そして。


「……読み終わったぞ。読むか?夜長」

「…もちろん」

いつもの無表情で、アルトは夜長へと手紙を手渡した。


「ところで椿紅くんは読んでみてどう思ったの?」

「ん?ああ、分からなかったぞ。」

「…ん?」

さらりと言われたその言葉に、夜長は笑顔のまま表情筋が凍りつく。

と、同時に(分からなかったってどゆこと?内容?そこからの解釈?それとも全部英語とか?ここに書かれてるのってもしかして怪文書なの??それとも)と高速で思考が回転していた。

「えーと…何が分からなかったの?」

「えっ…全部…?」

「???」

夜長の頭上に宇宙が広がる。

先程まで高速回転していた彼の思考は、完全に停止した。

「こらアルト、圧縮言語で話すな」

そんな夜長を見かねて、翻訳者が助け船を出す。

「むっ?私は普通に言って」

「はいはい分かった分かった。それで、翻訳内容だけど」

「翻訳て」

「彼女の場合内容も理解してない気もするけど…アルトはそれを読んでここにいる幽霊についての解釈がわけわからなくなったんじゃないか?」

「なるほど…」

「まあ真相は読んでみないと分からないけどな」

「………」

夜長は手に持つ手紙を見つめ、ごくり、と息を飲む。


そして、内容を読み始めた。


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