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2.5

「さ、食べましょうか」

「……」

「どうかしましたか?」

「……フィーネさん」

「どうしたんですか、改まった顔で。あ、もしかしてあれ、でしょうか。わかりました、心の準備は出来ています」

「……別に問題ないって思ってたんです」

「あ、違うんですね。いえ、気にしないで続けて下さい」

「でも、失ってからはじめて気付くことってあるんだなって、そう思ったんですよ」

「ほう、それはあれですか、受付のシア嬢のことですかそうですか」

「まさかこっちの世界に来て全く見かけなくなるなんて、思いもしなかったんだ……」

「あ、違うんですね。いえ、気にしないで続けて下さい」

「……米」

「は?」

「お米が食べたいんです! 今日もパン、昨日もパン。時には狩ってきた肉オンリー! オンリー肉! 魔法を使ったフリーズドライ技術には驚きましたし美味しいですけど! でも肉にはご飯が欲しいんです!」

「はあ……?」

「フィーネさんのピンと来てない感半端ないけど、でもやっぱり僕は日本人なんだ! なら米だって、そう思ったんです!」

「……はあ」

「お米……お米が食べたい……! しかもあの時は全然気にしてなかったけど、買い物した日に嗅いだ匂いはどう考えてもカレーだった! おかげで今、思い出して無性にカレーが食べたくなってるんですよ!」

「カレー……ですか」

「そう! フィーネさんは知らないかもですけど、俺たちの居た国にはカレーって食べ物があって、」

「ありますよ? カレー」

「それが……は?」

「いやですからカレーですよね? ありますよ?」

「なっ!?」

「ええ。王都で唯一、ちょっと独特な食文化を持つ国から来た獣人の一家が営んでいる食堂で出されています。買い物をした日に近くを通りましたから、ユキヤが嗅いだ匂いもカレーのもので間違いないと思います。ちょっと奥まったところにあるので行列が出来たりはありませんが、そこそこ繁盛してたと記憶していますが」

「な……な、なな……」

「何ですか?」

「何で言ってくれなかったんですか! だってカレーですよ! 俺たち日本人の国民食とまで言われているカレーですよ!」

「いや、そう言われてもユキヤの国の食文化を知りませんでしたし……」

「あっ! あぁ……そうですよね、すみません取り乱しちゃって」

「いえ、そういう表情も貴重だなと」

「え?」

「気にしないで下さい」

「はあ……。あぁ、でもあるのか、カレー。よし、街に着いたら絶対にカレーを食べるぞ!」

「え? 食べられませんよ?」

「え?」

「カレーを王都で出しているのは一軒だけだと言いましたよね? 正確にはこの国でカレーを出しているのがあの一軒だけなんです」

「え?」

「コメと、あとスパイスと呼ばれるものがこの王国には流通していないんです。なんでもほぼ全てを国内で消費しているから、国外にはほとんど出回らないんだとか」

「ええ!?」

「隣接する国には少しだけ流通しているらしいんですが、かなりの高級料理になっていて、庶民の口には入らないそうです」

「えええ!?」

「ですから、カレーを食べるには王都のあのお店に行くか、あとは彼らの国に食べに行くかしかない、というわけです」

「じゃあ……」

「ですが」

「え? ……まさか」

「ええ、私たちがこれから向かうのは真逆。勿論、何度も言うように人々のため、魔王討伐の旅に寄り道などありません。残念ながらカレーを食べることは出来ませんね」

「そんなあ……」

「……それにあの料理は辛すぎます」

「え? 何か言いました?」

「いえ何も」


▽▲▽▲▽▲


「なあ」

「なんですか?」

「俺ぁ今まで、馬鹿な冒険者をたくさん見てきた」

「そうですね。そこに座って仕事もせずにね」

「ぐッ、だからそれは抑止力としてだな……」

「そこはもういいですよ。お互いまだ顔の腫れも引ききってませんし」

「ミリルも治癒魔法かけてくれないとか酷いよな」

「何言ってんですか。自業自得ですよ……お互い。ミリルさんも私たちに治癒かけるくらいだったら、その分怪我して戻ってきた冒険者に回したいでしょう」

「ハッハ、まあそりゃそうか」

「で?」

「ん?」

「おい……馬鹿な冒険者をたくさん見てきたのが何なんですか?」

「ん? おお、そうだった。馬鹿な冒険者をたくさん見てきたんだがな」

「まあ、そうですね」

「あいつみたいな馬鹿、初めてだなあってさ」

「ああ、シロウさんですか? というかギルド長のとこに来るのシロウさんくらいですけど。最終的に彼が他に並ばずギルド長のとこに来るおかげでカウンターの明け渡しが保留になったんですから、感謝してくださいね」

