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小春日和  作者: ソイラテ
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朝練

 

 11月23日


 時間は朝の6時頃。場所はナショナルトレーニングセンター。トップレベルの競技者用のトレーニング施設だけど、使わない時は一般の競技者にも施設を開放している。まだ薄暗いというのに、仕事前の意識の高い系の大人達がこの立派な施設で健康的であろう汗を早速流している。


 庭球はこの国で最も人気のあるスポーツだ。世界大会が毎年開催され、ここは世界大会が開催される数少ない国のうちの一つだ。スター選手から打ち放たれる夢のようなショットを一目見ようと世界中から観戦客が押し寄せる。第二次産業があまり発達していないこの国では観光業は重要産業だ。貴重な観光資源を守るために庭球の競技人口を増やすことも世界で活躍するスター選手を育成することも、この国にとって必要な努力だと思えば、この手入れの行き届いた美しいコートを気前よく一般に開放することに合点がいく。


 私の名前はハルコ。歳は9歳。半年くらい前からこの施設でトレーニングをしている。有りい難いことにここの所属選手は優先的にコートを使わせてもらえる。私はここに所属する選手の中で最年少だ。運の悪いことに身長も断トツのちびすけだ。毎回自分より身長が20センチ以上高い巨人達に戦いを挑んではヤラれていたが、当初圧倒されていた彼らのパワーにもだいぶ慣れてきた。コートの外では仲良くやれそうな子もいれば、私など相手にもしない子もいる。ここで意地悪されても学校のクラスメートには感じることのない妙な連帯感がここにはある。それはきっと思っても決して口には出すことのない思いを皆共有しているからだと思う。庭球は個人競技だけど、チームで切磋琢磨していくものだとここに来て学んだ。ここにいる選手達とはトーナメントで毎回かちあう見慣れた顔ばかりだ。ここで自分の技を惜しみなく披露し研究されることに初めは抵抗があったが、だんだんそう思わなくなった。相手に対策を立てたり立てられるれることで、自分がさらにうまくなろうとする作用が自然と働くと実感できるからだ。プレースタイルの違う選手に高いレベルで揉まれることで、大抵のプレーヤーに物怖じすることもなくなった。


 庭球で生きていくためには賞金がいる。大会が大きくなれば賞金も大きくなる。大きな大会に出るには、小さな大会を何度も優勝しなければならない。庭球で賞金稼ぐことはどのプレーヤーにとっても等しく遠く険しく長い道のりだ。今日ここにいる選りすぐりの選手でさえ将来なれるかどうかは分からない。庭球の盛んなこの国でも現役の“賞金稼ぎ”は指を折って数えるほどしかいないからだ。それに比べて庭球コーチの数は実に有り余ってるなと心の中で軽口叩きながらシャアの打ったボールを返してたら、あっという間にボールがネットにつかまり今日の練習があっさりと終わった。





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