巳の三つ 普通ノ私立探偵
「…んっ?」
長い沈黙を、そんな頓狂な声が破った。声の主は夜長だった。
「にゃっ?」
そんな探偵の真似をしてか、或いは負けずにか、白猫も可愛らしい声を上げた。
「んー…と。猫が喋ってるように聞こえるけど…気のせいかな」
そのままの顔で、夜長は猫から視線を外して顎に手を添えて悩むポーズを取る。
「ああそうだな。私にも聞こえたような気がしないでもないが、多分疲れてるんだ、うん」
そんな夜長に続いてアルトもそっぽを向く。
「そうだな、猫が人語を解すなんてバカらしい。とっとと美桜くんの後を追おうぜ二人とも」
皐月はそう言って美桜が走って行った方向に眼を向ける。
そんな彼らの反応にカチンと来たのか、猫は毛を逆立てた。
「ハァーーーーーー?!!!?!そこで無視するとかにゃに?!にゃんにゃの?!?!アンタらホントに怪異探偵かにゃ?!?!猫!!でぃすいずニャンコ!!!!キャッツ!!!!ソティスは!!ガチで!!喋る!!猫!!にゃ!!!現実から目を背けるんじゃにゃいにゃ!!」
フシャー!と威嚇しながら猫はそう大声で捲し立てる。
先程までの可愛らしい声と打って変わってキリキリと頭に響く煩い声に、三人は顔を顰め耳を塞ぎながらも、また猫の方に向き直った。
「分かった分かった、認めるよ。猫も喋るって事!」
ハァとため息をつきながら夜長はそう猫に言った。
「分かったならいいにゃ。さ、とっととごしゅじんを追いかけるにゃ!」
猫は三人の間を通り抜け、美桜が進んで行った道の方に駆けて行こうとする。
猫がアルトの横を通り抜けようとした、その時だった。
「待て」
「に゛ゃっ?!」
ピンと張っていた猫の二尾が、アルトの手にむんずと掴まれている。
敏感な部分を掴まれ、猫は嫌そうにアルトの手に噛みつこうとするが、上手く先程公園で拾ったらしい木の枝にすりかえられ、猫はアルトの手を噛むことができなかった。
すぐにペッと木の枝を投げ飛ばし、アルトの目を睨みつける。
「ちょ、離せにゃあ!!」
「お前、ミオが探してる猫だろ」
「そぉにゃ!!ソティスはキサラギ家にいそーろーしてる猫にゃ!!だから早く離すのにゃ!!」
「ならおかしいな。ミオが見たっていう白猫はなんだったんだ?尻尾が二本あって他にも色んな特徴がある猫なんて他に居ないと思うけど?」
「あーもう、その辺話すから早く離せにゃあ!!!」
ソティスがもう一度噛みつこうとしたところで、パッと手を離されまたもかわされてしまった。
少しの間アルトの顔をジト目で睨みつけていたが、すぐにソティスは目を伏せてため息をついた。
そして夜長の顔を改めて見つめたが、次第に口の端がニヤついていく。
「…なに、どしたの」
「…そんにゃ気味悪そうにゃ顔すんにゃ。猫だって傷つくんにゃからね?」
「どーでもいいから早く言え。私は気になって仕方ないんだ。あとミオ追うなら早くしなきゃだろ?」
「……」
アルトに正論を言われ、ソティスはまたも彼女の顔をジト目で睨みつけた。
そんな猫を見て皐月は「こんな奴に正論言われたくないにゃ」と思ってるんだろうなと直感した。
「…にゃら、話にゃがら行こうにゃ。その方が手取り早いにゃ」
そう言って、白猫は歩き出した。
それに三人も続いていく。
「まず、にゃんでソティスが二人いる…みたいにゃ現象が起こっているかについてにゃけど、これは簡単にゃ。ソティスは今は『八つ目の魂』を謳歌しているからにゃ〜!」
鼻歌を歌うかのようにそう説明するが、アルトと皐月には通じなかったらしく、二人の頭上にはハテナが浮かんでいた。
「いや…八つ目…?なんの話?」
「魂が八つもあるわけないだろ。常識的に考えて」
「にゃぁ〜これにゃからニンゲンはァ〜」
ハァーーーと長い大きなため息が猫の口から伸びる。