「ハッハッハ、でも馬鹿だからなあいつ」

「まあ、私もさっきのやり取り見てたからわかりますけど……」

「『どうだこれなら防具で武器だし文句ねえだろ!』っつってアレ見せられても、なあ?」

「身体も頭も守る気が無いのかと問い詰めたいところですね」

「あれ? こいつこんなに馬鹿だったかなと呆れたね」

「普通なら、今日まで稼いだ全財産つぎ込んでアレ買うとかしませんものね。でも、」

「うん?」

「次から討伐依頼を斡旋するんでしょう?」

「まあな。あいつに斡旋してた力仕事、依頼主は全部元はそこそこの冒険者だからな。仕事をこなす中で力量や身のこなしなんかを見極められていたなんて、あいつ夢にも思わないだろうな。馬鹿だから。まともな防具買わねえし」

「それでも討伐依頼を?」

「まあ、今までの依頼主……元冒険者からお墨付きは出たからな」

「一応、彼が買った装備の話をして、こんな装備で大丈夫かうかがっておきます?」

「あー『大丈夫だ、問題ない』って返ってくるだろうな。シャルマン老が『素手でもウサギなら殺れるだろ』ってさ」

「ああ、あの方がそう言うなら……そうなんでしょうね」

「ま、とにかく、シロウには明日から討伐回すかな。取り敢えずウサギからでいいだろ」


▽▲▽▲▽▲


「ねえ、みんなはどうする?」

「私はお祖母さんかなあ。魔道具屋なの」

「私はパパ! ギルドで2番目に偉いって言ってた! でも毎日忙しそうだし、どうかなあ……」

「……こないだギルド長と殴り合いしてたって聞いたけど」

「それはいつものことだから」

「「「「そこはいいのかよ」」」」

「俺はうちによく泊まってくれてる冒険者だな! すげえんだぜ、なんと銀のプレート持ちなんだ!」

「あ、じゃあ私もうちによく来る騎士様にしよ! かっこいいの!」

「私は……お父様かしら?」

「「「「王様じゃん」」」」

「リーにゃんは?」

「うん? あんな、最近毎日、うちが帰る頃に同じ冒険者さんがウチでご飯食べてんねんけどな」

「え?」

「ほら、リーにゃんちは食堂だから」

「あ、そっかそっか」

「うん。ほんでな、いつも帰ったらおるから、もしかしてうち狙いの変態さんなんかなって――」

「それはいけませんわ! 私、お父様に相談を」

「「「「だからそれ王様じゃん」」」」

「――思って昨日、直接聞いてみたらめっちゃへこんでてん」

「「「「え?」」」」

「ふ、普通聞くか?」

「え? いやぁ……どうかな?」

「流石は私のリーニャさんですわ!」

「「「「お前のじゃねえよ」」」」

「で、そのへこみ方がめっちゃ面白かったから観察日記つけようかと思って」

「え? なにそのノート?」

「……どうしてこうなるんだ?」

「い、いやあ……リーにゃんだし?」

「……むしろその冒険者の方がかわいそう?」

「ふふ、流石はリーニャさんですわね!」

「ディア様、リーにゃんなら何でもいいのね……」

「でも、ちょうどいいからその冒険者さんにするん」

「うん、それはわかったけど……リーニャ、そのノートの『おもしろシロにゃんにっき』ってのはやめてやろうな?」

「では、私はリーニャさんのためにその冒険者……シロさんですか……がちゃんと協力するようお父様にお願いを」

「「「「だからそれ王様じゃん」」」」

「本当にやめてやれよ」

「……やっぱり、その冒険者の方がかわいそう?」

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