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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第六章 残影の都市
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96 ルナの変化

 

 ローザと別れ、ルイボンドを離れて自由都市を渡って旅すること一ヵ月。




「今日もお願い、フィレンさん」

「ああ、かかってこい」


 片刃の剣を手にして、ルナは小さく呪文を紡いだ。


蒐窮の仮面(ペルソナ)猛る戦士(ウォリアー)


 虚空へ伸ばす指が、どこからともなく現れた赤い仮面を掴み取り、顔に被った。

 赤い仮面は顔に触れた途端、すっと消えた。

 その直後、ルナは《突進》で一気に踏み込んで、大上段から振り下ろした。その身のこなしは十五歳の少女とは考えづらい、熟練の戦士そのもの。


 身を横に一歩ずらし、切っ先を躱す。すると、ルナは直ちに剣を横に切り返してきた。

 直角を描くような鋭い剣筋に感心しながら、俺はさらに一歩後退。


 ビュッと、ルナの剣が風を切って、胴体ががら空きになった。

 俺は練習用の大剣に力を入れて、攻撃を仕掛ける()()をした。。

 すると、それを待っていたと言わんばかりに、ルナは地を蹴り、三撃目――刺突を放つ!


「やあ!」


 ヴァンパイアの瞬発力と小柄の体型を活かして、身体ごとぶつかってくるような一撃。

 間合いを詰められた俺だが、


「踏み込みが足りん!」


 ルナの刺突を大きく切り払った。

 そのまま《突進》で体当たりして、よろめいた彼女を突き飛ばした。

 間合いを取り戻した俺は、大剣を頭上で半円を描き、今度はこっちからと、上段から斬り下ろす!

 しかしルナは素早く体勢を取り戻し、俺の剣筋に合わせて、《強斬》で切り上げる!


 ガッと大きいな衝撃音が鳴り響く。

 情けなくもルナの切り上げに斬撃の勢いを挫かれた俺に、ルナは大きく振りかぶった剣を戦技で上への慣性を散らして、今度は《強斬》で思いっきり振り下ろす!

 戦技の連続発動によって二つの斬撃を隙間なく繰り出せる技、《龕灯返し》。


 しかし、

 ルナの刃先が、俺の前額まで数センチのところでぴったりと止まった。勿論寸止めではなく、俺がしっかりとルナの手首を握ったからだ。

 口を開けて動きが止まったルナを足で引っ掛けて転ばす、大剣で軽くルナの頭を叩いた。


「あぅっ」

「はい一本、俺の技だからな、タイミングが丸わかりだ。それより、なんで魔術使わなかった?」

「まだ動きながら詠唱するの慣れてないの」

「そういうことか、じゃもう一回やろ、今度は詠唱してから踏み込め、とりあえず詠唱を続けるのに意識しよう」

「はい!」




 ゲゼル教国のダークエルフ――アノーラに襲われたあの夜、ルナは死を逃れたが、その身に大きな変化が起こった。


 簡単に言うと、よりヴァンパイアに近付いた。

 まずは力と速度の向上、それに加え、元々優れた反応速度と動体視力もさらに上昇した。今のルナは肉体能力だけならすでに俺では太刀打ちできないレベルだ。


 次にユニーク魔術、蒐窮の仮面(ペルソナ)を会得、というよりは覚醒した。

 ヴァンパイアはユニーク魔術を操る、ってのはよく聞いた話だが、今ルナが使った蒐窮の仮面(ペルソナ)猛る戦士(ウォリアー)の効果はどう見ても、俺そのものだ。


 攻撃の癖と《戦技》のタイミング、しまいには我流技の《龕灯返し》も全部俺そっくりだ。

 ルナが言うには、《蒐窮の仮面(ペルソナ)猛る戦士(ウォリアー)》を使ったら自然にどうやって身体を動かせるか分かるようになった。まったく便利なものだ。


 心当たりは……やはりあの夜、ルナに吸血されたのが原因か。

 察するに、血を吸った相手のスキルを取り込むユニーク魔術、てところか。恐ろしいほど強力だが、それを会得したことは、それだけヴァンパイに近付いてるってことだ。


 もともとルナは陽光に弱いが、それはせいぜい一般人より火傷しやすいレベルであったが、現在では体が陽光に晒されたら火傷どころ砂になってしまう。しかも砂になった場所の再生は極めて遅く、治癒魔術も効かない。

