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不死の姉とネクロマンサー  作者: キリタニ
第一章 これからの姉弟
9/229

9 はじめてのおつかい

※3/3 魔術紹介について添削。

 この時代で確立された魔術体系は三つの大きな系統がある。


 一つは魔術師が使う秘魔術、魔術と言ったら大体これを指す。

 一つは神官や聖騎士たちが使う神術。

 一つはユニーク魔術、一部の人たちにしか伝われない原理不明な魔術、つまりその他。

 ちなみに姉さんの降霊術はユニーク魔術に属している。


 秘魔術の中には、さらに八つの系統があり、死霊魔術もその一つ。

 八つの系統があれど、大体の秘魔術師は二つから三つの系統をしか自由に扱えない、他の系統も使えなくはないが、失敗しやすいか長時間の詠唱が要る。

 しかし、州長アイン・ラッケンは死霊魔術以外の総ての秘魔術を実戦レベルで自由に駆使できるらしい。それも十八歳の頃から。


 長寿且つ魔術に長けるエルフならともかく、十代の人間としてはまず考えられない。

 そんな凄腕な魔術師であるアイン・ラッケンは、数年間州政をほったらかして探索者として名を馳せた後、どういうわけか急に領地に戻って執務に掛かり始めた。


「それもたった数年で病に倒れたってわけか」

「ああ、そう聞いている」

「ふーん、可哀想というか、変わった人だね」

「俺としちゃ、そんなことに興味持ってるお前らも相当だが……それより、俺たちをどうするつもりだ?」

「別にどうもしないけど? そうだ、一つ知恵貸して、そうしたら帰っていいよ」

「貸すほど頭は良くないが、なんだ?」

「もし州長に面会を願いたいなら、どうすればいい?」

「はん、お前らも取り入れたい口か。やめといたほうがいい、州長はまったく人と会わないと聞いているぞ」

「そこまで酷い病気か」

「さあな、ただの人嫌いもありえる、ここ数年人前に出てなかったしな」


 州長に限らない話だが、領主はお気に入りの探索者を私兵として雇入れて、最終的に家臣にさせることもある。

 もちろん俺たちはそんなことに興味はない。

 アイン・ラッケンの起伏に富んだ人生もだけど、凄腕の魔術師であることが最も気になるところだ。


 適合者はその常人離れの力によって、何かの偉業を成すことが多い、とはフォー=モサの話だ。

 つまり、適合者を見つけ出すには、とりあえず「凄い人」を探すのが一番手っ取り早い。


 もちろん凄い人イコール適合者ってわけではないので、もっと正確な判別方法が要る。

 フォー=モサ曰く、ナタボウを手にして適合者をこの目で見れば自然に分かる、とのことらしい。

 詳しいことは教えて貰えないが、兎に角アイン・ラッケンをこの目で確認しなければならない。ヤツが病気に罹ってるっていうなら猶更だ。

 死んだ後では遅い、適合者はこの刃の元で死んでもらわねば。


 しかしアイン・ラッケンはここ数年、てんて人前に出てない。

 つまり彼に会いたいなら、ある程度州長家に食い込まなければならない。

 もちろん潜入するのも一つの手だが、それも内情に詳しくないと危険だ。


「そういえば、州長家はギルドに依頼を出してるって話が」

「どんな依頼?」

「さあ。ただ普通の依頼ではなく、ギルドに腕の立つ探索者も選んでほしいって話だから、それなりに重要な任務だろう」


 姉さんは俺と目が合った。どうやら乗り気のようだ。

 その依頼を遂行できれば、州長家ともコネができる、か。

 それで州長本人と会えるかどうかわからんけど、とっかかりとしては悪くない。

 そう考えて俺は姉さんに軽く頷いた。


「わかった、情報提供ありがとうね」

「別に、その代りに見逃してくれるのだろう」

「ええ、じゃ私たちはこれでお先に。お仲間たちにもよろしくね、あと魔術師のお嬢ちゃんには肩折れてごめんねって言っといて」

「なんなんだお前らは……」


 どこかやり辛そうに頭を掻いたヴァイトを残して、俺たちは裏路地を出た。




「では、貴方達は翡翠龍の迷宮の中に《餓龍》に遭いました、と?」

「がりゅう?」


 あの後、俺たちは宿に戻って風呂に入った後、食事も済ました。ちなみに姉さんは食べられないので俺が二人分を平らげた。

 ようやく人心地がついて、ギルドに戻ってダンジョンでの過程を報告することにした。

 今はギルド内の一室にいる、小さいなテーブルの向こうにはさっきの受付の人だ。

 さっきは少し気が立ってて気にする余裕なかったけど、愛想の良い、人懐っこい笑顔の絶えない女の人だ。

 年は姉さんと同じくらいか。名前はフェリという。


「ええ、迷宮の中に出没する巨大な蛇龍(リンノルム)のこと、あんまりの凶暴さから他のモンスターを食らうこともありますので、餓龍と呼ばれています」

「とんだ暴れん坊だなそれ」


 地上のモンスターは普通の生物と変わらない。食うし産むし、生存競争で他のモンスターか同種とさえ争うこともある。

 だがダンジョンの中のモンスターは違う、ヤツらは基本食わなくても生きていける。


 偉い人の説明によると、魔力から生まれたモンスターは魔力があれば生きていけるが、地上では空気のなかの魔力が薄いから生物を食らって補充する必要がある。

 だがダンジョンの中には主であるドラゴンの魔力が充満しているから別に食べなくてもいいらしい。

 尤も、それでも己の凶暴性ゆえにモンスターを食い散らす、所謂迷宮荒らしがいる。

