赤髪のちっちゃい女の子
「あれ? 誰もいない……」
ぼくは家から飛び出してきた赤髪のちっちゃい女の子と家に入り、リビングへの扉を開いた。しかし、この子の親らしき人はいなかった。
ガチャ。
「ここも」
ガチャ。
「ここも」
ガチャ。
「どこにも」
バン!
「いない!」
1階、2階全ての部屋を回ってみたが、親どころか人の気配すらまったくといっていいほどなかった。
家に入った時から人のいない気配はすでに感じ取ってはいたけど……。
ぼくは再びリビングへと戻り、後ろをついてきている女の子を見た。
「……?」
女の子は見てくるぼくをビーダマのように透き通った瞳で不思議そうに見つめ返す。
「……」
この子は誰なんだ?
どうしてぼくの家に?
親はいないのか?
いたとして、どこにいるのか?
いろいろと疑問を巡らせてみるが、現実問題、ここに女の子はいるわけで。
考えていたところで仕方がない!
「ねえ君、君はどこから来たの?」
ぼくはしゃがみこむと、赤髪のちっちゃい女の子に聞いてみた。
「……アカリ?」
「アカリ?」
アカリってなんだ? ああ、名前か!
「ああ、うん、アカリちゃん」
「アカリはねー?」
「うん」
「お母さんのお腹の中!」
「ぶっ!」
ぼくの反応に、エヘヘ、と頭の後ろをかいて恥ずかしがるアカリちゃん。
「いや、そういうことじゃなくてね……! ここに来る前は、どこにいたの? ってこと」
「あ、そっか!」
ポン! と手のひらにグーを置くアカリちゃん。
「う、うん……」
「うーんっとねー、おうちから来たよ!」
「あーそうだよねー」
そうなるよねー……。
「ここには、1人で来たの?」
「ううん? お父さんとお母さんと一緒に来たよ?」
アカリちゃんは大きく首を横に振って答える。
「なるほど……」
やっとスタート地点に立てたって感じだ。
「お父さんとお母さんは、今どこにいるの?」
「どっか行っちゃった!」
「え!」
元気いっぱいに答えられる。ぼくはその答えに面食らってしまった。
そして、テレビの上の壁掛け時計を見た。
時刻は正午の12時になろうとしていた。
部屋は蒸し暑く、ぼくの額からひとしずくの汗が流れる。アカリちゃんも汗は出ていないものの、頬が赤く火照っていた。
とりあえずぼくはエアコンの電源を入れた。冷風が出てくる。
どうしよう、この後、タクヤの家に行く約束してるんだけど……。
「お父さんとお母さんって、何時に帰ってくるとか言ってた?」
ぼくは焦る気持ちを抑え、リビングで立ったままのアカリちゃんに聞いた。
「ううん……」
首を振るアカリちゃん。
「ええー……」
何でうちに来て、ちっちゃい子を置いて、勝手にどっか行くんだよ! と泣きたい気持ちになったが、それをこの子に言ったところで仕方がない。
この子を置いてタクヤの家に行くわけにも行かないしなぁ……アアァどうしようゥゥゥ。
ぼくは頭を抱えた。
少ししてふとアカリちゃんを見ると、アカリちゃんは扇風機の前に移動し、回る扇風機の前で声を出して遊んでいた。
「アアアアアア」
って、遊んでるし!
んもう!
まだ聞きたいことは山ほどあるっていうのに!
「はぁ……」
仕方なく、ぼくはタクヤに行けなくなった電話を入れようと立ち上がり、リビングテーブルの上に置いてある白い用紙に気付いた。
「あれ?」
こんな紙あったっけ……?
気付かなかったが、最初からあったらしい。ぼくはそこに近付いていき、置き手紙のようなそれを手に取った。
「っていうかこれ、父さんの字じゃん!」
見てみると、それは父さんからの置き手紙だった。
最初にユウキへ、と書かれていた。
ぼくは急いでそこに書かれていた文章を読み、そして、それを読み終えると、ぼくは唖然とし、腕から力がぬけてしまい、手からポロリと持っていた置き手紙が抜け落ちた。