「『猫には九つ魂がある』っていう言い伝えだね?ただの伝説だと思っていたけど、本当なんだ?」
「にゃぁ…さすが怪異探偵さんにゃ、分かってるにゃ。そうにゃ、我ら猫には九つ魂があるのにゃ!まあ九つあるって言ってもおみゃあらは分からんと思うから、簡単に言えば長寿って事にゃ」
「「絶対違う」」
自身ありげに説明するソティスの言葉を、皐月とアルトは食い気味で否定する。
「息ピッタリにゃあねぇ…ちゃんと説明するからそう怒らにゃい怒らにゃい。『猫は九つの魂を持つ』っていうのは、この体で9回生き返れるって事にゃ」
「長寿と全然違うじゃん!!」
「それどっちかってっと不死身だからね?!」
「にゃぁにを言うにゃ、大きく捕えればこれも長寿にゃ。ニンゲンは細い事を気にするにゃあね」
ヤレヤレと呆れた声色でそう言うと、ソティスは突然右にある狭い路地に入っていった。
そこの狭さは、到底人間には通れないもので、本当に猫専用の道であった。
吸血鬼である夜長でも、流石にこの道は通れそうにない。一般的な吸血鬼の能力の一つである霧化をすれば行けるだろうが、夜長はその霧化の方法を忘れしまっている。まあそもそも出来たとしても二人を置いていく事なんて、夜長には考えられない事ではあるのだが。
「それで、にゃんでソティ」
「いや話続けないでー?!流石に行けないからね!?」
「横に腕広げて蟹歩きすればこれるにゃ」
キョトンとした「当たり前でしょ?」みたいなトーンのソティスの声に、三人は口を揃えて「無理!」と叫ぶ。
「ええ〜、こっちから行くのが近道にゃのに…にゃにがダメなのにゃ?」
この問いに三人は、キッパリとした口調で即座に答えを言い放った。
「絶対汚いだろそこ!」
と皐月。
「絶対素早く動けないじゃん!」
とアルト。
「絶対そういう猫の道行ったらまたこういう猫の道あるでしょ行くでしょ!!」
と夜長。
「…ワガママだにゃあ」
三人の強い口調に押し負けて、とぼとぼとソティスは路地から出てきた。
そしてすぐに、道をさっきまで進んでいた北の方へ、駆け出していった。
「あの道を使わないにゃら急ぐにゃ!早く追いつかないとそろそろアレが偽ソティスだって分かっちゃうにゃ!」
「お、おい待て何処に行く!」
「えっ、ちょ待っ、速っ!?」
全速力で走りだした猫に追いつくべく、アルトも常人では出せないような速さで駆け出して行った。
そんな彼女らに霧化を忘れ人を襲わないただの吸血鬼と走りに自信なんてないただの人間が追いつく筈がなく、夜長たちはまた見失ってしまった。
「おいおいまたこのパターンかよ。今度はアルトまで行っちゃうし…」
「うーん、そもそも何をそんなに急いでいるんだろうね?気更来くんが見たらしいソティスが偽物だとなにか困るのかな…」
「ああ確かに。うーん、なんだろ…偽ソティス……あ、もしかしたらソティスは幻影?みたいなもんを生み出せるけどそれを美桜くんに言ってないって事なんじゃない?」
「なんだいそれ、彼女に妖術が使えるとでも言うのかい?」
「いや妖怪だしできなくはないだろうなって」
「僕はできないけどね?うーんでもそうだとしても引っかかる…なんで『妖術が使える』とバレるのが嫌なのか」
「そもそも自分が妖怪だって言ってないんじゃない?」
「…うーん、そうなのかなぁ」
どうせ追いつけないだろうと思い、二人はそんな会話をしながらぽてぽてと道を歩く。
どっちに行けば正解かなんて二人には分からない。生憎、道に人気はない。だからカンで進むしかなかった。
『にゃーんていって道に迷われでもしたら困るにゃあ!』
「うわぁ?!?!何もないところからなんか聞こえたぁ?!!?!」
『えっにゃんで驚くにゃあ?!怪異探偵ならこういうの慣れてるでしょお?!』
ぼや、と何か人魂のような青白い光が二人の目の前に浮かび、そこからソティスの声が聞こえてくるのだ。
