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2.WSA(2)


 暗く、どこか陰湿な雰囲気を漂わせる、ある廃ビルの一室。

 割れた窓から見える夜空の月は雲に隠れており、ノートパソコンから漏れるモニターの光だけが、部屋唯一の照明となっている。


 そのモニターを瞳に映す影が一つ。

 どこか楽しげな笑みを浮かべていた。


「おい、そろそろ出るぞ・・・」


 どこからか低い声が影にかけられる。

 影、男の後ろにはガスマスクを装着した兵士が立っていた。


「ああ、分かった。すぐ向かう」


 パタリとノートパソコンが閉じられ、スッと男が立ち上がる。

 消える直前のモニターの光は、男の手に塗りつけられた赤黒い血痕を照らし出していた。


「・・・ウェンツ。そういえばWSAのことはどうなった?」


 ウェンツと呼ばれた兵士は、ほんの少し考え込んだ後首を横に振った。


「あぁ・・・別に。大したことはねえだろ。まあ一応無視するつもりは無いがな」


「そうか。まぁその辺は全て君に任せておくよ」


 男は黒のビジネスバッグにノートパソコンを詰め込むと、錆だらけのパイプ椅子を机の下に入れ直した。


「さてと・・・」


 男はどこのものとも分からないロゴが描かれた帽子を被りなおすと、胸元から携帯端末を出した。


 今時珍しい、日本独自の旧型携帯電話。所謂いわゆるガラケーだ。それもかなり古い。


 男は口角を歪ませ、なんの躊躇いもなしにガラケーの発信ボタンを押した。


「さぁ・・・革命開始だ」



「抹殺・・・?」


 アマンダのセリフを聞いてデルタフォースのクリフが顔をしかめる。

 他の隊員達も同じような反応だった。


「なんだ貴様ら、誰も何も気づいていないのか? 心当たりぐらいはあるだろう?」


 アマンダが微笑を浮かべる。

 いや、嘲笑というべきだろうか。


 冊子に目を通すうちに、いや、目を通さずともほとんどの者がこのリストの意味を理解した。


「・・・脱退した元隊員」


 GOEのスハイツ・ベルスエが呟くように言った。


 5cmほどの厚さの冊子。

 そのページには、様々な軍に所属していた元軍人達の顔写真と、年齢や身長、出身地などの情報が書かれている。


 他の隊員達も見覚えがある顔があったのか、顔を引きつらせたり、しかめたりしている。


「さて、ここまでくると優秀な君達には説明はいらないだろう?」


 沈黙。

 理解していない、察しがついていない。そういうわけではない。

 誰も信じたくはないのだ。

 突如突きつけられた現実を。


 神永は指を震わせながら、そっと顔の火傷に触れた。


「あー、つまりあれか?」


 沈黙を破ったのは、パーカーにジーパン。その上にタクティカルベストを着用したPMCの男、ホレス・ストリンガーだった。


「ホレス隊員。言ってみろ」


 アマンダがホレスに指を向ける。


「分かっ・・・じゃなくて。サー」


 ホレスはわざとらしい軍人まがいの返事をして言葉を続けた。


「WSAの目的は対テロだろ。その目的が嘘だということはないと仮定して、ただ単に軍を脱退した人間を殺すだなんて物騒で不毛なことはしないはずだ」


 ホレスが、円卓を囲む隊員達を見渡しながら見解を語る。

 ほとんどの人間はホレスと同じ考えといった様子だった。


「つうことはだ・・・まぁ、考えたくはないが要するに・・・」


 ホレスは若干言葉を詰まらせたが、多少の間を開けて思い切ったように言ったを


「・・・そいつらがテロ活動、または反社会活動をしてるってことか?」


 再び、室内が静まり返る。


 誰もホレスの考えを馬鹿にする者はいなかった。


「その通りだ。よく出来たな、ホレス隊員」


 アマンダが乾いた拍手を鳴らした。


「何が目的でしょうか・・・?」


 眼帯の男、クラレンス・コーエンがアマンダに尋ねる。


「目的、か」


