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月SS:誰よりも雄弁な庭師
テーマ「庭の秘密」のショートショートです。
身分違いの許されない恋だとわかっている。
それでも私はこの恋を止めることができなかった。
庭師である彼とのほんの僅かな時間の逢瀬が私の心を満たしてくれる。
これ以上の幸せはない。
そう思っていたのに、この関係は長くは続かなかった。
お父様に私たちの関係がバレてしまい、私は彼と会えないように屋敷の中で謹慎を言い渡された。
彼と話すことも、彼に触れることもできない。
私に許されたのは、屋敷から庭を眺めることだけ。
それが私を慰めると同時に悲しくもなる。
秋も過ぎて冬が訪れた。
私を楽しませてくれた庭も今となっては寂しくなるだけ。
もしかしたら、彼はもう私を諦めてしまったのでは?
悪い考えばかりが頭に思い浮かぶ。
芽吹きの春が来た。
冬の間で沈んだ気持ちを立て直そうと久しぶりに庭を見る。
するとそこには、深紅の薔薇で描かれた文字があった。
I love you.
これが無口で庭師の彼が私にくれたプロポーズの言葉よ。