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月SS:春の雪
春は嫌いだ。大嫌いだ。
憎んでいるとさえ言ってもいい。
一色だけの白銀の世界が終わり、色に溢れた世界に戻る。
地獄のような――どころではない。地獄そのものだ。
到底、僕たちが住めるような世界じゃない。
春は命の終わる季節。
一人。また一人と僕の友が消えていく。
さようなら、昨日の友。
さようなら、明日の友。
このまま僕も消えていくのだろうか。
それは……少しだけ悲しいな。
そう思っていると――空から雪が降って来た。
季節外れの春の雪。
積もりもしない、すぐに溶けてしまう儚い雪。
まるで僕みたいだ。
季節外れまで、最後の最後までしぶとく生き残る。
でも、そんな僕も限界が来たようだ。
体の半分も溶けて、維持するのが厳しくなっている。
春は冬が終わったら来る季節じゃない。
雪が溶けたら――春が来るのだ。
やっぱり僕は春が嫌いだ。
僕がいなくなるからじゃない。
だって、新しい命が生まれる――この美しい季節を見られないのだから。