どういうシステムなんだろう、と腕を組む間もなく、その人魂はふよふよと進んでいく。
「えっ進むの?!えっとソティス君であってるよね?!」
『他に誰がいるにゃあ?二人も急ぐにゃ、ごしゅじんに着いて来てない事がバレたら大変にゃ!』
「た、大変?!具体的には!」
『ごしゅじんメンタルよわよわだからにゃ…きっと泣いちゃうにゃ…』
「そこ?!?!」
「ところで君のそれってやっぱり妖術とかそういうやつなのか?」
『それ以外ににゃにがあるにゃ?!』
ふよふよと飛んでいく人魂を二人は慌てて追いかける。
だんだんと、目的地であろう山の道が、二人にも見えてきた。
「ところで美桜くんには猫型なのになぜこっちは人魂なんだ?」
『二つも猫型を動かせる程の力はにゃいし、喋って動かすにゃらコレしかできにゃいのにゃ!』
「ほお、不便なんだな」
坂を登る。目的地はきっともうすぐだ。
日は完全に沈み、もうそこは月の光が照らす夜の世界だった。
登って登った先。
そこにあったのは、
寂れた神社と、緑髪の少年と、金髪の少女。
そして、
街中の猫をかき集めたのかと言わんばかりの、
大量の、猫だった。
「お疲れ様だにゃあ。無事辿り着いたにゃあね」
「えっ?!」
既に人魂は消え、美桜の前にいる白猫が、辿り着いた二人にそう優しく言った。
だが二人は、ソティスを普通の猫だと思っているだろう美桜の前でソティスが喋った事に驚き、思わず皐月はソティスの首の後ろを捕まえて持ち上げた。
現に美桜も驚いてるようだし。
「おいお前、喋っていいのか?!(小声)」
「にゃ?にゃんでさ」
「いやだって!(小声)」
「もー、ソティス?」
そんな一人と一匹を見ていた美桜は、呆れた声で持ち上げられたソティスに向かって行く。そして、ソティスの額に軽くデコピンを打つ。
「なんで人前で喋るんですか!ダメだって言いましたよね?」
「に゛ゃッ!!」
デコピンと美桜の口から出た衝撃的な言葉に、皐月は無意識にパッとソティスを落としてしまった。
「……え?どゆこと?」
「どうもこうもにゃいにゃ。ソティスは正真正銘喋る猫にゃ」
「そうなんですよねーこの子、何故か喋るんですよ」
「え、いや…え?」
予想外の展開に、皐月と夜長は思考と共に、その場に固まるしか出来なかった。
美桜は、自分の飼っている猫が『妖怪』である事に気付いていなかったのだ。ただの、喋る不思議な猫だと思い込んでいたらしい。
「えーと、どうかしましたか?」
「あ、えと…き、気更来くん。僕らが怪異探偵って事は知ってるかい?」
「なんです?それ」
キョトンとした顔でそう答えた彼の目に、嘘は宿っているように見えず。
「じゃ、じゃあそのソティスくんが『妖怪』だと言ったら信じるかい…?」
「ええー?そんなわけないですよ!ソティスは正真正銘ソティスです!」
どういう理論なんだろう、と疑問に思う間もなく、夜長の立てていた『気更来美桜オトリ説』は、音を立てて完全に崩壊した。
「にゃあ…ここまで隠してたけどそれを言われたらおしまいにゃあ…実はソティス『猫又』って言う妖怪にゃんだにゃ」
「あっ今バラすんだ」
「えっ…?!そうなんですか?!」
「本当に伝えてなかったんだ…」
いやなんで逆に喋る猫で不思議がらない上に、猫又という存在にも辿り着けないんだ?!と夜長の頭には新たな疑問が生まれていた。
「あれでも美桜くんの能力って読心だろ?猫の心の声も聞こえるんじゃ?」
「妖術って便利にゃあね〜」
「えっそれって、妖術で能力を妨害したって事か?すげぇ便利じゃねぇか!」
「ソティスは軽い精神操作の妖術しか使えにゃいけどにゃあ〜」
照れているのか、ソティスは前足でこすこすと顔を洗う。
皐月はさっき不便と言ったことを少し後悔した。そんな便利で強そうな力だったとは!と少年心が震えたのだ。いや厨二心だろうか?
