月SS:夏野菜の扉(3)
リレー小説の3本目です。3本目が私の書いたものになります。
「しまった…どうしよう…!」
私は、目の前の光景を呆然と眺めていた…。
この夏はグリーンカーテンを家の周りに設置していたのだが、とある事情で帰宅できなかった二ヶ月の間に我が家は緑に埋もれてしまっていた…。
「甲子園のようだなぁ…」と他人事のように呟いた私は照りつける太陽に我に返る。
かつて入り口があった場所は瓢箪とゴーヤに厚く阻まれていて、私は汗みどろになりながらもやっとドアを発掘、やれやれシャワーでも…と入った瞬間、廊下の奥に蠢く影が見えた。
「泥棒か?」と目をこらすとウサギのお面をかぶり手にバトンを持った男が立っている。
私が「警察!」とスマホを見た瞬間、奥から『かまえろっ!』と叫びながらバトンを差し出した男がこちらへダッシュしてきた。
不意をつかれ思わずバトンタッチをしてしまった私は『走れーっ!』というウサギ男の勢いに押され走り始めたのだが、その手に握らされたのは緑のバトンではなく青々としたきゅうりだった。
◆
きゅうりを持った私は訳が分からないまま走り出したが、我が家の廊下はこんなに長かっただろうか。
そんな考えが頭に浮かんだ時、光の壁が前に現れた。
いや、光の壁がこちらに向かって迫ってきたのだ。
私は思わず目を瞑った。
しばらくして目を開けるとそこは草原だった。
青い空白い雲360度見渡す限りの緑の海。
私は呆然として立ち尽くした。
ここはどこ?
心の中に不安が沸き上がってきたその時、馬のお面を被った男が走ってきた。
手に持っているのはナス?
「受け取れ!走れ!」
私は両手に野菜を持って草原を走るのだった。
しばらく走っていると空が急に暗くなってきた。
そして突然目の前に黒い壁が現れこちらに向かってきた。
私は怖くなって逃げようとしたが、黒い壁はあっさりと私を飲み込んだ。
再び目を開けると夜空が広がっていた。
素晴らしい漆黒の空と輝く星。
見入っていると闇の中から梟のお面を被った女が現れて、トマトを差し出した。
「さあ、走りなさい」
◆
トマト、ナス、きゅうりを持って私は夜空の中を走り出す。
随伴するように小さな星たちが私の周りをめぐる。
いや違う。
星のように見えたのは粒々のコーンだ!
コーンがピカピカと光って私の進むべき道を照らしてくれる。
その導きに従い私は走り続け、色々なお面の人から野菜をもらう。
オクラ、ズッキーニ、枝豆。夏野菜ばかりだ。
どれだけ走ったのだろう。
どれだけ野菜をもらったのだろう。
私は時間の感覚も忘れ、次々と広がる世界の扉を開いていく。
そして、ついに終わりが来た。
静寂だった世界から一転、多くの歓声に包まれる。
みんな口々に「よくがんばった!」「感動した!」「ナイスラン!」と拍手とともに言う。
私も「みんなありがとう!」と応援してくれた人たちに手を振る。
そういえば、私はどうして走っていたのだろう?
結局わからぬままだった答えが目の前にあった。
夏野菜青果リレー。
どうやら私は聖火ランナーならぬ青果ランナーだったようだ。
どうやったらオチがつけられるんだよ!?
追い詰められて「青果」と「聖火」が思いついた時、これしかないと思いました。笑
Q:お面の人は何者なんだ?
A:細けーことはいいんだよ!




