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見つめるその先に
月の音色204回で朗読されました!
https://www.onsen.ag/program/tsukinone
私の世界に光はない。
だから、みんなが言う「色」というのが何なのかわからなかった。
例えば赤色だ。
情熱の赤だったり、炎が燃える色だったり、赤信号だったりとちんぷんかんぷんだ。
とりあえず触れたら危険な色なんだと言ったら、友達は「全くその通りだ」と笑った。
生まれた時から光がない私は言ってしまえばあれだ。
深海魚やモグラみたいなものなんだと思う。
光がないかわりに他の感覚が鋭い動物。そんな感じだ。
だから、他の人より気づくことは沢山ある。
四季折々の微妙な香りの変化。
指先がそっと触れた物の輪郭。
音楽から伝わる演奏者の感情。
そうやって私は世界を楽しんでいる。
なのに、どうやら周りにはそれが伝わりづらいらしい。
残念なことに。
だから声を大にして言いたい。
私が見つめるその先に光はない。
だけど、その先にあるのは闇ではない。
色以外の全てが──この手の先にある。