表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/24

寅の二つ 百八十二通目ノ恋

「ええと…何か分かります?」

「うーん…」

ローテーブルを囲んで、夜長たちは座る。

晩春のセリフから、目の前に置かれたお茶を飲みつつ、夜長は思考を巡らし始めた。

(さっきの威圧感と背後に何かいる感覚はなんだ?幽霊だとは思うけど…幽霊ってあんなに圧を感じるモノだっけ?)

幽霊、というのは基本無害で、“何もせずただそこに居るだけのモノ”である。

有害なものは強い怒りの圧を感じ、標的を呪う…つまりは怨霊と呼ばれるモノの事である。

今回夜長が感じたのは、無害なのに圧を感じる、という幽霊のようだ。

(家の主は元気だし…うーん…)


黙々と熟考する夜長。沈黙が流れる。


「なんかさ、この家ちょっと暗くない?」

「うんいきなりどうした椿紅くん?」

沈黙に耐えられなくなったのか、足を投げ出しくつろぐアルトがそう呟いた。

そのセリフに、夜長は全ての思考が持っていかれてしまった。

「ああ、そうなんですよ。いくら電球を換えても何故かちょっと暗くなってしまって」

「謎過ぎるな」

あまり聞いたことのない怪現象に思わず皐月はツッコミを入れる。

「ま、まさかこれも幽霊の仕業ですか?!」

「いやいや、そんな怪現象初めて聞いたからね?」

怯える晩春を宥めるように夜長もツッコミを入れる。


そして、ちょっと考えてから、夜長は晩春にこう提案した。

「…家の探索がしたい。許可をくれるかい?」




——そうして、怪異探偵一行による、家の探索が始まった。






探索は現在地点である居間から始まった。


「…ここは普通だね」

「そうだな」

何か場所によって変な圧を感じないか。強い気を感じる物が落ちてたりしないか。それをくまなく探したが、成果は無かった。


「…次いくよ!」

夜長はめげずに号令をかけ、次の部屋へと探索へ向かった。




右の部屋。寝室のようだ。


寝室だと分かると、アルトは皐月を引っ張り走り出した。

「よし行くぞ皐月!ベッドの下を漁るぞ!!」

「やるかアルト!!」

「えっ、あの、そ、それは、」

「…二人とも、やめなさい」

子供のような二人に、親のようなツッコミが入る。

「えっいいのか?ここは探索すべきだろ!」

「そうだぞ夜長。高1の時点でベッドの下にふわぁーお♡であふーん♡な本とか出て来たら教育的指導を」

「何言ってんのこの教師こわ…てか教育的指導とか言ってるけどただ単に宝探しがしたいだけでしょ…」

なんでこんなに小学生男子並みの考えでしか動けないんだこの助手たち…とため息混じりにぼやきつつ、夜長は


「ここには何もない。次行くよ」


と断言した。



キッチン、物置、トイレ、洗面所、風呂場…と、次々に扉を開いていくが、成果は無く。

居間へ戻り、全員でうなだれる。

「なんだろ…ナニカは確実に居るはずなのに…水を掴むようなもどかしさが続くね…」

ローテーブルに突っ伏す夜長がそうぼやく。

「す、すみません…難しそうなら神社に…」

「いや大丈夫…大丈夫だから任せて…」

申し訳なさそうな晩春に対し、そのままの体制で力無く探索は答えた。

そのまま数分、探索一行は溶けた生クリームのように、その場にぺちゃっとうなだれていた。

夜長はローテーブルに額を押し付けて。

アルトは床に仰向けになって。

皐月は真っ白に燃え尽きた感じで。それぞれ溶けていた。

晩春は(くつろぎすぎじゃないか?この人たち)と少し思ったが、口にはしなかった。


最初にこの空気をやぶったのは、

「…そういえばなんで物なんだ?幽霊事件じゃないのか?」

アルトだった。


「——ああ、それはね椿紅くん。想いの強くこもった物—無機物には魂が宿りやすいからだよ」

額ではなく、方頬を机に押し付け、あくまでも体制は変えずに夜長はアルトの問いにそう答える。

「物が生きるのか?」

「その場合もあるし、手紙なんかだと差出人の魂が——まさか」

ハッとしたように、探偵は立ち上がる。

そして、一目散に廊下を駆け抜け、玄関の扉に触れた。



「——晩春くん、ここ、開けた事ある?」

探偵が触れていたのは、とある

アパートのドアにありがちな——

「えっ、そこ…開くんですか…?!」

「開かなかったらどうするのさ」

——郵便受け(ポスト)である。

「その反応を見るに、開けたことがないね?」

「は、はい」

「なら開けちゃおう!そーれご開帳〜」

ガチャ、と音を立てて扉が開かれる。


そこからドサドサと音を立てて落ちて来たのは、


「うわっ凄い量」

「普通こんなに溜まる事ある?!」


探偵達が引くほどの、




大量の、手紙だった。



——そして、ぱちっと音を立て、ナニカが姿を現す。






それは。



黒い長髪の、美しい少女だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