 無闇に吸血するのは控えたほうが良いだろう。


 ヴァンパイア化が進んだと考えたら、素直に喜べないかも知れないが、折角の身体能力だ。前回の反省……とまでは行かないが、咄嗟で誰かを守れるように武芸を学んで、ゆくゆく魔術戦士になるのも悪くない。

 ルナもこれでリースお姉ちゃんを守れると意気込んで稽古に打ち込んでいる。


 しかし武術を学ぶのは良いが、問題は得物だ。俺の得物はバスターソードだが、そのままルナにも同じ武器を使わせるにはいかない。何故なら剣身だけで1メートル超の両手剣を操るには、さすがにルナの身長では無理がある。

 そもそも両手剣というものは、非力なる人間が鎧やモンスターの外皮を貫けるために使われた武器だ。ヴァンパイアであるルナにその必要はない。

 かと言って俺も姉さんも、自分の得意する領域以外じゃ素人同然っていうわけじゃないが、人に教えるほどのもんでもない。


 この問題を解決したのは、なんとスーチンだった。


 意外なことに、スーチンに武術の心得があった。

 《倚天流》、という聞いたことのない武術だが、幼い頃から一通りやらされて、厳格る師の元に数年も叩き込まれたらしい。

 上流階級の嗜みってよく分からない。


 そんなスーチンの得物は、(かたな)っていう片刃の長剣。剣身が80センチほどで反りがあって、かと言ってシミターほど曲がってはいない、なかなか特殊な形をしている。

 ここら辺では見当たらない武器だから、アイナさんもどうやって造るのか悩んでたが、姉さんが魂の酷使(ホノリウス)でスーチンと心を通わせて、その記憶から刀のイメージを汲み取って、スーチンの魂で投影した。

 それを元に、アイナさんがルナに合わせて長さなどを調整してルナ用の刀を作ってくれた。


 元々ゴーストの外見は魂の投影と言われてるから、魂の酷使(ホノリウス)で投影される情報を選択しただけ、って姉さんが説明してくれたけど、なるほどよく分からん。


 ちなみに、同じやり方で姉さんのイメージを投影して、スーチンに新しい服を着せることもできた。

 いつもの異国の華美な衣装ではなく、至って普通の女の子みたいな服でルナと一緒に形稽古しているスーチンの姿を見ると、微笑ましい気持ちになる。

 ていうか魂の酷使(ホノリウス)ってなんでもありだな。


 刀術は斬撃が主体になるから、《強斬》など俺のスキルと共通しているところも多いが、異なる部分も少なからずあった。


 バスターソードに限らず、両手剣は重量を持って叩き切るのが主だが、刀はどうやら素早く切り裂くイメージらしい。

 そして、スーチンが学んだ《倚天流》の中には、《居合》と《刺突》という二つの大きなファクターがある。スーチンの流派では避けては通れないほど重要だそうだが、生憎俺にその二つの素養がないから、ルナは自分で一から学ばなければならない。