「ああ、だからソティスの考えている事が他の猫とは少し違っていたんですね」
美桜はぽんっと手を叩く。
「違っていた、ってどういうことだい?」
「ええと…普通の猫は大体考えている事が一定なんです。お腹すいたとか、遊びたいとか。でもソティスはちょっと違っていて…「ごしゅじんはソティスが居ないとダメだにゃあ」とか「ソティスが支えにゃきゃにゃあ」とか」
「ニャッ!?ソティスそんにゃ事言ってたっけにゃ?!」
「言ってましたよー!ツンデレさんだなぁって思ってましたもん!」
「心の中でも結構喋るんだね…」
「違うにゃーーーー!!!聞かなかった事にしろーー!!!!」
フシャーっと毛を逆立ててソティスは夜長を睨みつける。相当恥ずかしいらしい。
「…ソティスって喋れるので他の猫に見られる直接的な事を、思わなくてもいいのだろうという事で納得してました。でもまさか妖怪で、しかも妖術でガードされていたとは…」
毛の逆立ったソティスを、美桜は優しく撫でる。ソティスは特に噛みつこうともせず、その身を彼に委ねているようだった。
アルトはその様子を見てよく懐いているんだなと思った。
「ふむ…じゃああの人魂や偽ソティスは精神操作の産物、つまりは幻覚というわけだね?」
「そうにゃー。ソティス妖術使えるって言ってもそんくらいしかできにゃいけど」
ソティスはそう言い終わると美桜の隣を抜け、沢山の猫が集まっている古びた神社の方へ向かっていった。
「…今日おみゃあらをここに呼んだのは訳があるにゃ」
白猫は尻尾を揺らして、苔だらけの階段を上る。
「最近、ここらで野良猫が死んだという事を知っているかにゃ?」
白猫はこちらに振り返らない。
ただただ闇に他の猫たちの目が光っている。
「…『猫を殺すと呪われる』。そんな噂を聞いた事は?」
猫達の瞳が、妖しく、恐ろしく、そしてどこか神々しく、闇に光っている。
それは彼らを試すようにも、確認するようにも聞こえる、そんな声色だった。
しかし誰一人として、白猫の問いに答えなかった。
いや、答えられなかったのだ。
「……我ら猫の手に掛かれば、猫殺しを行った人間なぞ造作もにゃい。猫殺しがどれだけ罪深いか、その身を持って知らせてやる」
振り返る白猫。
その顔に浮かぶは無。
しかし見え隠れする憎悪。
明日には呪い殺さんとする気迫。
そんな白猫を見て、夜長はハッとする。
「ま、待て!君はもしや、僕らに『黙認しろ』と言うのかい?!これから怪異事件を起こすけど黙って見てろと?!」
その声を聞いて、白猫は肯定するように尻尾を揺らす。
「僕らは怪異探偵だよ?黙認なんて!」
「…にゃらこれは依頼にゃ。それにゃらいいにゃ?探偵は依頼人を守るモノだもんにゃ?」
淡々とした声。
それでいて、脅すような圧がこもっている。
「…依頼料、高くつくよ?」
「えっ依頼料高いんですか?!どんくらいですか?!」
「いや気更来くんに言ったわけじゃないからね?!」
依頼料、という言葉を聞いて、美桜はすぐにポケットから小さな財布を取り出して何円持っているか数え始めた。
焦る美桜にアルトが近づき、「ざっと千円くらいだから安心しろ」と耳打ちする。
その言葉に安心したのか、美桜はホッとした顔で財布をポケットに仕舞った。
「それに僕は今依頼を受けている。この依頼を達成するまで僕は新しい依頼を受けるつもりもないし、依頼人を変えるつもりもない。だから、君の企みは阻止させてもらおう」
「ダメにゃ。これは野良の…いや、猫のオキテにゃ。仲間が殺されたら報復する。猫を殺した者には不幸を。これはずっと覆らない絶対のルールにゃ」
両者の譲らぬ態度に、空間がピリつく。
一触即発とは恐らくこの事を言うのだろう。
しかしその空気をぶち壊すように、美桜が大声を出す。
「いやちょっと待ってください。ソティスはもう野良じゃないですよ?私の猫です!なので野良の掟に従う理由はありません!」
「…ごしゅじん、ソティスはそれでも彼らのリーダーにゃ。野良として過ごした時間の方が長いのにゃ」
「ダメです。うちの猫なんですからうちのルールに従ってください。野良のルールに従う理由はもう無いです。帰りましょう」
