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3.衝突


 バッと、瞼が開く。


 まだ冴えていない目で、枕元の時計を確認すると、二本の針は丁度朝5時を指していた。

 保険としてアラームは朝5時5分に設定しているが、ここ10年近くそれが役に立ったことはない。


 WSAに入隊して初日。

 今日から早速任務へと向かうらしい。


 朝6時に本部第4会議室に集合。とだけアマンダ少将から聞かされていた。


 壁に掛かるハンガーから特殊作戦群の制服を取り、素早く羽織った。


 色の無い壁には窓は無く。あるものといえばハンガー掛けと壁時計のみ。

 家具も、テレビと本棚。そして小さな机だけだ。


 まあ、必要な家具を聞かれた時に「特に無い」と答えたのが原因だが。


 身支度を一通り済ませてから俺は部屋の扉を開けた。もちろん黒のバラクラバは被っている。特殊作戦群では、過去にあった、ある事件の再発を防ぐため、身元や個人が割れないように公然に出る場合などは、皆がこのバラクラバを着用していた。


 しかし、WSAでこれが必要かというとそうでも無い。まあ、ほぼ俺に至っては朝起きて顔を洗うのと同じで、習慣になってるだけだが。

 

 部屋から出て、無数の扉が並ぶ長い廊下を昨日の記憶を頼りに歩く。

 廊下を抜けると広間に出た。

 そこからは何本か道が分岐しており、道ごとによって違う施設、区画へとつながっているようだった。


「よお、ジャップ。早えじゃねえか」


 背後から声がかけられる。

 振り返ると、そこには金髪の白人。元ネイビーシールズ隊員のアレックスが立っていた。


「緊張して昨日は眠れなかったのか?」


 アレックスが俺に顔をぐっと近づける。

 海のように深く濃い青い目と、欧米人特有の高い鼻。そこらの外国人俳優にも劣らない整った顔立ちをしている。


 そんな彼は、何故だかはわからないが俺を挑発しているらしい。

 いや、何故だかわからない。というのは嘘になる。

 おおよそ日本人だから下に見ているのだろう。別に外国人、主に欧米諸国と関わる点において東洋人を下に見るという話は、珍しい話ではない。特にまだ部隊内での階級などが決まっていない今の状況は、態度で自分の立場の優位さを決める良い機会だろう。


 アレックスは俺の顔をジロジロと、舐め回すように観察した後、スッと後ろに下がった。


「カミナガ、だったよな? お前」


「・・・ああ」


「お前は別に大した事なさそうだな」


 アレックスが薄ら笑いを浮かべる。

 俺は思わず溜息をつきそうになった。


 アレクサンドロス=シェパード。


 こいつは俺のことを知らずとも、俺はこいつを知っている。

 昔、ネイビーシールズの隊員と会う機会があった。その時に俺はアレックスの名を聞いていた。


 ネイビーシールズの問題児、付けられた二つ名は『狂犬』。


 まあ、俺が話を聞いた隊員曰く、手懐ければ割と従順になるそうだが。

 もちろん手懐けるとは、叩きのめすという意味だ。


 噂には聞いていたが、ここまで尖っているとは。

 

「どういう意味だ?」


 俺はわざとらしくそう尋ねる。


「見るからにザコそうだって事だよ」


 アレックスが吐き捨てるように言った。


「そうか・・・まあだが、お前よりは確実に強さは上の筈だ」


 アレックスが眉間にしわを寄せる。


 そして鋭い眼光で俺を睨みつけた。


 本当に単純な奴だ。

 単純すぎて逆に裏があるのではと疑ってしまうほどだ。


「・・・聞き違いか? 今お前は、俺より上だってほざいたのか?」


 途端にアレックスのオーラが変わった。

 俺はその殺気を肌で感じる。


 アレックスは拳を構え、戦闘体制へと入った。


 俺は呆れるように首を横に振る。


「やめておけ、大事な作戦会議の前に怪我させるわけにはいかないからな」


「上等だよ・・・!」


 俺の右頬をアレックスの拳が掠めた。

 