 実際ルナの刺突はまだ甘いし、フェイントにも掛かりやすい。つまり体は十分だけど、技は限定されているし、心もまだ追い付いていない。

 俺の武技とヴァンパイアの身体能力を持ち合わせているルナは、理論上俺を圧倒できるはずだが、経験の差で今やたまに俺から一本取れるくらいのもそのため。


 まあ、むしろ一ヵ月間やそこらでここまでやれるようになっただけで、十分反則な気がするけど。

 それに逆に言えば、経験さえ積めば、ルナはかなり強い剣士になるってことだ。

 加えてルナには魔術という大きな武器があるから、ちゃんと魔術を戦闘に織り込ませれば練達者とも十分に渡り合えるだろう。






「よし、今日はここまでにしよう」


 あれからまた数十合の打ち合いを続いて、そろそろ日が昇る頃、俺は稽古を一旦打ち止めした。


「はい、ありがとう。あの、フィレンさん」

「ああ、ありがとう」


 ルナからタオルを受け取って、汗を拭いながら礼を言った。


「いいえ、ふふ」


 なんだか嬉しそうにしているルナの身体から、スーチンが出て来た。


『ルナちゃん、今日も右手を意識しすぎです……それでは剣先がぶれます。それと構える時は左踵を少し上げてください……』

「は、はい、スーちゃん!」

『それと、腕の脱力は途中から忘れています、それでは体重が乗れません……』


 これもまた意外なことに、刀術の稽古をしているスーチンは鬼教官のきらいがある。

 どうも昔基礎を教え込まれた時の師範の影響らしい。


「はは、じゃ俺は寝るから、二人もほどほどにね」

「あたしはもう少しスーちゃんと稽古してくる、おやすみフィレンさん」

『おやすみなさい、フィレンさん』


 早足で行ったルナとスーチンを見送った。

 ヴァンパイア化によって睡眠時間が減ったから、ルナはこうやって姉さんやスーチンと夜通しで稽古することもよくある。俺や姉さん同伴でモンスターを掃討することもしばしば、お蔭でモンスター素材は溜まる一方で、俺たちが通った後の道は安全そのもの。

 上達が早いのも頷ける。


 それにしても、最近のルナは自発的に何かをしようってのが多くなった。

 キツい稽古に打ち込んだり、探索者の知識を勉強したり、俺や姉さんがモンスターを掃討するのを手伝ったり。

 初対面から暫くの間、俺のマントの裾を握って後ろからてくてくとついて来るだけのルナを思い返すと、少し感懐深い。


 そして、俺の血を吸った後の表情を思い出させるような、大人っぽくて柔らかい笑顔も見せるようになった。

 女の子は早熟で、いつの間に大人になるってのは施設の人たちがよく言った言葉だ。

 ルナもいつの間に成長しているってことか。リースに見せたらさぞ喜ぶだろう。


 そんなことを考えてテントに戻ったら、俺の布団の上に姉さんが座っていた。


「姉さんも寝るのか?」

「ううん、少し話があるの」

「お、じゃ俺ちょっと体拭いてくるから」

「待って」


 タオルを取り出して、テントから出ようとした時、姉さんに止められた。


「私が拭いてあげる」

「お、おう……」


 タオルとポットを取り上げられ、いつの間に服も脱がせられた俺に、姉さんのひんやりした手の平とタオルが撫でていた。特に拒否する理由もないので、姉さんのされるがままになった。