「たとえそれがごしゅじんの願いにゃのだとしても、それは受け取れにゃいにゃ。これはやらなきゃにゃらにゃいのにゃ。それに、殺気立つ彼らを抑えられるのはリーダーたるソティスだけにゃ。ここからソティスが離れれば、彼らは統率を失いつつも野生的に人間へ報復に向かうだろうにゃ」
「……そうですか」
ソティスに言いくるめられ、美桜はその後何も言えなくなってしまった。
「なら聞くよ?どうして君たちは報復を行うんだい?呪いとか昔からの決まりという点を抜きにして、僕は聞きたい。あと猫は群れないと思っていたんだけど?」
何も言えなくなった美桜の意思を受け継ぐように、夜長も負けじとソティスを問い詰める。
しかしその問いに何かおかしな点があったのか、ソティスは笑い始める。
その笑いは、夜長を嘲笑っているようにも聞こえた。
「ははっ、仲間を殺されて何も思わないのか、吸血鬼という種族は!なんとも薄情な生き物よな!!」
「そう言われても吸血鬼は仕方ないんだ。群れたらすぐ僕らを恐れる人間達に殺されてしまう。アレらは自分たちと姿形が似ていても、何処かに違う部分を見つけてしまうと、恐れ、嫌い、徹底的に排除しようとする生物だからね。僕らはコソコソしないと生きられないんだ」
嘲笑しするソティスに対し、冷静にそう答える夜長は、どこか大人びた感じがあるようにアルトは思えた。
「それに君は仲間が殺されてどうとか言うが、それは種族の問題だろう?僕ら吸血鬼は互いに干渉しようとしないから、何処で誰が死んだとか特に興味がないんだ。あと、僕らは死ぬと灰になるからね、誰が死んだとかの証拠すら無くなってしまうのさ」
「うーん、そう考えると割と儚い生物だよな、吸血鬼って」
「そうか?人の方がよっぽど儚いと私は思うが」
「いやー人間って結構図太いぞ?まあアルトちゃんには分からないだろーけども!」
「は?????(威圧)」
「あのーちょっと黙ってて貰えます?そこのヴァンパイアキラー共」
唐突に話に混ざってきた上に喧嘩を始めた皐月とアルトに、夜長はいつもの仲裁モードでツッコミを入れる。
この一石によって、今までのピリついた空気が少しだけ和らいだ気がした。
「え、いやどういうことにゃ??にゃんで貴様吸血鬼にゃのにヴァンパイアキラー二人も連れてるのかにゃ?!おかしくにゃい?!」
「あー…まあそこは、ほら…色々…あって…」
「にゃぜ目を逸らすにゃ?!にゃにか言いにくい事があるにゃ?!」
「こ、今度話すから、その…あんまり食い気味で来ないで…?」
ソティスは好奇心に任せ、夜長に詰め寄っていく。
食い気味な白猫の態度に、先程までのシリアスな空気が完全に消し飛んでしまった。
そんな和やかになった空気をかき乱すように、美桜が手を挙げて発言した。
「あのー、ところでソティス?報復ってどういう感じで行うんですか?」
「気更来くん急に話戻すね?!」
「まだこの話の決着は付いてませんし。今回の問題は貴方と貴方の連れではないはずです」
「…そうだね」
的確な指摘に、一瞬で沈黙が広がる。
また張り詰めた空気になる…かと思いきや、美桜の元気で明るい声によって、その予想はすぐにかき消された。
「私、穏便に済ませる方法を思いついたんです!これなら多分、二人とも納得できると思いますよ!」
「……え?」
突然の提案に、ソティスと夜長は間抜けな声を同時に出す。
その声に答えるように、美桜は続きを話す。
「要は怪異や人による猫殺し犯人が死ぬ殺人事件を起こさず、猫殺しという行為に対する恐怖を与えればいいのでしょう?」
「…まあ、そうなるね。僕とソティスくんの意見を総合すると」
「にゃけど、どうするにゃ?怪我でもさせるのかにゃ?」
「いや、それはやっちゃダメです。それをしてしまうとこちらが加害者になるだけで圧倒的に損ですし、恐怖させるまでには至らず二次被害がでるかもしれませんので」
「じゃあどうするんだにゃ?ソティスには皆目検討もつかにゃいんだけど」
白猫の当然の疑問に、少年はクスリと意味ありげに笑い、こう答えた。
「人の犯した罪は、人が裁くべきでしょう?」