君に贈る呪いの手紙
これは呪いの手紙です。
読んだ後、君は呪いにかかります。
具体的には死ぬよりも辛い日々を送り、生き地獄のような苦しい生き方が強いられます。
それでもいいなら覚悟して二枚目以降を読んでください。
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あーあ、読んじゃったね。
せっかく私が読まなくてもいい最後のチャンスをあげたのに。
ま、君がそういう奴だっていうことはわかっていたんだけどね
でも、呪いの手紙って言葉に嘘はないよ。
私はこれから君に呪いをかけます。とびっきりのをね。
とはいえ、何から書けばよいものか悩んでます。
この時点で一時間ぐらいかけていて「うーん」と唸ってる。
作文とか苦手なんだよ。なにせ国語の成績はいつも二か三だったから。
もう面倒くさくなってきたから最初から書くことにします。
まず君が私と出会ったのは入学式だと思ってるようだけど、実は違います。
なんと小さい頃に出会っていました!
ふふーん。驚いた? それとも驚いていない? いや盛大に驚けよ。
でも覚えてなくても仕方がないか。
お互いが小学生になったぐらいの頃だったし、私はとても美人に育ってしまったから。
……今自意識過剰だとか思ったら、この時点で呪いかけるからな。覚悟しろよ。
まぁ、出会いはそんな感じ。
本当に他愛もない会話をして、手を繋いで会場を遊び回っただけの関係でした。
唯一違ったのは、君はその頃から表彰台の上にいて、私は表彰台を見る側だったことかな。
つまりなんだ。
私は君のファンで、君は私の憧れだったんだ。
君の影響で、君がいたから、私もこの道に進む決心をしたんだ。
ありがとう。私に生きがいを教えてくれて。
だからわかるよね?
私が入学式で君に再会した時、君にどれだけ腹が立ったか。
あ~今思い出しても腹が立ちます。
あの時の君は人生のすべての不幸を背負った顔をして陰気臭くて、私の憧れだったキラキラしたフィルターが無くなったのはまだ許そう。
だけど、私と君の生きがいを捨てたばかりか、それを馬鹿にしたことは絶対に許せませんでした。そりゃグーパンで鼻血が出るぐらい殴るよ。殴ったこと自体は後悔していないけど、暴力を振るったことは謝るね。
ごめんなさい。
でも、同じことをまた言ったらグーパンをすると思います。何度生まれ変わっても。
あの頃の君は私のことを嫌いで鬱陶しかったことでしょう。
何せ自分が捨てた道に無理やり戻そうとする人間なんだから。
実際、迷惑そうな顔をしてたもんね。
でも私は何一つ悪いとは思っていません。
だって、君は心の奥底でそれを望んでいたんだから。
なんでわかるかって?
わかるよ。そりゃ。
私たちはそうしないと生きていけない生き物なんだ。
心臓の鼓動はそのためにあるし、呼吸と同じぐらいそれがないと生きていけない。
君は私の同類なんだから。いや、私が君の同類になったのか?
どっちでもいいか。
時間の問題だったんだよ。
私がいなくても君は戻ってきたと思う。きっと。
嫌がる君に無理やり練習をさせ、勝手に申し込んだ時は唖然としてたね。
今思い出しても笑える顔をしていたよ。
気づいてた?
君は何てことをしてくれたんだ!とか言ってたけどさ。
別に出場しなくてもよかったんだよ?