 速い。


 一発目が外れると、間髪入れずに二発目が打ち出される。

 俺はさらにそれを避けると、後ろに下がって距離を取った。


 プロボクサーレベルの拳の速さ。そしてその一撃は重い。急所に一発でも食らえば致命的なダメージになるだろう。


 そして、アレックスは多分CQCも使用してくるはずだ。そうなると迂闊に手を出せなくなる。


 だが、この状況を他の隊員たちに見られるわけもいかない為、長期戦は避けるべきだ。

 隊員同士の死闘などもってのほか、見つかればタダじゃ済まない。


 前に踏み込み、アレックスの顔面めがけて右ストレートを打ち込む。

 アレックスはそれを避け、俺の右腕を掴んだ。投げ技に入るつもりだろう。

 当然そこまでの動きは読んでいたので、投げを阻止する為腹部に膝を入れた。

 その攻撃もアレックスは右脚を上げてガードする。だが、お陰で右腕を掴んでいた手の力が緩んだので、右肘を自分側に曲げて振りほどいた。

 どちらも四肢がフリーになった瞬間を機に、攻撃、回避、防御が目まぐるしく繰り返される。

 さすが精鋭の特殊部隊といったところか、攻撃が全くといっていいほど通らない。


 だが、このままではジリ貧だ。


 俺は激しい攻防の一瞬の隙を見て攻撃を止め、体をグッと沈み込ませた。

 アレックスは呆気にとられ、一瞬動きが止まる。俺はその隙を逃さず体を後ろに倒した。


 そして、そのまま後転倒立の要領で体を倒し、反動をつけて突き上げる鋭い両脚の蹴りをアレックスに打ち込んだ。

 意表を突いた攻撃に、回避できないと踏んだのかアレックスは両腕をクロスさせて防御行動に移る。が、勿論蹴りの威力を殺すことはできず、蹴りをモロに受けたアレックスの両腕が外側へと弾け飛ぶ。


 しかし、俺のこの捨て身の蹴りはアレックスへダメージというダメージを与えることができなかった。危なかしくも、アレックスの防御は成功したのだ。


 相手の策は尽きた。次は俺が攻撃に出る番だ。


 そう、アレックスは思っただろう。


 だが、俺の本命はこの蹴りではない。

 本命はこの蹴りの後にある。


 俺はそのまま上にあがった両脚をアレックスの首に巻きつけた。

 脚の筋力は腕の筋力の数倍を誇る。俺は腰と脚力を余すことなく使ってアレックスを両脚で投げ飛ばした。


 下手に抵抗すれば首がへし折れるこの技に、アレックスはあえて力に抗わず、身を委ねた。


 当然アレックスの身体は横へ投げ飛ばされる。受け身を取るも、威力は削りきれず勢い余ってアレックスは壁に衝突した。


 俺は半身を倒した状態から、すぐに態勢を立て直す。すると、流石といったところか、壁に衝突した筈のアレックスもすでに態勢を立て直していた。


 しかし、すぐには攻めてこないようだ。

 少なくともダメージは確実に入っている。


 だが、大ダメージではない。俺は本気で闘っているわけではないが、それは相手も同じだろう。ここ辺りで引いてくれると嬉しいんだが。


「Shit・・・」


 俺の思いに反するように、アレックスは拳を握りなおした。


 ここまで来ると仕方がない、本気で仕留めに行くしかないようだ。


 お互いが同じタイミングで踏み出し、拳同士が衝突しようとしたその刹那ーーー。



「ちょっと!! なにやってるの!?」



 拳の間に、女性の声が割って入った。


 ビタリと俺とアレックスの動きが止まる。

 そして声の下方向に同時に顔を向けた。


 そこに居たのは、宿舎へと続く廊下に立ち尽くす一人の女性。

 スッと伸びた背筋に綺麗に整った顔。欧米系、いや、ロシア系の顔だ。

 クリーム色の長髪を後ろで束ね、ポニーテールにしている。

 少女。では無い。俺達と同じぐらいの年代に見える。

 白衣を着ているところを見ると、WSAの軍医か何かだろうか。

 女性は俺達が何をしていたのか察っしたのか、それとも事を見ていたのかは定かでは無いが、凛とした声でこう言った。


「信じられない、隊員同士で戦うなんて・・・見なかったことにしてあげるから、今すぐやめなさい。上に報告されるのは嫌でしょ?」


 完全に脅迫だが、俺にとってはありがたい。

 アレックスも不本意ながらといった様に戦闘体制を解いた。


 そして、


「チッ」


 と舌打ちをして悪態をつくと、別の施設へとつながる廊下を進んでいった。



「すまない、驚かせてしまった」


 俺は白衣の女性に感謝の意も込めて謝罪する。


 女性は呆れた様に頭を左右に振ると、スタスタと歩いてその場を去っていった。


 全く、飛んだ災難だった。まあ、半分は自分も悪いのだが。

 しかし、アレックスが俺に変に絡むことはすくなるなるだろう。というよりそう願いたい。


 腕時計を見ると針は5時48分を示していた。


 まだ施設を把握していない俺は内心焦りながら、会議室へと向かった。 




 





 

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