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月SS:スイッチを押していたら……?
テーマ「スイッチ」のショートショートです。
私が小学生の時の話だ。
いつものように家に帰ろうとしているのに、いつもと違うことがあった。
「このスイッチを押してみますか?」
道端に座っていた浮浪者みたいなおじさんが私に話しかけてきた。
手には押しボタン式のスイッチを持っていた。
今と違って不審者への警戒心が薄い時代だ。
私は無邪気に何のスイッチなのか尋ねた。
「さぁ。何のスイッチなのでしょうかね?」
何だそりゃ。
それじゃあ何も意味がないじゃないかとおじさんに言った。
「いえ、このスイッチの意味は君が決めるのですよ」
君が押すことに意味があり、君が押した後に意味が決まる。
そういうスイッチなのだという。
押すか押さないか。
私は体の奥底から、わけのわからない恐怖が湧き上がり、逃げるように帰った。
その後、おじさんとは会っていない。
けれども何故か私はあのおじさんのことを忘れたことはない。
あのスイッチを押していたら、今の私の世界は何か変わったのだろうか?