 アマンダは考え込むように言った。

 わざとらしく。


「世界革命。だそうだ」


 室内がざわつく。


「世界、革命・・・?」


「そう。世界革命だ。ふふ。さらに面白いことを教えてやろうか、そいつらは別に各個人でテロ活動をしているわけではない」


 ぞっと隊員達の体から血の気が引いた。


 アマンダは余裕を崩さず続ける。


「7ヶ月前に突如として現れた、テロ組織がある。その構成員は麻薬組織のボスや、マフィアのボスと言った裏世界の人間をはじめとして、そこにいる元軍人や元政治家などが関わっていた」


 はたしてそれはテロ組織と呼べるのか。そんなに多くの権力者と軍事関係者が関わっているならばもうそれは「軍隊」と呼んでおかしくは無い。


 隊員達の様子を見ると、心当たりのあるものが何人かいるようだった。


「テロ組織名は『ZOFIA』。奴らはそう名乗っている」


 再びざわめき出す室内。

 だが、思い当たる節がいくつもあったのだろう。隊員達は信じられない。というよりも合点がいったというリアクションだった。


 しかしその中でただ一人、この状況でZOFIAのことを微塵も気にせず、イライラと頭を掻き毟るものがいた。


 ドンッと。


 円卓の上に軍靴が蹴り落とされた。


「つまり? 何が言いたいんだ? Say briefly『old battleaxe!!!』」


 金髪のシールズ隊員アレックスが、アマンダに対してそう悪態をついた。

 彼にとって必要なのは任務であり。それの背景や事情などはどうでもよく、聞くに耐えないものだったのだ。そのため後半は世界公用語ではなく、英語へと戻っていた。


「ふふ。君はまるで『狂犬』だと聞いていたが、その通りのようだな」


 アマンダは不敵な笑みを浮かべながら、カツカツと足を机の上に投げ出すアレックスに近づいた。


 そして、


「だが、そんな躾のなっていないクソ犬を躾けるのが私の役目でもある!」


 アマンダはアレックスの襟元を掴み、腕力だけでアレックスを部屋の壁へ向かって投げつけた。

 エリート特殊部隊のさらにエリートの極々極少数の人間の一人である。戦闘人間をだ。


 だが、流石というべきかアレックスはとっさに受け身を取り、威力を軽減させる。


 しかし、アマンダの指導は終わっていなかった。


 ドンッと、鈍い音がしたかと思うと壁に倒れかかるアレックスの腹部に、足をめり込ませるアマンダの姿があった。



「とはいえ、私も少々勿体ぶりすぎたのも事実だ。とりあえず詳しいことは後で説明する」


 アマンダはアレックスから足をどけると、円卓で唖然とする隊員達に向き直った。


「簡潔に言うならば、貴様らの任務は『私の手足となって動くこと』だ」


 流石というべきか、立つことは出来ないが、アレックスはまだ意識があるようだった。

 どういう状態にしろ、彼が聞きたかったことは聞けたわけだ。



「貴様らには協力して、世界の脅威であるテロ組織を殲滅してもらう。一体どれだけかかるかは分からないが、これが世界の意思だ」


 ここにいる隊員達のほとんどは、とうの前に決心しているようだった。


「さて。では・・・」


 アマンダが何かを言いかけたその時、押し破るようにしてドアを開ける人影が隊員達の視界に飛び込んだ。


「し、失礼いたします!!」


 入ってきたのは、黒を基調とした装備に身を包んだ兵士だった。

 さしずめWSAの一般隊員が何かだろう。


「何か用件か? その場で報告して構わん」


 アマンダがそう言うと、隊員は短く敬礼と返事をして報告を行った。


「アメリカ英国大使館が爆破されました!」


 その報告を聞き、驚愕する隊員達を尻目にアマンダは笑い声を漏らす。


 そして、再び集められた隊員達を見渡した。



「さぁ、この世界を救ってくれよ? WSA隊員諸君」




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