 俺たちが遭ったあの蛇龍(リンノルム)がそれだ。


「そういえばあいつ、周りのモンスター踏み潰していたな……」

「ダンジョンの中にはそう何匹蛇龍(リンノルム)もいるはずないし、恐らくその餓龍でしょう」

「それにしても、二人ともよく生還しましたね、餓龍は蛇龍(リンノルム)の中でも特に強い個体らしいですよ?」

「ふふふ、うまく逃げ延びただけだわ」

「法螺を吹いてると思わないか?」 

「いいえ、餓龍のことを知ってるのは一握りの探索者だけです。ここに着いたばかりの《フィレンツィア》が嘘つきたくてもできないはずです」


 フェリさんが言うには、どうやらあの蛇龍(リンノルム)は最初に出てきた時は大きな騒ぎを起こして、討伐隊も結成したのだが、


 ここ十年では全然現れてないらしい。

 そもそも蛇龍(リンノルム)ほど強力なモンスターはダンジョンではあんまり出てこないのだ。

 まあ、あれくらいの化け物がちょくちょく出てくるダンジョンなんて、誰も攻略したくないだろう。


 あれ、十年前の餓龍のことを知ってるってことはフェリさん……いやどこかの資料で読んだだけかもしれない、うん。

 弟レベルカンストしている俺は年上の女性の年齢を詮索などしない、たとえ心の中でもだ。


「じゃ報告も済んだし、一つ頼みたいけどいいか?」

「? 何でしょう?」

「州長家からの依頼があると聞いてる、それを受けたい」

「あら、二人とも意外と情報通なんですねえ」

「そのへんに噂を聞いただけだ」

「そうですか。しかしですね……その依頼は公開していません、私たちギルドから適任の探索者を推薦することになっているのです」

「それで?」

「すでに推薦する一組の探索者が決まったのです」

「そこをなんとかねじ込んでもらえないか? 州長家の依頼だ、万全を期したいだろう」


 思わず袖の下を渡したいが、姉さんに視線で止められた。

 ここのギルドの生態は未だよく判らないし、そういうことは控えたほうが良いかもしれないな。

 っとその時、姉さんが言った。


「すみません、それならこの依頼を受けたいんですけどいいかな?」

「姉さん何いって」

「これは……なるほど、そういうことですね」


 フェリさんは姉さんから依頼を書いた張り紙を受け、何やら得心してるようだ。

 ていうか姉さん、いつの間に掲示板から依頼取って来た。


「姉さん、どういうこと?」

「フィレンさん、これを見てください」


 フェリさんから渡された張り紙を読んだ。

 トメイト町の近隣からアンデッドの目撃情報があって、探索者を派遣して捜索をして貰いたいとの旨だ。

 よくある捜索系の依頼、特に変わったところはない。


「フィー君、ここ見て」

「あ」


 よく見れば、端には数字の3が書かれている。

 捜索系の依頼は成功すればそれなりの金が入るのだが、見つからない場合は報酬が激減する。

 そしてこの数字は、今まで3回もアンデッドを見つけることができなかったっていうことだ。

 つまり、誤報である可能性が高い。

 こんな依頼を受けたい探索者はあんまりいないし、そもそも依頼に出すことは少ない。

 この依頼主はよほどギルドに対して影響力がある人かもしれない。

 それなのにいつまで受ける探索者がいないのではギルドも困ってるだろう。


「つまり、レンツィアさんはこの依頼を受ける代わりに、州長家の依頼に参加させてっと仰いますよね?」

「ええ」

「そこまで功名心をお持ちするような方には見えませんが……。言っておきますが、これは見つかりませんでした、では済ませないものですよ?」


 そんなじゃまた掲示板に戻るだけだろう、今度は4と書かれて。


「勿論、依頼を受ける以上遂行するつもりよ、それで腕も証明できるでしょう?」

「そうですね、こちらとしても悪い話ではありません。一度担当者と話してきます」

「了解、どれくらい待てばいい?」

「すぐ戻ります、その人は仕事好きなのでいつもいるはずです」


 そう言い残して、フェリさんはギルドの奥へ戻った。


「姉さん、よくこんなの見つけたね」

「掲示板を見てた時から変だと思った、こんな依頼大体三回目からギルドがまともに取り扱わないはずだもの」

「依頼主は……トメイト町の町長」

「その人はここの商会の支配人の一人でもあるらしいって周りの人から聞いたよ」

「へー」


 喋てるうちにフェリさんが戻って来た。本当に速いな。


「話が纏まりました。この依頼、《フィレンツィア》にお願いしたいと思います」

「では?」

「はい、アンデッドを発見した証拠を提出していただければ、依頼遂行と認め、州長家の依頼へと参加を認めます」

「よしきた」「やたー」

「州長家の依頼は14日後ですので、それまでには成功して戻ってくださいね」

「ここからトメイト町までは何日かかる?」

「馬車なら二日ほど掛かります」


 この国での移動は馬がメインだ。ペガサスやグリフォン、もしくはワイバーンを手懐けて騎獣にしている人もいるようだが。

 移動時間を除いて、捜索できるのはおおよそ十日か。いや、あるいは……


「わかった、じゃ早速準備に取り掛かるよ、行くぞ姉さん」

「はいはい、急がないの。それじゃねフェリちゃん」

「ちゃん……ですか。はい、ではご武運を」


 頭を下げたフェリさんを背にして、俺たちはギルドを出た。

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