でも、君はくそ真面目に練習して、本番にのぞんだんだ。
私の意思じゃなくて、君の意思で。
だから、あの時から君は選んでたんだ。
この道に戻ってくることを。生きることを。
私が憧れた君が戻ってきて、私は心から歓喜したよ。
これで君と競い合えるって嬉しかった。嬉しかったんだ。
……あ、そうそう。一つ言い忘れてたよ。
君がこの手紙を読んでる頃、きっと私は亡くなっていることでしょう。
本当は最初に書くつもりだったんだけど忘れてたよ。
こんなんだから国語の点数が悪いんだ。
まぁ、こんな手紙書くのも初めてだし許してください。
書き直すのも大変だからこのまま書くね。
ともかく、私は亡くなってます。多分。
ワンチャン特効薬ができて治る可能性も無くはないけど厳しいと思います。
今はまだ手紙を書く元気はあるけど、やっぱり体調はすこぶる悪いです。最悪です。
なので、亡くなっているんだと思います。
いや、本当人間ってこんなに急激に身体が悪くなることもあるんだね。
我がことながらびっくりだよ。
これからだーって時に病気にかかるんだから。
はは、ドラマみたいだよね。
過去の天才が再起したら、ライバル役が病気になる。
ドラマよりドラマしてるよ。
実を言うとね。死ぬこと自体は怖くないんだ。まだね。
私よりも周りの方が大変そうに見えるし、可哀そうに見えるんだ。
ほらあれだ。周りが焦っていると逆に自分が冷静になる現象。
そんな感じ。
現実感がないんだよね。病院に入院している今でも。
夢を見ている感じ。明日にはこの悪夢から覚めている良いなー。
ははは。じゃあ、何でこの手紙書いているんだよ!って話だよね。
そうだよ。危うく本題を書き忘れるところだった。
これは呪いの手紙です。
これから君に呪いをかけようと思います。
心の準備はいいな?
絶対に夢を叶えてください。
私は多分死んでいて、夢を叶えることはもうできないから。
全部を君に託します。
私ができなかったこと全て。君が叶えてください。
でも、君はびっくりするぐらい心が弱いから、この手紙を読んでいる今も凹んでいるだろうし、体育座りでもしながら読んでるんじゃない?
まぁ、そうなった原因は病気になった私だろうから泣いて悲しんでいていいよ。
ていうか、少しは悲しめよ。悲しまなかったら私が枕元で泣くからな。
そんで泣いて、悲しんで、お腹が減ったらご飯を食べなさい。たっぷりと。
次に練習をしなさい。ぶっ倒れるまで。
血がにじむようなではなくて、血がにじむまで努力をしろ。練習をしろ。
才能がない私はそうやって頑張ってきたんだ。
君が立ち止まったままでいることを私は絶対に許さない。
夢を諦めることを私は絶対に許さない。
何度だって言うよ。
立ち上がれ。努力しろ。夢を叶えろ。
これが、私が君にかける呪い。
読まなかったらよかったって思った?
残念だったね。
君のことは君以上に知っているんだ。
この手紙を君が読んだら、真面目な君のことだから私に縛られるってわかってた。
どれだけ辛くても、君は私のためにがんばることも。
だから言ったでしょ。呪いだって。
でも安心していいよ。
夢を叶えたら呪いは解けるから。
その後は君の好きにしていいよ。好きに生きてください。
だから、これは私の勝手なお願い。呪いじゃなくてお願い。
聞いてくれるかな?
一日のうち数秒でいいから私のことを思い出してください。
誰か好きな人と結婚して、子供を産み育ててください。
……あ、今はこういうのハラスメントになりそうだね。
コンプラ違反ってやつだ。道徳で習ったよ。
じゃあ、あれだ。
教え子を作って、自分が学んだことを教えてあげてください。
これならコンプラ違反にならないでしょ。
ふふーん、私は気遣いのできる人間なのだ。
褒めてくれていいよ?
ふぅ、書きたかったことはこれで全部かな?
結構長くなったよ。作文でもこんな長く書いたことなかったから、凄い頑張った!
改めて読み返すと手紙って結構恥ずかしいもんだね。
ラブレターみたいだ。
あ、一応言っておくけど私は君のこと好きだし憧れだけど、恋人にしたいタイプじゃないから。勘違いしたら駄目だからね。
生きていても君と恋人になることはないよ。
もしも君が告白してきたら秒で振ってやるんだから。
告白してる暇があれば練習しろってね!
なんか取り留めなくなってきたし、最後に一言だけ書くよ。
君に出会えてよかった。
この呪いの手紙が君の幸いになりますように。
読んでいただきありがとうございます。
お楽しみいただけたら幸いです。
小ネタとしては「あなたへ」向けた手紙になるよう執筆しました。




