第11話 ふたりの景色
「――どうだ、陽太? 素晴らしい眺めだろ?」
「うわぁ~~、すっげぇ~……。す、凄いですよ! 誘って貰えてホントに良かったです! あ、ありがとうございます、葵先輩‼」
「そ、そうか、本当にそう思うか? よ、良かった……。じ、実はな、ココは私のとっておきの場所なんだ……。お前と、そ、その、ふ、二人きりで来ることが出来て、その、本当に良かった……」
そんな俺の反応を受け、興奮気味にもどこか誇らしげで、それでいて少し照れたような笑みをみせる葵先輩。
早朝五時――。
俺は今、都内某所のとある場所にて葵先輩と二人きりで朝日を眺めていた。
東から昇る、いわゆる大自然の恩恵ってヤツを全身に浴び、俺たちは寄り添うかのように佇んでいた。
そう――それは言葉では言い表せられないくらい神秘的な光景だった……。
が、それにも増して、俺はある光景に心を奪われていて……。
「ええ、美しいですよ……。本当に……」
「……陽太?」
そんな俺の視線に気づいた葵先輩。
一言も言葉を発するでもなければ、只々お互いに目と目で見つめ合うこと数秒……。
「…………」
「…………」
朝日のせい? それとも? 彼女の白く透き通るような頬に赤みが差してきたかと思えば、
「――……っ……あ、そ、その……。え、えと、――こ、こら、陽太! 」
雰囲気に耐え兼ね、早口にも捲くし立てるようにソレだけ言うと、不意にプイッと俺から顔を反らしてしまう。
「――ば、馬鹿者! ま、全く、お、お前という奴は、ほ、本当に仕様がないい……。と、年上をからかうのは、止め……」
そう言って、俺の頭を小突くかんと振り上げられた手首をそっと掴み上げる。
白く華奢な、それこそ力を入れたら折れてしまうのではと思えるほど儚げな左手を、あくまでも優しく握りしめるなり、
「……っ? ひ、ひな……た……?」
俺のこの行動に、一瞬、ビクンっと掴んでいた腕が硬直し、最初こそ目を見開き、驚いたような表情を浮かべた葵先輩だったが……。
「………………」
「………………」
そこはかとなく俺の気持ちが伝わったのだろうか? スッと腕から力が抜けていったかと思えば、
「――…………んっ……」
ほんの僅か逡巡した後、ゆっくりと、だが、確実にその潤んだ瞳を閉じていく葵先輩。
この彼女の一連の所作が無性に嬉しかった。
俺を受け入れてくれた……!
そう思った瞬間、これでもかと、俺の中にある葵先輩への溢れんばかりの愛しさが込み上げてきた。
そして二人の距離は徐々に縮まっていき、ついにはお互いの息遣いさえ感じられる近さまで……。
ドクン、ドクンと打ちつけるお互いの心臓の音さえも聞こえてしまいそうな中、
「……あ、葵、せん、ぱい……」
「……ひ、ひな、た……」
微かに震える、その桜色の唇を塞ぎかけた、正にその時、
――ヒュンッ、ボゴッ‼
「――ぐげぇっ⁉」
突如、後頭部を襲った強烈な痛みに悶絶し、俺はその場に蹲ってしまう……。
「~~~~~~~ッ‼ い、イッテェええええっ⁉ ……な、何だってんだよ、一体っ⁉」
――スッ……。
夢心地から一変、後頭部を抑え、必死に痛みに耐えている俺の背後に人の気配らしきものが……。
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