「それで、話って?」

「フィー君、やはりルナの魔術というのは……」

「……ああ、ロントと同じだ」

「ヴァンパイアたちが皆、同じユニーク魔術が使えるか、それとも」


 それとも、ロントとルナの間に、何か繋がりがあるのか。


「さあ、何せヴァンパイアのことだ。レキシントン先生も知らないって言ったし」

「ルナちゃんとソラリスさんに言ったほうが良いと思う?」


 ルナの変化については、リースに報告しといた。

 しかしリースはロントと闘ったわけじゃないから、その関連性に気づいてなかった。


「うーん、まだよく分からないし、もう少しヴァンパイアに関して分かるようになったら」

「それが良いかもしれないね」

「まあ、どの道ルナはルナだ。たとえロントと何か関係があっても、それで何が変わるわけでもじゃないし」

「ふふ、そうね。それより、最近ルナちゃんと仲が良いのね? ううん、元々良かったけど、もっと慕われるようになったって感じかな」

「え、そう?」


 むしろ昔より自立してて、少し距離を置かれたように見えるが。


「そうよ、最近のルナやたらとフィー君のことを気にしてるし、フィー君の前にしか見せない笑顔もあるくらいだよ」

「そうなのか」


 確かに最近のルナは気が利くし、よく笑ってるようになったと思うが。

 ルナは素直ないい子だし、慕われるのも悪い気はしない。とりあえず距離を置かれるわけじゃないと知って、俺は少し安心した。


「まあ、ルナちゃんも成長しているってことね。はい、綺麗になったよ」

「ありがとう。じゃ俺は寝るぞ」

「うん、おいで」


 姉さんは座ったまま、太ももをポンと叩いた。

 俺は特に疑問と思わず布団に潜って、頭を姉さんの膝にのせて横になった。


「ふふ、えいっ」


 なぜかデコピンされた。


「いたっ、なんで?」

「久しぶりだったから、最近のフィー君すっかり一人前になってチャンスがなかったもの」

「そんな理由でするか普通」

「あらごめんね、痛かった?」


 癒すように、デコピンした場所に軽く口づけする姉さん。唇が柔らくて、ひんやりしてて気持ちいい。なぜか心が休まる。


「いや別に……おやすみ、姉さん」

「おやすみ、フィー君」








 さらに一ヵ月を旅して、ポーランから結構近いところまで来ていた。

 かなり南の地域のため、もう春なのにまだ寒い。


 この二ヵ月間、またゲゼル教国の手の者が来るかと警戒していたけど、特にそう言うのなかった。

 俺たちを見失ったか、それともアノーラが俺たちのことを報告してないのか。

 あの性格から考えれば、後者のほうかもしれないが、楽観はしないほうがいいだろう。


 今日は自由都市のガルーダについて、ここに宿泊することになった。

 ガルーダは数少なくドワーフと交流がある都市、質の良い装備を輸出している。

 しかし俺たちはそれを目当てにここに来たわけじゃなく、あくまで旅の通過点、ついでにドワーフと話を付けたい。


 あくまで噂だが、ドワーフなら、アダマンティウムを強化(エンチャント)する方法を知っているかもしれないと、ブライデン町の魔道具屋さんが言った。

 鍛治ならともかく、強化(エンチャント)においてはエルフに一日の長があると自負してるアイナさんが、そんなことあるわけがありませんって珍しく不機嫌になったが、言うだけならただ、ということだ。


 それと、アイナさん自身も、ドワーフたちに頼みたいことがあるらしい。

 ナタボウが折れて、得物を失った俺のために、アイナさんは張り切って最高な武器を作るって言い放ったが、どうやら意気込みすぎて難航しているようだ。

 ドワーフたちに何を相談するか知らないが、上手くいってほしい。


 ちなみにルナの刀は特に変哲もなく、ただ普通に頑丈な武器だ。

 アイナさんが言うには、まずそれで戦闘スタイルを確立して、それに合わせて最適な刀を作ってくれるとのこと。さすがとしか言えない。


「さて、どうやらドワーフと話を付けるか……やっぱりまずは商会の仲介か」


 荷物を宿の床に放り出して、これからの計画を考えるその時、


「すみません、フィレン・アーデル及びレンツィア・アーデルという方はいらっしゃいませんか?」


 下の階、宿のロビーから低い声が伝わってきた。

 姉さんと視線を交わして、頷いた。

 予備のバスターソードを掴んで、ロビーへ降りた。


「フィレン・アーデルだが、何の用だ?」


 ロビーには数人の旅人が居るが、一際目立ってるのは、一人の男性。

 髭がもじゃもじゃで顔の半分を隠し、手足は大きいけど身長はルナと同じくらい、紫と金色のローブには火と鍛治を司る神ドルディンのシンボルがある。


「ドルディン教会の修道女(シスター)、ヴァルナと申します、フィレン・アーデル殿、貴殿に御頼み申します」


 低い声で、そう言われた。


「へ?」


 修道女(シスター)?どこ?


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